03-27.作戦会議・続
「最初は小型の魔物で試すのだったな。折角だ。今から早速確かめてみんか? 今日は学園も休みでパティもいるしな。それに見張りは早めに確保しておく方が都合もよかろう」
「う~ん。今回はすぐには攻め込んできたりしないわよ? 冒険者だって暇じゃないもの。もっと噂が広まってどうにもならなくなってから様子を見に来るのが精々でしょうね。そもそも大手クランには世間体だってあるもの。いきなり小娘達に食って掛かる程大人げない連中じゃないわよ」
まあメンツという意味ではそっちもあるよな。焦って手を出した事で逆に名を落としても意味がない。だから本格的に仕掛けてくるとしたら私達が一般の冒険者達にも知れ渡って、彼らと私達のどちらが強いのかなんて話しが盛り上がってからになるのだろう。
とは言えノンビリ構えてもいられない。ギルドが盛り上げるつもりなのは明白だ。一般の冒険者達が私達の事を知るのもきっとすぐだ。ただでさえ一ヶ月も王都中を騒がせてしまったのだ。私達が強いという情報だけはすぐにでも知れ渡るだろう。それが本当に実力の伴うものとして知れ渡るのか、ただのパフォーマンスだったと疑われるのか。後者の可能性の方が高いのではなかろうか。
そこにギルドも絡むとなれば私達の実力を図ろうと出張ってくる者達もいるだろう。或いはギルドも意図的にそう話を持っていくかもしれない。短気な冒険者に向けて、実は王宮からの圧力だったとでも匂わせて、都合の良い刺客として差し向けてくるかもしれない。そんな奴らを追い返している内に既成事実が積み重なっていくのかもしれない。
そういうギルド側の目論見が働けば今日にでも刺客が挑んでくる可能性は十分にある。しかも最初に来るのはきっと名の知れた冒険者だろう。力はあるがおつむは弱い……は言い過ぎにしても少々短絡的な。そして何より声がデカい。きっとそんな輩だ。
そいつ一人なら吹き飛ばしてやれば諦めるだろうが、話はすぐに広まるだろう。そうなれば王族相手にドンパチやらかしたのも直ぐに真実として広まる筈だ。或いはその冒険者をホラ吹きと疑う何者かが自らが暴こうと挑んでくるかもしれない。
はたまた、姫様の住まう邸宅に仕掛ける口実が出来たと喜び勇んで忍び込んでくる下劣な輩だっているかもしれん……そうだ!
「ベルトランに応援を頼もう」
「それは……良いのかしら?」
「なに。問題はない。奴にはこの屋敷を守らねばならぬ個人的な都合もある」
「個人的な都合? ああ。スノウの事ね」
「うむ。ふふ。まさか冒険者連中も近衛騎士団団長に連なる者達が警護する屋敷に仕掛けてはこんだろう。これでギルドの思惑も殆どが潰せるのではないか?」
血気盛んな冒険者達と言えども、王家相手に喧嘩を売る真似はせんだろう。いくら前例があるとはいえ、同じように仕掛けてくる事は出来ない筈だ。
「そりゃそうでしょうけど……エリクはそれで良いの?」
「何がだ?」
「ギルドが泣いて謝るまで手を緩めないんでしょ? 真っ向から返り討ちにした方が他の大手クランを怯ませるには都合が良いんじゃない?」
ああそうか。王家のバックアップがあるから仕方がないとなれば、彼らも諦めがついてしまうのか。それとわかるような大きすぎる力を振りかざすのも考えものだな。
「でもまあ、良いんじゃないか? その時は王家対ギルドの構図に持っていけるだろう。私達が頑張らずとも勝手にギルドが干上がるかもしれん」
こっちもまた話しが盛り上がるかもしれん。最初は否定したとて、今度はギルドが自ら王家との癒着を公表したような形にしかならんだろうしな。実際姫様を優遇しているわけだし。事実無根ではあってもそれが既成事実となっていくのだ。ある意味それでも完全な勝利へと繋がるだろう。そうして結果的に王家とギルドの間で致命的な亀裂が生じる可能性もありそうだ。
「良いわけ無いでしょ。責任取らされるに決まってるじゃない」
陛下のお説教は勘弁してほしい。意外とあの人説教だけは長いんだよなぁ。
いや、そこまでいけば説教だけじゃすまんだろうけど。
「二、三人配備してもらうわけにはいかんか? 何も近衛騎士を派遣しろって話じゃない。ベルトランの実家でもその手の兵士くらいいるのだろう? 彼らを少しばかり融通してもらうだけだ。近衛騎士団長の実家が裏に居るぞと示せればそれで十分であろう」
「それ言い出したらディアナだって公爵令嬢よ? 普通は公爵家のお屋敷に仕掛けてくる奴なんていないわよ?」
「だが前例を作ってしまった。アトラクション感覚で乗り込んでくる者達がいないとも限らん」
「ならこうしましょう。捕らえた奴はお城に突き出すの。公正な手続きの下で処断してもらいましょう。とっくにお祭りは終わっているのにそうとも知らず調子に乗って仕掛けてきた馬鹿者として吊るしてしまいましょう」
「いや、それは本当に吊るされてしまうやつではないか。悪いのはギルドなのに」
だからこそわかりやすい目印を置いておこうと言っているのだ。彼らに頼むのは直接賊を捕らえる事ではない。ただ正門前に立っていてもらうだけだ。その権威を少しばかり貸してもらうだけだ。平民である冒険者相手にどこまで通じるかはわからぬがな。
「なんでそこだけ気遣うのよ。公爵邸に襲撃をかけた平民なんて首を吊られて当然じゃない」
まあそうなんだけどさ。私もちょっと感覚麻痺ってるかもだけどさ。
「大丈夫よ。ギルドだってそこまで馬鹿じゃないわ。下っ端なんてけしかけてこないから安心なさい」
「ならどうやって火を点けるつもりなのだ?」
「クランの実績って張り出されるのよ」
そうか。そういうのもあるのか。
「つまり?」
「エリクがあんな啖呵切らなければ盛り上がる事も無かったんじゃないかしら?」
「えっと……私のせい?」
「ええ。そうね。エリクのせいね。ギルドは何もするつもりはないわ。後は座して待つだけ。妖精王陛下のご活躍に期待しながらね」
「……」
「まあ良いじゃない。どうせ舐められているのは事実ですもの。私達も黙ってはいられないわ。そうでなければ面倒な連中が付け込もうとすり寄ってくるわよ。折角わかりやすい証明の場をくれたんですもの。ここから実績を山積みして黙らせてやりましょう。私達はただ転がされるだけの存在ではないと知らしめてやりましょう。誰にも手綱なんて握らせはしないのだと暴れてみせましょう。調子に乗って手を出してきたギルドの四肢を噛み砕いてやりましょう。エリクが言いたいのはそういう事でしょう? なら何も後悔する必要は無いわ。皆で一緒に誓いを果たしましょう」
「……まあ、うむ。そうだな。何の影響も無いな。うむ」
「さっきから聞いていれば二人とも会話が物騒だわ。もう少しお淑やかに振る舞えないのかしら?」
「ディアナ、今更公爵令嬢ぶってる」
「ぶってるって何よ!? 私はれっきとした公爵令嬢よ!」
「お嬢様。端ないので声を荒げるのはおやめください」
「これはただのツッコミよ!」
「ボケたいのかツッコミたいのかどちらかハッキリさせてくださいませ」
「私が令嬢らしく振る舞うのはボケだって言うのね!?」
「はいはい。何時までも馬鹿騒ぎしてないで。真面目に話し合うわよ。結局何も進んでないじゃない」
「それはエリクのせいでしょ!?」
いやまあそうなんだけどさ。
「エリクちゃん♪ どうぞこちらを♪」
え? 何このでっかい鳥かご? いつの間に? しかもやたらとガタイの良い鳥が押し込められてる? どうやって入れたの?
「ガルーダイーグルです♪ ささ♪ 眷属にしちゃいましょう♪」
「えっと? まさか既に準備していたのか?」
「いえ、今しがた捕まえてきました♪」
私達が話し合っている間に? レティ一人で抜け出してたの? 全然気付かなかったよ?
「都合良くお空を飛んでいたのです♪ どうぞお気になさらず♪」
「王都にこんなの生息してないわよ……。ガルーダイーグルってBランクの魔物じゃない……」
そうなの? なんかギッチギチに詰め込まれてよくわかんないけど実はめちゃくちゃ強いの?
「エリク。早く助けてあげて。可愛そう」
「かわーそー!!」
うむ。そうだな。取り敢えず眷属化しよう。話はそれからだ。