03-40.最終面接
「うふふ~♪ えへへ~♪」
二度あることは三度ある……。
「あの綺麗な学生さんが姫様かな? 正妻様なんだよね? クーちゃんとお揃いの指輪もつけてたし間違いないよね♪ 優しそうな人だったね♪ ふふ♪ 思った通りだったね♪ そんな人がボクの事も認めるって言ってくれたんだよね♪ えへへ♪ 嬉しいな♪ これでもう何の心配も無いよね♪ もう一人の涼しそうな人もせくしーで美人さんだったね♪ あの人は側室さんなのかな? 指輪はしてなかったよね? それとも愛人さん? あの格好はクーちゃんの趣味かな? ボクもあの格好するのかな? でもボクおっきくないよ? 見ても面白くないんじゃないかなぁ。アー君はどう思う? 指輪貰えると思う? どっちかな♪ どっちでもいっか♪ 正妻様までああ言ってくれたもんね♪ 怖いもの無しだ♪ クーちゃんはまだかな♪ 他の家族も許してくれるかな? ふふ♪ でもダメだよね♪ 先に許可貰わないとだよね♪ つまりクーちゃん勢いで求婚してくれたってことだよね♪ それはそれで嬉しい♪ もう♪ 増々好きになっちゃう♪ なんだか不思議だなぁ。ボクこんな惚れっぽかったかな? クーちゃんが特別なのかな? 運命の相手ってやつかな? えへへ♪ そういうのは信じてなかったんだけどなぁ~♪」
待てパティ。そんな目で見るな。
「やったの?」
「いや、勿論加減していたとも」
魔力を流し過ぎんように細心の注意を払っていた。多少は影響もあるだろうが、それでも微々たるものであった筈だ。
「ミカゲと似たような体質なんじゃない?」
なるほど。その線もありえるのか。よっぽど相性が良かったのかもしらんな。それこそまさに運命の相手と言う程に。
いや、運命なんて言い出すと大袈裟か。そもそも私の運命の相手は間違いなくユーシャだ。依存症の度合いは運命なんぞ関係の無いただの体質の話だ。流石に夢見る少女にそんな事を語るつもりは無いけども。
「そろそろノックしてみない?」
「どうやら遅かったようだ」
部屋の扉が開け放たれた。アウルムが待ちきれなかったようだ。器用に私の手を引いて部屋の中へと入っていく。
「えっと……聞いてた……の?」
「何の話だ? 私達は今戻ってきたところだ。なあパティ」
「ええ。まさかアウルムが出迎えてくれるなんてね♪ すっごく驚いたわ♪ やっぱりこの子はとっても賢いのね♪」
アウルムを抱き上げて頬ずりするパティ。それを見たファムは少しだけ警戒を解いてくれた。魔物好きに悪い人は居ない理論的なやつかもしれない。パティがベテラン冒険者だと知ったら怒るかしら?
と言うかその辺も改めて話しておくべきだよな。ファムに頼むのは魔物達の世話だけとは言え、私達自身はこれから大くの魔物を仕留めるつもりなのだ。冒険者の伴侶なんぞ御免だと言うならファムの事は諦めるしかなくなるだろう。
これから一緒にいればもっと魔力を流してしまう事もあり得るのだ。ファムが完全に抗えなくなってから伝えるなんて最悪だ。もう手遅れかもしれんが……。
「ファム。これから幾つか大切な話をさせてもらう。正直ファムにとって望ましくない内容もあるだろう。だからその時は遠慮なく言っておくれ。どうしてもと言うのなら強引に引き止めたりはせん。私はファムを傷つけたいわけではない。時に人はどうあっても歩み寄れない場合もある。それでもこれは話さねばならん事だ。しかしどうか我慢だけはしないでおくれ。自分の心に正直でいておくれ。先ずは冷静に話し合おう。結論を出すのはそれからだ。約束してくれるか?」
「……クーちゃん?」
「そう心配そうな顔をするな。共に生活を送るならば決め事をするのも当然なのだ。それどころかファムは私達の生業すら知らぬのだ。話し合う事が多いのもまた当たり前なのだ。中には意にそぐわぬ事もある筈だ。しかし私達は互いに歩み寄れる事を願っている。だからこそ話すのだ。わかるな?」
「……うん……聞く」
「ありがとう。ファム」
さて最初は……。
「……先ずは職業の話だ。私達は冒険者だ。魔物を狩り報酬を得る。アウルムを友としたのは竜を従える為だ。そしてその竜の助力を得てより多くの魔物を狩るつもりだ」
「竜? ドラゴンともお友達になれるの?」
あれ? 普通に興味持ってる? 冒険者に抵抗は無いの?
「今のままでは無理だ。ファムに力を借りたいと考えたのもそれが理由だ。私は魔物の知識が欲しい。もっとアウルムの事を知りたい。竜の事もだ。どうしたら私の力を届かせられるのか知りたいのだ」
「力? 魔物を従える力?」
「そうだが少し違う。魔物だけではない。私はどんな生物であろうとも制御化に置くことが出来る。私の魔力を流された者は私に好意を抱くのだ」
「それって……」
「そうだ。私はファムにも魔力を流した。衰弱していたファムを治療する為とは言え卑劣な真似をした」
「……そんな言い方しないで」
「ファム。お前は私を責めて良いのだ」
「やめてクーちゃん。聞きたくない」
「約束した筈だ。先ずは話を聞いておくれ。それから考えてみておくれ。私は逃げも隠れもせん。ファムの返事を真摯に受け止める。ファムもそうしておくれ。ゆっくりで構わん。ファムの考えも聞かせておくれ」
「……」
「まあそうは言われても難しいか。突然こんな話をされてはな。すまんな。先に全てを伝えるべきだったのに」
「……ううん。ボク嫌じゃない、よ?」
「そうか。ありがとう。そう言ってもらえて安心した」
「……クーちゃん、不安、なの?」
「もちろんだ。ファムに嫌われるのは悲しいからな」
「でも……ボクがクーちゃんを……好、き……なのって」
「正直私にもわからん。私にはそういう力があるのだが使いこなせているわけではなくてな。どの程度の魔力量で影響が生じるのかは未知数だ。幾度か実験の機会にも恵まれはしたのだが、そもそも受け取り側の体質に依る可能性も高い。ファムは特別に影響を受けやすかったのかもしれん」
「……やっぱり聞いてたんだ」
「……すまん」
「……」
「……」
「……でも……それならきっと関係ないと思う」
「……そうだな。その可能性もある。影響が出ないよう最低限に留めたつもりだ。誓ってそれは本当だ」
「……別に嬉しくない。ボクの事が欲しいからいっぱい流したって言ってもらった方が良い」
「……そうか。すまん」
「そこで謝らないでよ」
「……うむ」
わからん……。
「クーちゃん」
「なんだ?」
「それやって」
「……まさか魔力を大量に流せと言っているのか?」
「うん。ボクをクーちゃんのものにして。クーちゃんの意志でそうしてほしいの」
「ダメだ」
「……そっか。やっぱりクーちゃんはボクの事なんか要らないんだね。ただの責任感で誘ってくれてるだけなんだね」
「違う。それは違うぞファム。私はそんな好かれ方なんぞしたくないのだ」
「ならアー君は? クーちゃんは魔物を本当に友達だと思ってるの?」
「それは……」
「わからなくは無いよ。多くの人がペットに向ける感情ってそういうものだもんね。家族で友達ではあるけど人間とは分けて考えるんだよね。彼らが私達の気持ちを真に理解できると思えないから。人は無意識に見下してしまっているから。けどアー君は違うよ? この子達はとっても賢いんだよ? そんな風に勘違いしていたら何時かいなくなっちゃうよ?」
「……そうだな。私は躊躇なんぞしなかった。端っから意思の疎通なんぞ不可能だと信じ込み、アウルムを一方的に攻撃して支配下に置いた。一方で人間相手であれば尻込みする。力で生み出された好意ではなく、純粋に心の奥底から湧き出すものを望んでしまう。……傲慢だな。矛盾しているよな。これで友達だなどと主張しているのだから」
「ボクもペットで良いよ」
「やめてくれ」
「ボクの話も聞いてくれるんでしょ?」
「……ああ」
「ボクはアー君と一緒がいい。アー君はクーちゃんの事が大好きだもん。きっとクーちゃんの力は凄いものなんだよね。アー君だって抗えないものなんだよね。きっとそんな気持ちに身を任せられたら幸せだと思う。何も気にせずクーちゃんを好きで居続けられるんだから。ほら。アー君を見てみて。今の話聞いても怒るつもり無いみたいだよ。どころか心配してくれてるよ。クーちゃんの事恨んだりなんてしてないよ」
アウルムは丸印を作って見せてくれた。
「すまんな。アウルム」
今度は親指を立てるアウルム。気にするなとでも言ってくれているかのようだ。
「だから。ね? いいでしょ?」
「……ダメだ。それでも認められん」
「何がダメなの? ちゃんと話してくれるんでしょ?」
「……それは」
「ファティマさん。横入りはダメよ。皆が似たような事を望んでいるの。実はエリクの力はただ好意を植え付けるだけのものではないの。だから皆がそれを欲してる。ファティマさんはその最後列に着いただけ。今は順番を待ちなさい」
「えっと、」
「あ、ごめんなさい! 私はパトリシア。エリクの恋人よ。自己紹介が遅くなってしまったわね。このタイミングで言うのもなんだけど、改めて歓迎するわファティマさん。私の事はパティと呼んで。私もファムって呼ばせてもらうわね」
「あ、はい。パトリシアさ、ん……? えっと、もしかすると第十八王女殿下であらせられますでしょうか?」
「そうだけど敬語はいらないわ。私達は家族になったんですもの」
「そう……です、よね……じゃなかった。そうだよ、いやいや! 無理でしょ!? 王女殿下にタメ口なんて!?」
途中から独り言になってるな。
「ファム。慣れなさい。私も年下だからって遠慮しないわ」
「はっはい!」
まだ時間がかかりそうだ。
「えっと、それでだな」
「あ、うん。そういう話しなら了解です。待ってます。大人しく」
一旦落ち着いて考えてもらうとしよう。先延ばしにはなってしまうが、今はそれしかあるまい。
「今の話しでもう一つ確認したいのだが。ファムは冒険者に抵抗は無いのか? 金の為に魔物を狩る者達なのだぞ?」
「なんで? 必要な職業でしょ? ボクも普段から護衛をお願いしたりしてるよ?」
???
「ああ。そういう事? それはそれだよクーちゃん。ボクは過激な愛護団体の人じゃないんだから。ボクだって魔物の事を知るために解剖だってするよ? 冒険者だって大切な職業だ。人の生活を脅かす魔物を討伐したり、生活を豊かにする為に魔物から素材を剥ぎ取ったり、ボクみたいな生きた魔物を間近で観察したいなんて酔狂者の護衛をしてくれたり。色んな形で社会を回してくれているんだよ。特段に忌避するような職でもないでしょ?」
なるほど。その辺りは折り合いを付けているのか。
私はどこかファムを子供扱いしすぎていたのかもしれん。少々小柄な体躯ではあるけど立派な成人女性だ。勘違いせんように気を付けよう。
「そうだな。ファムの言う通りだ。ならば遠慮は要らんな」
「うん♪ いっぱい頼ってね♪ ボクも頑張るよ♪」
「良かったわ。それなら次の話をしましょう」
ようやっと本題だな。だいぶ右往左往してしまった。
「ファム。さっきも言ったけどあなたは順番待ちの最後尾に並んでもらうわ。今エリクには三人の恋人と三、四、いえ、五人の婚約者候補がいるの。ファムにはその五人に加わってもらうわ」
「……あ、はい」
あかん。ファムのテンションが一段下がった気がする。
「えっと、つまり九番目……クーちゃん?」
「まあ、あれだ。内二人はちょっと毛色が違うからな。実質七番目だ」
「大して変わってない……」
それはそう。
「順番は私含めた三人が最優先よ。それでね。その中の一人がエリクのハーレムに納得しきれていないのよ。だから当面その子の前でだけは言及しないであげてくれる?」
「えぇ……」
そりゃそんな顔もするよな。
あと私的にはハーレムの主はあくまでパティなのだが。まあそこは言わんとこ。いい加減無理も出てきたし。
「ごめんね。いずれこの問題についても話し合いましょう。今は取り敢えず納得して頂けるかしら?」
「わかり……ました……」
乱暴過ぎるぞ……。
「話はこんなところかしら?」
「ファムからも何か聞きたい事はあるか?」
「えっと……その……出来れば……なんですが……」
「ふふ♪ 良いわよ。エリクと二人で話したいのよね。アウルム。私達は席を外しましょうか」
「あ! 待って!」
「ダメよ。アウルムは連れて行くわ。頑張ってねファム♪」
アウルムも同じ意見のようだ。素直にパティに抱かれて退室してしまった。
「……」
「……」
気まずい……。深く気にせず話しを続けてしまうべきだった……。
「あの、だな」
「クーちゃん!」
私達の声が同時に放たれた。
「なんだ?」
「あっえっと、クーちゃんの方から……どうぞ……」
「いや、私のは大した事ではない。ファムの方から聞かせておくれ」
「う、うん。わかった」
小さく深呼吸して呼吸を整えるファム。よっぽど覚悟の必要な話をするつもりのようだ。
「その、ね。こんな事聞くの、あれ、なんだけど……」
「遠慮なく聞いてみよ」
「えっと、ね……クーちゃんって、その……ボクの事、ね」
あ、これは……。
「その、どれくらい……好き……なのかなって……」
最後は消え入りそうなくらい小さな声だった。ちゃんと聞き取れた自分を褒めてやりたいくらいだ。
「難しいな」
「……だよね……あはは……ごめん、ね。変な事聞いて」
「待て早合点するな。ファムの考えているような事ではないぞ。私はファムを気に入っている。可愛らしく思っている。間違いなく好いている。だが我々には積み重ねが足りん。お互いの事すらよく知らんのだ。先ずは話そう。その答えはまたいずれ返すとしよう。焦る必要は無い。私はファムを手放さない。だからファムも付いてきておくれ。どうか私の手を握っていておくれ」
言いながらファムの手を取って握りしめる。ファムの方からも少しずつ力を込めて握り返してくれた。
「えへへ♪」
「やっぱり可愛いな。そうして何時でも笑っていておくれ」
「……うん♪」