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03-31.vs天敵

「あれか?」


「ええ。間違いなく。どうやらこちらにも気付いているみたいね」


「そんなに目が良いのか? まだだいぶ距離はあるぞ?」


 私の視力に匹敵するのか? パティも大概だが。



「違うわ。スライムに目なんてあるわけないじゃない。ゴルドスライムは魔力で相手を見つけるのよ。エリクの魔力は目立つもの。本来なら警戒して逃げられてもおかしくはないけど、あの子はよっぽどエリクの事を美味しそうな獲物だと思ったみたいね。なんだかソワソワしているわ」


 確かになんだかクネクネ動いている気がする。あれはそういう感情なのか? そもそも感情などあるのか? いや、侮るつもりは勿論無いのだが、スライムの生態には詳しく無いのだ。眷属化すればわかる事も増えるだろうけども。



「少し離れたところに降りましょう」


 パティに先導されて地に降り立ち、私、パティ、レティ、ロロ、スノウだけでゴルドスライムの方へと近付いていく。



「やつの方からも近付いてきているな」


「流石にここからだと見えないわ。エリクだけが頼りよ。合図はよろしくね」


 上空から開けた場所に居座るゴルドスライムは見えても、森の中で地を這って近付いてくるとなるとパティでも見つけるのは難しいらしい。これは単純に夜目が利くかどうかの問題だろう。魔力視に暗視ゴーグルのような役割は期待出来ないようだ。


 対して私はやたらと夜目が利く。元々薬瓶の頃から備わっていた機能だ。ゴルドスライムは本来獲物を誘い出した後はこうして光の少ない草木の中へと潜り込んで敵を油断させるのだろうが、私の前ではその高い隠形能力も意味は無い。



「来るぞ!」


 私の合図と共に、四人が一斉に氷の魔術を放った。オーバーキル気味な威力で瞬時に前方一帯が凍りつく。ゴルドスライムもあっさりと固まってしまった。



「これが弱点なのか」


「ええ。ゴルドスライムは冷気に弱いの。ただこれでも絶命したわけじゃないから気をつけて。あくまで休眠状態なだけだから」


「このまま魔力を流せば良いのだな?」


「そうよ。どうかしら? できそう?」


「やってみよう。念の為構えていてくれ。いざとなったら私ごと凍結してもらって構わん」


「そうさせてもらうわ」


 別に私も死にはせんからな。クシャナの肉体も後で癒せるだろうし。



 凍りついたゴルドスライムを拾い上げ、念の為開けた場所に移動し、四方にパティ達が散らばったのを確認してからゴルドスライムへと魔力を流し込んでいく。



「パティ! 冷気を流し続けてくれ! 霧状にして周囲の温度ごと下げてくれ!」


 慌てて指示を飛ばす。直ぐ様皆で魔術を発動してくれた。私の要望通り、私を中心にして一帯の温度が下がっていく。


 私の魔力は多少の熱を帯びている。魔力を流した影響からか、少しだけ氷が溶け始めてしまったのだ。だがこれで凍結状態を維持できるだろう。念の為魔力壁で天井も作っておこう。


 しかしどうしたものか。安全は確保出来たものの中央まで魔力が通りそうにない。凍りついた影響か、表層や浅い部分までなら魔力も通るのだが、奥の奥、コアのような器官にはどうしても辿り付けない。一か八か強引に流し込むべきだろうか……。



「エリクちゃん!」


 思考に埋没していた所にレティの鋭い声が届いた。慌ててゴルドスライムに流していた魔力を止めるも、時既に遅かったようだ。完全に復活し、サイズも一回り以上大きくなったゴルドスライムが周囲の冷気ごと魔術を喰らい始めていた。



「何故だ!?」


 地を蹴ってその場を離れ、ゴルドスライムが触手のように伸ばしてきた体の一部をやり過ごす。どうやら私を標的と定めたようだ。一心不乱に追いかけてくる。


 失念していた。私の魔力には熱量だけでなくエリクサーとしての特性もあるのだ。まさか魔物の状態異常まで回復してしまうとは……。



「パティ! もう一度だ!」


 返事は無い。皆既に詠唱を開始していた。最大威力の氷結魔法を準備しているのだろう。全員の声が一致している。タイミングも合わせて確実に仕留めるつもりのようだ。


 私は詠唱が終わるまで皆にスライムを近づけさせるわけにはいかない。けれど魔力手や魔力壁では食われてしまう。どうやら捕食者相手には魔力の占有化も意味を為さないようだ。試しに魔力手で殴りつけてみたが、あっさりと飲み込まれてしまった。


 どうしたものか。こやつは私の天敵だ。ぶっちゃけ打つ手がない。逃げる以外に出来る事もない。幸いそこまで知能が高いわけでもないらしい。パティ達には目もくれていない。詠唱の妨害までしてくるなら厄介だった。いや、本来は一番に術者を狙うのだろう。何せ魔力が大好物なのだ。ただそれ以上に私が美味しそうに見えているだけなのだろう。自分の身の危険とかそんなんどうでもよくなるくらいには私を求めてくれているのだろう。ふふ。なんだか可愛らしいではないか。どうにかして眷属にできんものだろうか。このまま氷結魔術が発動すれば間違いなく砕くしかなくなるだろう。ゴルドスライムは諦めて他の都合の良い獲物を探す事になるだろう。本当にそれで良いのだろうか。妖精王の天敵はスライムだと示す事になる。既にナタリアさんにも告げてしまったのだ。次はスライムを連れてくると。これで手ぶらで帰れば色々と察してしまうだろう。チャンスは一度きりだ。今ならまだ間に合う。私が失敗してもあの娘達が処理してくれる。これは試さずにはおれまいよなぁ。



「エリク!?」

「エリクちゃん!?」

「エリクさん!?」

「ハニィ!?」


 詠唱中の筈の皆から驚きの声が上がった。


 無理もない。いきなり私がスライムの体内へと飛び込んだのだから。例えこのクシャナの体が仮のものに過ぎないとしても、私が飲み込まれればいよいよこのスライムにも手がつけられなくなるだろう。そんな事は誰にでもわかる事だ。だからこそ見たものが信じられないのだろう。


 皆きっとゴルドスライムが爆発的に巨大化するものと思った筈だ。だが実際にそうはなっていない。私は丸ごと消化されたわけじゃない。体の表面に再生型魔力壁を纏っている。その表層も一瞬で消化されるとは言え、一瞬毎に取り込める量は知れたものだ。その隙にスライムのコアと思しき球体へと手を伸ばす。しっかりと握りしめ、あらん限りの魔力を流し込んでいく。あくまでゴルドスライムが魔力を吸収出来るのは体液の方だけのようだ。このコア部分にはそんな機能は無いらしい。あっさりと私の魔力は芯へと届き、ゴルドスライムの小さな魂を飲み込んでいく。



「返してもらうぞ。アウルム」


 アウルムと名付けたゴルドスライムは素直に私の魔力を解放してくれた。元より更に小さな体躯へと変化し、私の頭の上に飛び乗った。



「エリク!? 大丈夫なの!?」


「うむ。すまんな。心配かけた」


「もう! バカ! なんであんな無茶したのよ!?」


「いや、ついな。思いついてしまってな」


 逆だけど。本当は勢いのままに飛び込んでから思いついたんだけど。余計な事は言うまい。うむ。



「ついじゃ無いわよ! 私忠告したわよね!? 舐めないでって言ったわよね!? エリク約束してくれたわよね!?」


「ごめんなさい。勢いで動きました。反省してます」


「もう!!」


 パティからのお叱りはそれから暫く続いた。他の三人はその光景をニヤニヤと眺め続けていた。

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