03-37.夢見る純情乙女(vs現実)
「違うんだ……聞いておくれ……」
「もうわかっています。エリクちゃんにそんなつもりが無かった事は」
「ケドダメデ~ス。『違ウ』ナンテ言ッテハイケマセ~ン。特~二、ファムの前デは絶対デェ~ス」
「いや、だが。誤解は早めに解いておかねばならんだろう」
「バカな事言わないでください。それは無責任過ぎます」
「鬼畜野郎の所業デェ~ス。開キ直ッテ責任取リナサ~イ」
「いや、しかし……」
「しかしじゃありません!」
「デモもダッテもアリマセ~ン!」
まだ言ってない……。
「ユーシャ達になんと説明すれば……」
「男を見せる時です!」
「私は女だ!」
「ドウ見テモ~プレイボーイの手口デ~シタ。シカモ手慣レテマ~シタ」
違うんだってばぁ……。
「とにかく先ずはパティと相談しよう」
「ズルいです。エリクちゃん。汚いです」
「与シ易イ所カラ落トスノハ定石デ~スネ」
あかん。この二人の間でも意見がバラバラだ。ちょっと面倒くさい。
「あの娘達はまだ学園か?」
「もうそろそろ帰って来る頃ですね。エリクちゃんはファムちゃんとの逢瀬が楽しすぎて時間も忘れていたのですね」
刺々しくはあるけど一応答えてくれるレティ。そんなレティが好きだぞ。今のタイミングで口にする気は無いが。
「噂をスレバデス。フフ♪ イッソユーシャに告ゲ口シテシマイマショウカ♪」
「待て。何が望みだ?」
「話シが早イデェ~スネ♪ 流石はハニィデ~ス♪ デェ~モ~♪ ソノ察シノ良サをモット早~ク発揮シテレバ~♪ コンナ事二~はナラナカッタのデェ~スガ♪」
ロロに嫌味を言われるのも珍しい。ギルドでパティの事で怒った時以来だな。基本お気楽道楽娘だからな。この娘は。
それだけ私の言動は腹に据えかねたのだろう。素直に反省しよう。
「ズルいです」
「頼む。レティ。事態の収拾に手を貸しておくれ。私にはお姉ちゃんの力が必要だ。いつも頼りにしているのだ。今回もきっと助けてくれるな? そうだろう? レティ?」
「……」
呆れた目を向けてくるものの、やはりレティは私を見捨てるつもりは無いようだ。
「……お姉ちゃんのお願いも聞いてくれるんですよね?」
「勿論だとも。なんでも言ってみるがいい」
「二言は許しませんよ?」
「当然だ。ともかく先ずはパティと合流しよう。済まないがレティはユーシャの方を頼む。ディアナと共に勉強でもさせておいてくれ」
「……もう。わかりました。任せてください」
すまんな。レティ。
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「……」
「頼む。パティ。そんな目で見ないでおくれ……」
「……張り切りすぎよ。私はそこまでしろなんて言ってないわ」
「うむ……。反省している」
「エリクに任せたのは失敗だったわね。メアリ達に任せず自分で世話すると言い出した時点で止めるべきだったのね」
いやそれは別に深い意味があったわけじゃ……単に私が診察するついでにと思っただけで……ディアナの件で慣れてたし……。
「いいわ。私から説明しましょう。行くわよ。エリク」
「いや、今は寝込んでて……と言うか何を説明すると……」
「全てよ。エリクは反省だけ示していなさい」
「待ッテクダサ~イ。パティ~。ソレデはファムが」
「可愛そうだと? そんなのこのまま流しても同じでしょ。絶対にユーシャは認めないわ。正直に謝る以外の選択肢はあり得ないわ。ロロ先輩はこの件で口出ししないで。あわよくば自分達の事もねじ込むつもりなのかもしれないけど、もっとやり方は考えて。言っておくけど私本気で怒ってるの。勿論エリクに対してだけど、ロロ先輩とレティに対してもよ。これ以上状況をややこしくしないで頂戴」
「ソレは横暴デス! パティの言イ分もワカリマスガ一方的過ギマス! 私とレティ先輩の考エハ違イマス! ソコマデ否定サレル謂レはアリマセン!」
「そんなの立場が違うんだから当然でしょ! 二人はまだ認められていないもの! これは私達婚約者同士の問題なのよ! 私の判断が優先されるに決まってるでしょ!」
「パティ。言い過ぎだ」
「……そうね……ごめんなさい」
「……イエ、パティの言ウ通リデス。私の考エはファムの側に寄リ過ギテマシタ。ユーシャもディアナもパティも違ウ考エデス。当然デス」
「悪いのは私だ。二人には落ち度なんぞありはせん」
「「当たり前でしょ!」」
うむ……。
「とにかくファティマさんと話しましょう」
「ソウデスネ」
「うむ……」
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「ファティマさ、」
「待て! パティ!」
ノックしかけたパティの手首を握って止める。閉まりきっていなかった扉の隙間から部屋の中の声がハッキリと漏れ聞こえてきていた。
「えへへ~♪ さっきのってそういう事だよね~♪ アー君もそう思うでしょ? クー、ちゃん……えへへ♪ クーちゃんって女の人だよね? 見た通りだよね? 良いのかな? 本当に良いのかな? と言うか夢じゃないよね? 本当にあった出来事だよね? 緊張しすぎて気を失っちゃったんだよね? どうしよう。あれで嫌な気持ちにさせちゃってたら。夢じゃなくても取り消すって言われちゃうかな……。でもクーちゃんは絶対にそんな事言わないよね。あんなに優しいんだもん。でもボクもう貴族でもなんでもないんだけどなぁ。クーちゃん知らないのかな? クーちゃんってお姫様達とも仲良いんだよね? ようせい? 王って言ってたっけ? 王様なのかな? どこの国だろうね? ヨウセイ国? 聞いた事が無いよね。まさか妖精のこと? 妖精の王様? どう見てもクーちゃんって人間だよね? 本当は違うのかな? アー君とお友達になるくらいだもんね。妖精さんでもおかしく無いよね♪ そしたらボクは妖精さんのお嫁さんだね♪ なんだかとっても素敵な響きだよね♪ でもきっと姫様達もクーちゃんのお嫁さんなんだよね? ボクなんかにも声かけてくれるくらいだもん。きっと他にもいるんだよね。ボクは何番目なのかな? 他の側室の皆ともお友達みたいになれるのかな? 正妻様ともっていうのは流石に恐れ多いかな? けどクーちゃんの選んだ人達だもんね♪ 絶対に皆良い人達だよ♪ 楽しみだなぁ♪ 会ってみたいなぁ♪ きっと直前になったら怖くなっちゃうんだろうなぁ。ふふ♪ こんな風に考えるだけでもソワソワしちゃうね♪ あっでもこれ聞いた事があるよ♪ これが恋なんだね♪ ボク恋なんて初めてだよ♪ なんだか悪くない気分だよね♪ ううん♪ むしろとっても良い気分だよ♪ ボク頑張っちゃうよ♪ クーちゃんや皆に愛してもらえるように! アー君もすぐ側で応援していてね♪ ここからボクの新しい人生が始まるんだから♪」
「「「……」」」
あかん。
「どうすんのよこれ……」
扉から離れたパティが頭を抱え込んでしまった。
「……正直に伝エルのデショウ?」
「出来るわけ無いじゃない……」
「ツイ先程啖呵を切ッタバカリジャナイデスカ」
「悪かったわ。謝ります。ごめんなさいロロ先輩。私には出来ないわ。一緒に解決策を考えて」
パティがあっさりと全面降伏を宣言してしまった。無理もない。
「ハニィが自分で責任を取ルベキデハ?」
「……そうね。もうこの際自分で謝りなさい。私は何も聞かなかった事にするわ」
放り投げおった……。
「デスが~マタヤヤコシクもナリカネマセ~ン。コレ以上スレ違エバ収拾着キマセ~ン」
「そうよね……はぁ……」
「すまん……」
「私じゃなくてファティマさんに謝って!!」
「「(声がデカい)!?」」
「え!? 誰!?」
あかん……。




