03-42.想定外の来客
「よう! 大将!」
「なんだベルトランか。私はてっきり」
「アンヘル家のもんだと思ったんだろ?」
「知っていたのか。いったいどこから漏れたのだ」
「安心しな。この家からじゃねえよ」
もちろんそこは疑ってなどおらんとも。
「マルティナ・アンヘル。アンヘル家ご令嬢からの依頼だ」
ファムの妹か。
「何故それで騎士団長が出張ってくるのだ?」
「いやいや。そんなわけねえだろ」
まあアロハだものな。騎士団長モードでは無いよな。
「うちの妹からどうしてもって頼まれてな」
「さっさと全部吐け。一々区切るな」
「なんだ? どうした大将? 機嫌悪いのか?」
「……すまん。警戒していただけだ。お前に当たるのは筋違いだった」
「いや、悪い。気が利かなかったな。そりゃそうだよな。わざわざ俺が出張る案件なのかって思うよな。こんな格好してたってどうしても警戒くらいするよな。だがまあ、諸々忘れて話を聞いてくんな。今日の俺はあんたのダチとして来てんだ」
「なるほど。マルティナ嬢とベルトランの妹に接点があるわけか」
「おうよ。同級生の大親友だぜ。ちなみにフラビア、じゃなかった、スノウはファティマ・アンヘルの姉貴分を気取ってた事もある。まあ随分と昔の話だがな。スノウが五つやそこらの頃だ。スノウはもとよりファティマ嬢の方も覚えてやしねえだろうな」
スノウが二十二だから三つ下か。二歳の頃じゃ無理もないな。
「世間とは狭いものだな」
「大貴族なんてそう数はいねえんだ。当然の帰結だろ」
魔術の大家と騎士の大家だものな。方向性は違えど代々この国に仕えてきた事に代わりはない。接点があってもおかしくはあるまいか。
「ファティマ嬢はまあ、色々あって箱入りだったからな。それでスノウとの接点も消えちまった。ファティマ嬢が学園に入学した頃は俺もあまりスノウを構ってやれてなかったからなぁ」
と言うより当の本人から避けられていたのだろう。ニコライがそんな話してたし。
そもそもスノウ自身、そこから然程時を置かずに行方を眩ませてしまったのだ。きっとその頃から予兆はあった筈だ。幼い頃に多少接点があった程度の相手を気遣える余裕があったとも思えない。
もし仮にそこでスノウとファムが再び友となれていたならお互い道を間違える事も無かったのだろうか……。
「すまんな。ファティマは現在療養中だ。連れてこれんかった」
警戒していたから敢えて連れてこなかったのもあるけど。まさかベルトランが来ているとは思わんかったからな。
「構わねえ。必要な事は確認できたしな。後は伝言を伝えりゃお終いだ」
「それで?」
「まあ要約するとだ。姉ちゃんをよろしくとさ。そんでもってお見舞いに行きたいから許可をくれって話さ」
いくら長年国に仕える大家のご令嬢でも、接点も無い公爵邸に気軽に遊びには来れんか。それでベルトランをあてにしたわけだ。
「ふむ。了解だ。こちらは何時来てもらっても構わん。その際には是非スノウの妹さんにも来て欲しい」
「おう。ありがとな。あいつも喜ぶ」
「いやこちらこそ。ベルトランに間に入ってもらって助かった」
マルティナ嬢としては父君に頼むわけにもいかんものな。
「アンヘル家の当主とはどのような人物なのだ?」
「悪いお人じゃねえよ」
「そうか。それを聞けたのも収穫だな。改めて礼を言う。それと先程の態度も謝罪しよう」
「良いってことよ♪ だがどうしてもってんならデートの誘いに乗ってくれても良いんだぜ?」
「なんだ。まだ諦めていなかったのか。デートは出来んが遊びの誘いなら何れ付き合おう。その時はスノウや妹さん、名はなんと言うのだ?」
「ヴァレリアだ」
「その子も一緒にだな。四人で行こう」
「そのメンツだと俺要らなくねえか?」
「何を言う。気を遣ったからこそ四人だけなのだろう。アンヘル姉妹まで呼べばいよいよ肩身が狭くなるだろうに」
「妹連れって時点で口説かせない気満々じゃねえか」
「当たり前だ」
「ツレねえなぁ」
「悪いな。こう見えて身持ちは堅いのだ」
「ふっ。よく言うぜ」
まあ、うん。自分でもツッコミそう。
「まあ何にせよ、諸々片付いてからだな」
「そちらも頼んだぞ」
スノウの安全が確保されねば出歩かせられんからな。
「あ、そうだ大将。今度はギルドに喧嘩売ったんだって?」
「それはどこから漏れたのだ?」
「さてな。だが流石は大将。騒ぎに事欠かねえな。頼むから程々にしてくれよ?」
「うむ。決める時は一気に決めるつもりだ」
「また派手に行進でもするのかい?」
「まさか。次は静かにスマートに収めてみせるとも」
「うさんくせぇ」
「ふっ。そう言っていられるのも今の内だ。きっとベルトランも驚くぞ」
「驚かさんでくれと言ってんだけど? 伝わってねえの?」
「それは無理な注文だ」
「そっすか」
私としても騒がせたいわけでは無いのだがな。こればかりはな。ふふ♪




