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03-36.悪意零過失百(むせきにん)

「うぅぅぁぁぁああああああ!!!」


「どうした!? 大丈夫か!?」


「!?!!!?!!?」


 ああ。これは……やらかしたな。


 食事を持って戻ってきた所にファムのうめき声が聞こえてきたものだからつい勢いよく乗り込んでしまったが、きっと今のは先程の事を恥じていただけなのだろう。つい話過ぎてしまった事を思い出して悶絶していたのだろう。あまり人付き合いが上手いタイプには見えんものな。気持ちはよくわかるぞ。すまんな。ファム。



「体を起こせるか? そういう時は食って寝て忘れるのだ。アウルム。ファムの体を支えておくれ。ついでに視界も塞いでやっておくれ。それで幾分か楽になるだろう」


「!」


 アウルムは器用に体を伸ばして私の注文を叶えてくれた。



「口を開けろファム。私はこれをお前に食べさせたらこの部屋を出ていくとも。安心しろ。暫くアウルムの事は貸しておいてやる。先ずはゆっくり休め。何も言わんでいい。礼も結構だ。ファムにはいずれ頼みたい事があるからな。恩はその時に返してもらう。だから今は何も気にするな」


 プルプルと唇を開いたファムの口の中に匙を差し込んだ。果実をすりおろしただけの流動食だが口に入った途端に食欲を刺激されたのか、次は少しだけ大きく口を開けてくれた。


 それから暫くファムの口に食事を運び続け、器が空になったところで再び寝かせて部屋を出る。その間私は何も言わなかった。ファムも同様に何かを言ってくる事は無かった。




----------------------




「エリク……さん……」


 看病を始めてから数日経った頃にファムの方から話しかけてきた。かすれる声で少し怯えるような態度で絞り出すように私の名を呼んだ。これでは最初に目覚めた時より弱ってしまったかのようだ。



「エリクで構わん。何ならクーちゃんでも良いぞ」


「……」


「すまん。悪気は無かった」


 あかん。つい調子に乗りすぎてしまった。なんかファムってそういう意味で可愛らしいんだよなぁ。絡みやすいというか。本人は堪ったものじゃ無いんだろうけど。



「クー……ちゃん……」


 なにこれ可愛い……。


 顔を真っ赤にして目を逸らしながらそんな事言われたらそう思っちゃうじゃないか。いかんぞ。エリク。ここで調子に乗ればきっと心を閉ざされてしまうだろう。落ち着け。私。大丈夫。ユーシャの顔を思い浮かべるのだ。こんな時ユーシャなら私にジト目を向けてくる筈だ。あれもあれで可愛んだよなぁ。



「!」


 ちょいちょいとアウルムが私の袖を引っ張って注意を促してくれた。いかんな。考え事に没頭してしまった。折角ファムが勇気を振り絞ってくれたのに。



「どうかしたのか? ファム。何か欲しいものでもあるか? またそろそろ背中を拭くか? 腹が減ったか? 何でも言ってみろ。どんな願いでも叶えてやるぞ」


「!!……!」


 ダメだ。またパニクってる。より真っ赤になって布団に潜り込んでしまった。


 さてどうしたものか。これはまた席を外すべきだろうか。或いは少し待ってみるべきか。折角何かを言いかけてくれたのだ。このチャンスを逃すべきでは無い気もするのだ。



「あ~。ファム。その、だな。そうだ。先日頼んだだろう。あの答えを聞かせて貰えるだろうか? どうだ? 私に協力してくれるか? アウルムもすっかり君に懐いたようだ。私も君が居てくれると嬉しい。他の者達も皆喜ぶ。どうかね? 合意してもらえるだろうか?」


「……なん……で……?」


 何だ? 何が「なんで」なんだ?


 答えを聞かせてほしいという事に対してではあるまい。ならば私や皆が喜ぶという箇所についてか?



「まあ個人的な事を言うならばだな。ファムが可愛いからだな」


「!?!?!」


 あかん。またパニクってる。



「いや、変な意味では無いのだぞ? 見ていて保護欲を掻き立てられるというか、世話を焼きたくて堪らなくなるというか。いや、成人女性にこのような事を言うのも失礼だよな。すまん。忘れておくれ。ただ私はファムの事が気に入った。だから(アウルム達)家族を任せたい。そう受け取っておくれ。どうかね? (魔物達と)共に暮らしてみないか?」


「!?」


「返事が言葉で言い表し辛ければこの手を取っておくれ」


「……」


 私の差し出した右手を真っ赤な顔でチラチラと盗み見るファム。暫くそんな事を続けてから、ようやくゆっくりと手を伸ばしかけたものの、途中で躊躇するように手の動きを止めてしまった。私は戻りかけたその手をすかさず自ら握りしめ、ファムに向かって微笑んでみた。



「よし。これで(契約)成立だ。頼むぞ。ファム」


「……はい」


 ファムはそう小さく返事をした直後、耐えきれなくなったかのように倒れ込んでしまった。


 慌てて魔力を流してみるも、どうやら大事は無いようだった。おそらくのぼせてしまったのだろう。随分と恥ずかしがっていたからな。緊張しいだな。ファムは。



「フッフッフ♪ 見~テマ~シタ~ヨ~ハァ~ニィ~♪」


「なんだ。ロロ。覗き見はいかんぞ。仕事はどうした? ファムの世話か? 私に任せろと言っただろ。まあいい。部屋を出るぞ。ファムは眠ってしまったからな。そっとしておいてやろう」


「エリクちゃんはとんだスケコマシです」


 何故か廊下にはジト目のレティまで居座っていた。どうやら二人で覗いていたらしい。趣味の悪い事だな。



「何故レティまでここにいるのだ? ディアナの勉強はどうした? 自分で任せろと言ったのだろう? お前達勝手に持ち場を離れるでない。ほれ。戻るぞ」


「良~ノデェ~スカ~?」


「何がだ?」


「プロポーズまでしておいて放置はどうかと思います。目覚めるまで側に居て差し上げるべきかと」


「は?」


 プロポーズ? 何の話だ?



「いったい何の話だ? なんでそんなレティは機嫌が悪いのだ? わけのわからん絡み方はよせ。反応に困るだろうが」


「「……」」


「なんだその目は?」


 ロロまで機嫌が悪くなってしまったようだ。



「ハニィは最低デェ~ス」


「ファムちゃんが可愛そうです」


「……なあ、本当にどうしたと言うのだ?」


「説明スルシカ無イヨ~デェ~スネ」


「ファムちゃんの為ですから。やむを得ません」


 何か二人とも増々機嫌が悪くなっていっているな。どうやら本当に私が悪いっぽい。この二人が意味も無く私に苛立ちを向けたりなんてする筈も無いのだ。

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