03-43.勢力拡大
「というわけなんだが」
ベルトランが帰った後、ディアナ、パティ、スノウをファムの部屋に集めて話の内容を伝えた。
「「……」」
スノウはファムをしっかりと見据え、ファムはチラチラとスノウへ視線を送っている。
「二人とも思い出せるか?」
「……うん。わかるよ。ボクは忘れてないから」
「まさか二歳の頃の記憶があるのか?」
「流石に無いよ。でも優しくて楽しいお姉ちゃんの事は薄っすら覚えてた。それで小さい頃に聞いた事があったの。昔遊んでくれたあのお姉ちゃんは誰って。それで母様が教えてくれた。それ以来ずっとフラビア様のお名前だけ覚えてたの。学園に入学した時も真っ先に会いに行ったんだ。結局声を掛ける勇気は無かったけど。それでもそのお姿だけは……ね」
ファムは恥ずかしそうに笑って最後は言葉を濁した。
スノウの失踪は知らなかったようだ。そもそも公にはされていないのだろう。しかしそんな所まで二人の境遇は似ているのだな。まさか何か関係があるのだろうか……流石に考えすぎか。
「ごめんなさい。覚えて無い」
スノウはファムの手を握って真正面からその顔を覗き込んだ。どうにか思い出そうとしているのだろう。スノウにも思う所があったのかもしれない。
「いえ、そんな……。クーちゃんも言った通りですから。どうせ小さい頃の話しです。お姉さ、フラ、えっと、スノウ様が記憶喪失でなかったとしても覚えてはいらっしゃらなかったかと。それに元はと言えばお会い出来なくなったのもうちのせいでして……その……ごめんなさい……」
「ううん」
「……その、」
「友達。なろう。今からでも」
「はい! ぜっ是非!」
「なら話し方」
「えっと。うん。お姉ちゃん」
「よろしく。ファティマ」
少し驚いた。スノウがそんな事を言い出すとは。
スノウも少しずつ変わり始めているようだ。ミカゲの努力の成果だろうか。ベルトランとの再会がキッカケだろうか。ファムがスノウの心を動かしたのだろうか。いずれにせよ喜ばしい事だ。何時までも椅子やお人形扱いでは健全ではないからな。スノウが前向きに生きられるなら私も全力で応援しよう。
「それでディアナ。勝手に許可してしまったのだが」
「もちろん構わないわ」
「うむ。ありがとう」
「二人から聞ける事も色々とありそうね」
だろうな。妹さん達はファムやスノウ本人よりもそれぞれの事情に詳しい筈だものな。
「パティは二人と面識は無いのか?」
「あるわよ。流石に深い付き合いはしてないけどね。二人は一年生なの。どちらも優秀な子よ。ちょっとした有名人ね」
もしかしたら私も名前くらいは聞いた事があったのだろうか。頻繁にユーシャと感覚共有してるんだし。
「パティに話を持ってきた方が手っ取り早かっただろうに」
「出来るわけ無いでしょ。忘れてるの? 私一応王女よ?」
そうか。王女を使いっ走りにするようなものなのか。あくまでパティは公爵邸に滞在しているだけの扱いなのだろう。本来許可を出すのはパティではなくディアナだ。パティが出来るのはディアナに確認しておくねという返事だけになってしまうのだろう。
ややこしいな。パティも公爵閣下の娘ではあるのに。少なくとも本人達はそういう認識だ。けど正式に養子縁組したわけでもないのだものな。公表されている限りでは未だパティはカルモナドの姓を名乗る王女のままなのだものな。
「私とベルトランくらい気楽に済ませられればな」
「気楽過ぎよ。アロハで大貴族間の顔繋ぎ役を担当するなんて前代未聞よ」
それはそう。
「とは言え今回はあくまでご令嬢同士のものだ。当主本人が関わっているわけでもあるまいに」
「実はそう簡単な話でも無いのよ」
「何か懸念でもありそうな物言いだな」
「あるわよそりゃぁ。私達散々悪目立ちしてきたんだもの。王女二人に、陛下が娘を預ける程信頼する公爵家。巷で話題の悪名高き妖精王。そこに足繁く通う騎士団長。歴代トップ成績で首席卒業した異国の才女。今回はそこに」
「ちょっと待て。今なにか妙な事を言わなかったか?」
「妙な事?」
「誰が才女だって?」
「ロロ先輩」
なん……だと……。
「ああ見えて凄いんだから♪」
ああも何も丸見えだろうが……。何時でも上はビキニ一枚しか付けておらんのだ。凄いのは認めるがな。いや、身体の話じゃなくて。
「……すまん。続けてくれ」
ダメだ。きっと私は納得できない。聞くだけ無駄だ。
「あとそうだ。ユーシャの件もあったわね。とんでもない魔力持ちの少女が国境で発見されたって。まあでもこの話はたぶん妖精王騒ぎで有耶無耶になったっぽいのよね」
そう言えばそんな話もあったな。私が目立ったせいで私がその少女だった事になったのだろう。
「まあともかくよ。私達は目立ちに目立っているわけよ。城の中どころか王都中で話題になっていることでしょう。そんな私達の下に、魔術と騎士の名門が最も優秀とされる少女達を送り込んでくるわけなの。これは何か匂うと。そう考える者達も決して少なくはないでしょうね」
妹さん達が来る事と各家の思惑とは関係無いだろうに。とは言え周囲の者達にとってはそれこそ関係の無い事か。ただ結果だけを見て判断するのだろう。送り込んだのは当主の判断だと勝手に思い込むのだろう。
「なんだかパティ、楽しそうじゃないか?」
話してる途中から段々トーンが変わってきてた。何か楽しい事にでも気付いたのだろう。
「ふふ♪ どうする? 必ず後に続こうとする者達が現れるわよ♪」
「つまりあれか? 私は邪神か何かなのか? 少女を生贄に捧げてご機嫌を取ろうとでも?」
「違うわ。力が欲しいのよ。魔力壁の性能は知れ渡っているのだもの。だと言うのに私達以外で誰一人として再現に至った者はいない。だから皆あの技術を盗み出したいの。それに騒動の渦中に種を仕込みたい者もいるでしょうね。私達がこれから先どんな騒ぎを引き起こしていくにせよ、大きな影響力を持つのは間違いないわ。しかもここは絶対安全よ。妖精王とかいうよくわからない存在が少女達を食べちゃう可能性はあるかもだけどね♪ でもまあそれはそれよね。偉大な力を持つ妖精王と親族になれるならある意味好都合よね。なんなら出戻りでも大歓迎でしょうね。莫大な魔力を持つ子供でも生まれたなら最良よ。そのまま自らの血筋に組み込むも良し。王族に嫁がせて地盤を強固にするも良し。どう転んだって莫大な利益を生み出してくれるでしょうね」
いやいや、この国前向きすぎだろ……。
そういうのって普通忌避して打倒しようとするものではないのか? わからないって怖いものではないのか? 何で興味津々であわよくばなんて思えるの? 確かに国王からしてあれだけどさ。どいつもこいつもアグレッシブ過ぎるだろ。
「また順番待ちが増えるの? そのうちボクは運が良かったなんて思うようになるのかな。一桁に入れただけでも特別なのかもしれないね」
勘弁してくれ。ユーシャが家出してしまう。
「後一年でお屋敷をいっぱいにしてみるのも楽しそうね♪」
なんでディアナまで乗り気なのさ……。
まさかさっきので開き直ったの?
「パティ。くれぐれも騒ぎを広めるな。放課後迎えに行くなどしてくれるなよ」
「ナイスアイディアね♪」
「やりましょパティ♪ 私が許可するわ♪」
「「イエ~イ♪」」
やぶ蛇だったかぁ……。