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03-38.前向き家族計画

「……」


「「「……」」」


 あかん。どうしよう。取り敢えず部屋には入ったけど誰も口を開こうとしない。



「(ちょっと! 何か言いなさいよ!)」


「(う、うむ……)」


 やはり私が……。


「ファ」


「クーちゃ、えっと、エリクさん」


 私が口を開きかけた所で、こちらの言葉を遮るようにファムが何時もより少しだけ大きな声で話を始めた。しかしその視線はアウルムに固定されたままだった。



「大丈夫。わかってるよ。さっきのは何か行き違いがあったんだよね。うん。おかしいと思ったんだ。ボクなんかが見初めてもらえる筈が無いって。勝手に勘違いして舞い上がってたんだよね。ごめんなさい。エリクさん。あんなに優しくしてもらったのに迷惑をかけてしまったよね。お詫びじゃないけどボク何でもするよ。アー君とも一緒に居たいしね。けど迷惑かな? 出ていった方がいいかな? それも仕方ないよね。身の程も弁えずに変な勘違いしちゃったもんね。奥方様にも嫌な思いをさせてしまったよね。そんな綺麗な人達がいるのにボクなんて必要無いもんね。ほんと何であんな勘違いしちゃったんだろう。よく考えたらエリクさんそんな事一言も言ってなかったよね。ただアー君達の世話をしてくれって、そう言っていただけだもんね。ごめんなさい。ボクは」


「待て! 待てファム! 違う! 違うぞ! 早とちりするな! お前は何も悪くない! 先程伝えた言葉は紛うことなき本心だ! ファムはとても魅力的な女性だ! 私がそう思っている事に嘘偽りなどありはしない!」


「えっと……それって……?」


「あ、えっと、うむ。その、だな……」


「大丈夫よ。ファティマさん。私は貴方を認めるわ」


「(ちょっ!? パティ!?)」


「(仕方ないでしょ! こう言うしかないじゃない!)」


「その、出来ればもう少しハッキリと口にしてもらいたいなぁ……なんて……あ! ううん! ごめんなさい! 調子に乗りました! 違うの! ボク嬉しいよ! 愛人でも小間使いでも何でも! そもそも今のボクは平民だから! 側室とか無理だから! ほんと! そのお気遣いなくというか! あの! えっと!」


「いや! 勿論そんな扱いにはせんとも! これからファムは私達の家族だ! そう胸を張って思ってもらえる関係を築きたいと思っている! だからどうかここに居ておくれ! 何時まででも! いや! 一生責任を持つとも!」


「「(ちょっとぉ!?)」」


「クーちゃん……ぐすっ」


「「「!?」」」


「ボク、ぼくぅ、怖くて、悲しくて、本当は……でも、クーちゃんが……うぅ、うわぁぁぁぁあああん!!」


「「「!!?!?!?!」」」


「♪」


 何故か嬉しそうにファムを撫でるアウルム。ついでに私に向かって親指を立てるジェスチャーを向けてきた。どうやらよく言ったと褒めてくれているらしい。


 あかん。これまた勘違いでしたとかってなったらアウルムまでキレそう……。



「ハニィ。お願イの件デェ~スが~」


「ロロは何の役にも立っておらんだろうが」


 というか今言うな。性格悪すぎるぞ。



「これ私も同罪よね……認めるって言っちゃったし……」


 待てパティ。罪とか言うな。本人泣いてて聞こえないだろうけど。



「じゃ、アウルム。すまんがファムの事を頼む。私達は他の家族に報告してくるからな。なに。すぐに戻って来るとっ痛っ!? 何を! あ、いや、また後で顔を出す。ではな!」


 パティとロロに半ば押し出されるようにしてファムの部屋を退室した。


 十分に離れた所でパティに空き部屋へと連れ込まれた。



「緊急作戦会議よ。こうなったらもう一蓮托生よ」


「元カラデは?」


「ロロ先輩はディアナだけ連れ出してきて頂戴。先ずは一人ずつよ」


 ロロの言葉を無視して指示を飛ばすパティ。その鬼気迫る様子を見たロロはそれ以上何も言わずに従った。



「エリク」


「すまん……」


「……いえ、あれは仕方ないわ。ファティマさんが一枚上手だっただけよ」


「いや彼女は、」


「わかってるわ。意図した事じゃないって。けどあの人は油断ならないわ。きっと天性の才能よ。間が悪い、いえ、良すぎるのよ。あんなの避けようが無いわ。認めましょう。エリクは悪くな、いえ、悪いのは悪いのだけど。まあ情状酌量の余地はあったという事にしてあげるわ」


「う、うむ。そうか。ありがとう」


 あかん。パティもだいぶパニクってるな。変な事言いだしたぞ。



「先ずはディアナよ。ディアナは取り敢えず認めてはくれるでしょう。その点ではユーシャより与し易いわ。けど順番は守れと言うはずよ。先にレティ達を迎えろと。そう言う筈なの。当然これはユーシャが認めないわ。だからもう積んでるのよ。いったいどうすればいいの!?」


 あかん……パティが壊れ始めてる……。



「落ち着け。先ずは冷静に考えよう」


「落ち着いてる場合!?」


 そういう言葉が出てくる時こそ先ずは落ち着こう。



「すぅ~~~はぁ~~~」


 偉い。言われる前に自分で深呼吸し始めた。



「大丈夫。落ち着いたわ」


 まだダメそう。



「取り敢えずだ。先ずはファムにも現状を話そう。私達はあくまで婚約者で恋人だ。ファムも将来的には伴侶に加えると約束するのだ。だが現状の立ち位置は空白としてもらおう。先ずは私達四人の関係を進めるのが優先なのだと。そう納得してもらおう。順番待ちの最後列に並んでもらうのだ。レティ、シルヴィ、ロロと続いてその後だ。これが大前提だ。ここまでは良いな?」


「ええ。それしかないでしょうね。良いわ。続けて」


「とすると、当然ながらレティ達の将来についても言及する必要が出てくる。そもそも論としてユーシャはそれすら認めたがらないだろう」


「そうね。そこが難問よね。それで? どうするつもり?」


「いや、どうもしない」


「なによそれ? 真面目に答えなさいよ?」


「落ち着け。先ずは話を最後まで聞いてくれ」


「そ、うね。ごめんなさい。気が立っていたみたい」


「いや、気にするな。それで続きだがな。要するに公然の秘密としてしまおう」


「……レティ達とは個別に話し合いつつ、それを隠すと言うの? 全員が暗黙の了解として腹積もりを知っている前提に持っていくの? ユーシャ以外の全員が?」


「そうだ。幸いユーシャはその手の話に鈍い。きっと気付きはせんだろう」


「そんなのディアナが認めないわ。一番嫌うやり口じゃない」


「そうだ。だからこれから二人でディアナを説得しよう。この事態を収めるには最早それしか道はない。少なくともユーシャを説得して皆を伴侶と宣言するよりかは幾分マシな筈だ」


「……」


「頼む。パティ。協力しておくれ」


「エリクは本当にそれで良いの? ユーシャに嘘を付くのよ? エリクだってそれが一番嫌な事の筈でしょう?」


「そうだな。だが現状と何が違う? このままなあなあで最後まで進めるか? レティ達を今更追い出せるのか? 一生面倒を見るつもりでいるのだろう? ならばいい加減ハッキリとさせるべきだ。何時までも宙ぶらりんではいられまい。かと言って今のユーシャではどうあっても受け入れられん。あの子も自らが抱く矛盾には気付いているのだ。あの子だって折角出来た家族を手放したりなんぞ出来る筈が無いのだ。あの子にはもう少しだけ時間が必要なのだ。しかし皆に待てと言い続けるにも限界はあろう。だから落とし所は必要だ。ユーシャもいずれ気付くだろう。その時外堀が埋まっていれば仕方ないで済ませられる筈だ。あの子はきっと皆を受け入れるだろう。だからこれはその為の準備だ。そう考えておくれ。これならディアナもきっと納得してくれる筈だ。な? パティもそう思うだろう?」


「……だそうだけど」


「まったく。勝手な事ばかり言ってくれちゃって」


「すまんな。ディアナ。またやらかした。今度は私だ」


「ロロから聞いたわ。ちゃんと責任を果たすつもりがあるなら私は止めないわ。けどユーシャを泣かせるような真似をしたら許さないわよ」


「勿論だ」


「なら好きになさい。どうせパティもまだまだ増やしてくるんだろうし。そろそろレティお姉様の件くらいは何かしらの進展を見せてほしかった所だもの」


「すまんな。ユーシャの説得までは出来そうにない」


「それもわかってる。ユーシャの事でこれ以上とやかく言うつもりは無いわ。エリクが一番ユーシャの事を想っているんですもの。どう転んだって悪いようにはならないものね」


「うむ。それだけは間違いない」


「けど一つだけ約束して。絶対にユーシャと二人で駆け落ちだけはしないでね」


「……」


「エリク」


「勿論だとも」


「本当かしら? ユーシャにどうしてもって泣きつかれたら断れないんじゃない?」


「……ユーシャはそんな事望まんさ」


「もう。ズルい答えね。良いわ。話はお終いよ。私は戻るわね」


「すまんな。ありがとう、ディアナ」


「頑張りなさい。パティもね。それとおかえり。帰ったら挨拶くらい先に言いに来なさいな」


「うん。ただいま。ディアナ」


「そうだ、ディアナ。今度はレティを貸しておくれ。代わりにまたロロを連れて行ってくれて構わん」


「チョットハニィ~? 私に確認は無シデスカ~?」


「交代してくれ」


「ソッチジャアリマセ~ン。ワカッテテ惚ケテマ~スネ?」


「ロロは私のものだ。否とは言わせん」


「フフ♪ 熱烈デ~スネ♪ ソレデコソ~ハニィ~デス♪ 良イデスネ~♪ 今日の事全部許シテアゲマ~ス♪」


「その理論でいくとレティも必要無いんじゃないかしら?」


「レティは別だ。貢献度が違いすぎる。ロロとの扱いに差ができるのも致し方あるまい」


「それもそうね」


「ムゥ~ハニィはイケズデェ~ス」


「今後の働きに期待しよう」


「ビジネスライクは嫌デェ~スヨ~!」


「だそうだ。パティ。もう給料は要らんらしい」


「ソレとコレは別デェ~ス!!」


「ほら。何時までも遊んでないで戻るわよ。ユーシャが怪しむわ」


「後で話シ合イデェ~スヨ! ハニィ~!」


「うむ。また後でな」


 レティと話したら次はシルビアか。だがあの子はまだ学園だろう。先にファムと話してしまっても……まあ良いか。シルビアの場合はまた少し事情が違うものな。

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