03-39.秘密家族同盟
「つまりお姉ちゃんは愛人に昇格したわけですね?」
「まあ、そう……なる、のか?」
「ならないでしょ。婚約者に加わったと言うだけよ。但しまだ口約束だけのね。実質的には今までと何も変わらないわ。けれどそれを改めて明言する事に意味があるって話でしょ」
「うむ。つまりはそういう事だ」
流石パティ。私の言いたい事を上手く纏めてくれた。
「ですがそれをユーシャちゃんには内緒にしろと言うのですよね? つまり愛人では?」
「「……」」
まあそう言う側面も無きにしもあらずなような、何と言うか……。
「これはユーシャを裏切る為のものでは無いわ。当然ユーシャが家族と認められない人を置いておくつもりはないし、そう認められるように私達も働きかけていく。レティがユーシャに慕われているように、他の皆の事も大好きになってもらうのよ。レティも協力して。私達は同盟を組みましょう。今はまだ仲間に過ぎないとしても、いずれ正式に家族となれるよう力を合わせていきましょう」
そもそも私達だって正式に認められているわけではないのだ。先ずは約束を果たさねば。ディアナを学園に首席編入させ、そのまま卒業までトップを維持させねばならん。色恋にうつつを抜かすのも程々にせねばな。ここからはもう少し大人しく過ごすとしよう。なに。心配は要らん。私達の次の相手は魔物達だ。魔物なら多少増えても恋人には加わらんさ。
「わかりました。たしかにお姉ちゃんにとっても悪い話ではありません。これで一歩前身です。そういう事にしておきましょう」
なんかまだ続きそうな物言いだ。
「エリクちゃん。約束を果たしてください」
このタイミングで?
「……何が望みだ?」
「そう警戒しないでください。もう一つ秘密の関係を結びましょうというお話です。お姉ちゃんを愛人にしてください。もちろん婚約者にというお話も喜んで受け入れます。これはその上でのお話です。残り一年と少し。お姉ちゃんと内緒で愛し合いましょう♪」
「……ダメだ。そればかりは聞けんぞ。婚約者の提案はユーシャを裏切らぬ為の苦し紛れの言い訳だ。それを台無しにせんでおくれ」
「拒否権はありません♪ エリクちゃんは何でもと言いました♪」
「……頼む、レティ。他の願いに変えてくれ」
「ダメです♪」
「頼む」
「良いじゃないですか♪ 関係だけ結んでしまいましょ♪ どこまで進むのかはエリクちゃん次第です♪ 清い交際を続けたいのなら頑張ってみてください♪ そこまでは強制しませんから♪」
つまりレティは迫るつもりでいると。愛人として許される範疇までその段階を引き上げると。私は耐えられるのだろうか。レティの誘惑を振り切ってユーシャ達と共に最初の夜を迎えられるのだろうか。
「いいわ。私が認める。エリク。お姉ちゃんをよろしくね」
「本気か?」
「ええ。その上で見せて頂戴。エリクの覚悟を」
「本音は?」
「エリクはお堅すぎるもの。レティがそれを解して踏み越えさせてくれるなら都合もいいわ」
「おい」
「勿論これはレティだからこそよ。私の大好きなお姉ちゃんで親友だからよ。でも負けないでよね。エリク。それはそれで悔しいわ。絶対に泣く自信があるわ。だからもう一つ約束しましょう。もしレティに手を出したらそれ以上の事を私にしなさい。それで全部許してあげるわ。良いわねエリク?」
「……良いわけあるか」
「あら? そんなに自信が無いのかしら? エリクの私達への愛はその程度なの? レティに迫られたら簡単に明け渡してしまえうの? 違うでしょ? なら大丈夫よね?」
「……うむ」
「よろしい。レティもそういう事になったから」
「パティズルいです」
「恋人の特権よ♪ 悔しかったら早く追いついてね♪」
うっわぁ……。
「まあいいです。調子に乗っていられるのも今の内です」
早速私を抱きしめたレティ。
もう少し加減してくれんかな……してくれないよなぁ……本当に大丈夫かなぁ……ロロとミカゲも騒ぎそうだなぁ……絶対内緒にしないとなぁ……レティはそういうの上手いだろうけどさぁ……。
「それじゃあ次はファティマさんの所ね。そろそろ目を覚ましているかもしれないわ。早速行ってみましょう」
「レティはまたディアナ達の所に戻っておくれ」
「お姉ちゃんも一緒に行きま……いえ、戻ります」
ファムとは顔を合わせ辛いか。ファムはレティの事を覚えているようだったけど、レティの方は大して覚えていないようだしな。気まずいよなそういうの。わかるぞ。うんうん。
「また落ち着いたら会ってあげてね。これから家族になるんだから覚えてないだとかあまり深く気にしないでいいのよ。これから思い出を作っていけばいいんだから」
「そうします」
レティは最後に私の頬にキスをしてから戻っていった。
「エリク」
「待て、今のは私からしたわけじゃ」
「その言い訳は通じないわ。どちらからしても同じよ」
それはそう。関係性を認めた以上言い訳にならんだろう。
「ならばパティもすればよかろう。ほれ」
頬を突き出してみる。
「それ以上の事をと言ったはずよ」
「無茶言うな」
頬にキスのそれ以上ってなんだ。私はパティに何をすればよいのだ。唇か? それは許さんぞ?
「エリクからしなさい。それで見逃してあげる」
「なあ、パティ。一人だけズルいとは思わんか? ディアナとユーシャに悪いとは思わんのか?」
「今更そんな正論聞きたくないわ。エリクが心苦しいなら二人にも同じ事したら良いじゃない。頬へのキスくらいなら不審がらずに喜んでくれるわよ。なんならシュテルにでもしてからなら誰も不自然に思わないんじゃないかしら?」
まあ変に意識しなければスキンシップの一環で済むだろうけどさ。幼子を混ぜる事でそういうノリを強調するのは悪くない策だ。小賢しいとは思うけど。
「ほら。早く」
だがそんなソワソワされてはこっちも意識してしまうではないか。たかが頬へのキスだと言うのに。
ええい。もう考えるな。先のレティのだってそういう感じではなかっただろう。あれはただの挨拶だ。なんならロロがよくしてるやつだ。今までも普通に流していた筈だ。うむ。問題ないな。よし。やるぞ。
「……」
「……」
「……」
「……おい。何か言え。何時までそんな顔をしておる。もう終わったぞ」
「……そうね」
まったく。かわいいものだな。この程度で。
「エリク、顔真っ赤」
「……何故そんな機能は再現されているのだ?」
鼻水は出ないのに。別に出したいわけじゃないけど。
「大切でしょ。こういうのも」
パティは私の頬にもキスをしてから歩き出した。




