03-33.お月見と作戦会議
「アウルムちゃんは私の知っているゴルドスライムと色が違いますね。最初からこうでしたっけ?」
レティがアウルムを見て首を傾げている。確かに少し色が濃くなった気もする。やはり仲間達を吸収した事によって変化が生じたのだろうか。
「キュゥぅ……」
私達が帰ってきてからオルニスは縮こまって震えだしてしまった。アウルムから何かを感じ取っているようだ。
「うふふ~♪ お月さまがもう一つあるみたいね~♪」
ディアナも機嫌を治してくれたよう、だ……? 酒飲んでないか?
「芸をイッパイ仕込ミ~マショ~ウ~♪」
「なんだ? 興味があるのか? 意思の疎通を図れるように教えてやってくれるか?」
「ダメですよ。エリクちゃん。ロロちゃんが言っているのはそういう意味じゃありませんから」
ロロをドナドナするレティ。まあ妙な事を仕込まれてもあれだものな。ロロに任せるのは些か不安もあるか。
「主。次はどちらを?」
「私はもう良い。スノウにも食べさせてやってくれ」
「御意」
宣言通り私の椅子と化したスノウは未だに料理に手を付ける様子もないからな。ミカゲには本来の役目であるスノウの世話係をやってもらわねば。
「まぁま!」
ユーシャの膝に座り、自らの膝にアウルムを抱えるシュテルが私を差して嬉しそうに笑っている。どうやらお揃いと言いたいようだ。なんだかちょっと恥ずかしくなってきた。
「ダメ。エリクさん」
私の心情を察したのか、スノウは私を逃がすまいと腰に手を回してきた。仕方ない。もう少し好きにさせてやろう。
「皆ラブラブで羨ましい。パトも私の膝に座ってみない?」
「遠慮しておくわ。寂しいならディアナを膝枕してあげたらどうかしら?」
「それには及びません」
「えへへ~♪ メアリ~♪」
何時の間にかメアリがディアナを確保していた。酔っ払ってふらふらしていたからな。捕まえておかないと危なそうだものな。
「ほら~♪ もう残ってるの私とパトしかいないよ~♪」
「シルヴィまで飲んでいるのね? ダメよ。お酒なんて持ってきちゃ。飲酒飛行は厳禁よ」
そういうのあるんだ。案外と厳しいよね。城内飛行禁止とかってルールまであったし。
「王都の門を飛び越えるのはありなのか?」
「普通はダメよ。けど今日は仕方ないのよ。帰る頃に門なんて開いてないもの」
なるほど。出入りの情報が合わなくなるから……うん?
「それはそれというやつでは?」
「まあ良いじゃない。真面目に守ってる奴なんていないんだから」
そういうの良くないと思う。
「パ~ト~」
「ちょっとシルヴィー!?」
油断していたパティがシルビアに押し倒された。皆の視線がパティ達に集中する。
「いや! こら! どこ触ってるのよ!? シルヴィ! こんな所で! ダメだってば!」
「オルニス。助けてやれ」
「キュイッ!」
ひょいっとシルビアを摘み上げるオルニス。そのまま自分の背中に乗せて酔っ払いシルビアをあやし始めた。
「ふかふか~……zzz」
「「「「お~~~」」」」
やるなぁ。オルニス。見事な手際だったぞ。
「キュイッ♪」
「なんだか手慣れているな。オルニスは子育ての経験があるのか?」
「キュイ?」
伝わらんか。流石に。
「さてどうしたものか。このまま洞窟で一晩を明かすのも悪くは無いと思うのだが」
「いっそこのまま朝一で次の獲物を探しに行きましょう♪」
「ダメよレティ。大型の魔物は先に置き場所を考えてからじゃないと。飛竜種を飼うスペースが無くなってしまっては本末転倒だわ。それにアウルムで色々試さないといけない事もあるでしょうし。暫くは研究と準備に時間を当てましょう」
「なんならアウルムちゃんを巨大化させれば、そちらの実験も可能なのでは?」
「どうだろうな。既に眷属化しているからな」
まあ、巨大質量と高魔力抵抗を併せ持つ者への魔力の通しという意味ではお誂え向きなのだが。
「エリクは何よりアウルムを制御出来るようになりなさい。今はそれが最優先よ」
「うむ。違いないな。そうだレティ。もしくはロロ。誰か魔物に詳しい博士みたいな人物は知り合いにおらんか?」
「「う~ん……?」」
ダメそう。
「学園には誰かおらんのか?」
「いないわね。冒険者の支援学校ならいるかもだけど」
そんなのもあるのか。
「ならばナタリア殿に聞くのが手っ取り早いか」
明日にはアウルムの登録にも行かなきゃだし。
「いえ、そこはもっと慎重になるべきね。ギルドの紹介では妙なしがらみも生まれかねないわ」
「だがギルドの事も利用するつもりではあるのだろう? クランとして何らかの制度もあるのだろう?」
「ええ、まあ。紹介もクラン制度に付随する特典の一つではあるわ」
組織運営と人材募集は切っても切り離せんからな。そりゃ支援制度くらいあるだろうな。
「ギルドの子飼いを潜り込ませて来る可能性もあるわけか」
「先に城で探しましょう。サロモン様なら心当たりもあるんじゃないかしら」
「パティはそれで良いのか? 姫としての立場をあまり利用しては困るのではないか?」
陛下は王位の事は気にするなと言ってくれたが、なればこそ姫としての優位性を利用し続けるのも些か問題があるだろう。筆頭王宮魔術師に気軽に会いに行けるのはパティが姫だからだ。レティならば問題も無いようにも思えるが、あくまでクラン【マギア・グラティア】の代表者はパティなのだ。
パティより位の高い者が動いてしまっては周囲から見た場合の代表者がすげ変わってしまいかねない。いくら私達が口で言おうとも、行動が伴っていなければ説得力も無いというものだ。ただでさえ陛下から特別な許可証を賜ったばかりなのに、そう頻繁に頼るのはマズイかもしれない。
「考えすぎよ。それはそれよ。自分の持っているものをどう利用しようが、それを他者がどう受け取ろうが関係ないわ。そんな事を言いだしたら身動き取れなくなるわよ。例え王位に就く事が無くなっても私が姫として生まれた事に変わりは無いんですもの。自分を否定したって誰も認めはしないわ」
「……そうか。うむ。パティがそう決めたのならとやかくは言うまいよ。全力でやるがいい。私も応援するとも」
「お姉ちゃんも頑張りますね♪」
「「レティは自重して」」
「なんでですか!?」
「レティが本気を出してしまっては爺様まで全力を尽くしかねん。折角諸々落ち着いたのだ。少しは大人しくしておけ」
「そうだわ。ジェシー姉様と一兄様にもお礼を言いに行かないと。すっかり遅くなってしまったわね。いの一番に出向かないといけなかったのに。レティも同行しなさい。明日も忙しくなるわよ」
「うげぇ……ジェシーちゃんに会うんですかぁ……」
「そう言ってるじゃない。もう。そんな声出さないでよ」
「だってぇ~」
レティはジェセニア王女が苦手なようだ。有能なお姉ちゃん枠だからな。分が悪いのだろう。
「ついでに魔物博士の件も聞いてみてはどうだ? 彼らの人脈はこの国一番であろう」
「ええ。きっといい人を知っている筈よ。エリクもギルドで登録を済ませたら真っ直ぐ家に帰っておいてね。明日中にでも会えるかもだから」
「うむ。そうしよう」