03-26.作戦会議
「ところでマギア・グラティアって?」
「本来は『魔法の恵み』という意味だ。こちらの世界、そしてパティの流儀で行くなら『魔導の恵み』とでも言い換えようか。或いは『魔女の恵み』でも良いかもしれんな。パティのイメージにピッタリだ」
「魔法でいきましょう。私を引き立てたいって気持ちは素直に嬉しいけど、折角クランとして活動するなら皆で共有できるものにしたいわ。それに魔導や魔術だけだとそれぞれ使えない子も多いから。これからはその二つを含めた意味として『魔法』という言葉を使っていきましょう」
「魔法戦特化のクランってわけですね♪ わかりやすくて良いじゃないですか♪」
私一人で決めてしまったが概ね好評なようでなによりだ。
「私どっちも使えない」
「私もよ。一緒に頑張りましょうユーシャ」
「うん。そうだね。ディアナ」
「しゅてー!!」
「「うん。シュテルも」」
仲良し。
でもユーシャはシュテルを補助装置にすればどんな魔導も思いのままでは? 鬼ごっこで羽生やしていたようにさ。折角盛り上がってるから言わんけど。
「今後の計画を立てましょう」
「先ずは私の考えを伝えよう。大きく分けて三段階だ。一段回目は足の確保だ。二段階目は殲滅戦の確立。三段階目は実戦だ。全ての魔物を狩り尽くしてやろう。空から魔術の雨を降り注がせよう」
「狙うのは討伐対象となっている大型と大量発生だけよ。魔物だってただ乱獲すれば良いってわけでもないの」
「うむ。その辺りの選定はパティに任せよう。他の強豪クランがこの地に見切りをつけかねない程に荒らしてやろう」
「なるほど。そういう目論見なわけね。えげつない事を考えるわね」
「あくまでそうなりかねないところまでだ。本当に見切りをつけられては私達も逃げられらなくなるからな」
私達は市場荒らしを仕掛けるのだ。他のクランが干上がって移籍を考え始めれば、それが最も胴元を気取るギルドにとっては痛手となるだろう。
かといって本当に荒らし尽くしてはダメだ。そもそも私達はこのまま王都で暮らし続けると決めているわけでもない。何れはお父上の待つ公爵領にも帰らねばならん。そのまま向こうで暮らすのか、或いは再び王都に舞い戻るのか、はたまた遠方のどこか知らぬ土地を目指して旅立つのか。
私達の未来は無限に広がっている。それを潰してしまうのは勿体ないからな。ただ見返したいだけなのに、やりすぎて自ら責任を取らねばならなくなるのは論外だ。そのまま冒険者として生きることになっては本末転倒だ。まさにミイラ取りがミイラになるというやつだな。結果的にギルドの連中を喜ばせてしまうだけだろう。
「概ねの方針はエリクちゃんの考えで問題ありませんね。早速細かいところも詰めていきましょう」
「「「「「異議なし」」」」」
「段階こそ分けてはいるが、足の確保を行いながら殲滅戦の戦法も探っていくのが効率もよかろう。ドラゴンをテイムするにも段階を踏む必要があるという話だものな」
「そうね。大型の竜種を生け捕りにするのは並大抵の事ではないわ。むしろ聞いたことが無いくらいよ。普通に倒すより難しいのは間違いないわね。そんな離れ業を成し遂げるのだから万全の対策が必要よ」
「生け捕りという部分についてはあまり意識する必要はないのではないか? 当然生きた状態で確保する必要はあるが、どのみち眷属化させる程の魔力を流し込むのだ。大抵の傷はそこで癒えるだろう。即死でさえなければ治療は容易いはずだ」
「魔力がすんなり流せるとは限らないもの。時間がかかれば治療も間に合わないかもしれない。或いは多少癒えたところで再び暴れ出す可能性だってあるわ。そもそも野生動物の生存本能を舐めてはダメよ。彼らは本当にギリギリまで生きようと抗ってくるわ。本来ならそういう意味でも確実なトドメというのは必要なものなのよ。ある意味では私達は彼らの命を弄ぼうともしているの。どうかそれを忘れないで」
「わかった。真剣に向き合うと約束しよう。目標とする竜種だけでなく、その過程で実験の対象とした命ある者達への敬意も忘れぬと誓おう。彼らを舐める事も二度とせん」
「結構よ」
「ねえ、パティ。それって最初から魔力を流しちゃうんじゃダメなの?」
「魔力抵抗が人間とは比較にならない可能性が高いわ。実際エリクにだって魔力を流せない物質は存在するもの」
あのフォレストヴァンプの翼膜とかだな。私の本体を覆っている袋のやつ。
「操りやすいドラゴンを探してみるのはどう?」
「それも手ね。けど飛行種に限るなら難しいのよ」
「どうして?」
「飛行種ってそもそも魔力を持たない種類は存在しないの。彼らの巨体で空を自由に飛び回るには翼の揚力だけでは到底足りないのよ」
なるほど。魔力でそれを補っているのか。ならば竜種は魔導を扱えるのだな。それも都合が良い。私が操ればより多彩な手札へと昇華出来るだろう。同時に私自身も彼らから学べる事は多いはずだ。
「でもエリクならゴリ押せたりしないかしら?」
「それを確認する為にも順繰り進めていきましょう。どの程度の相手なら強引に支配出来るのか、出来ないならどこまで弱らせればそれが可能なのか。先ずはその辺りの事から知っていきましょう」
私の体に使われている素材のように竜種とて全ての部位が魔力を通さないわけではない筈だ。鱗を剥げば通るかもしれん。或いは肉を割いて直接骨や臓器に触れる必要があるかもしれん。生きた状態と素材として加工済みの状態ではまた違うかもしれん。細かく検証していく必要があるだろう。
ついでと言ってはなんだが、それらの研究成果はパティが本来目指している魔導普及の為にも役立てられそうだな。私が直接魔力を流さずとも、人の魂にかけられた呪いを洗い流す術が見つかるかもしれん。
今のところ私の魔力でしかそれは成し得ていないが、私の魔力では同時に依存症の効果も出てしまうからな。そこは切っても切り離せんのだ。小さな傷を癒やすのとではわけが違うからな。
「先に私達で試してみるのはどうかしら?」
「勘弁してくれ。ディアナの肌を切り刻めるわけがなかろう」
「エリクが治してくれるんでしょ?」
「だとしてもだ。どさくさ紛れで眷属化を進めようとするでない」
「ちぇ~。ざ~んねん」
「お嬢様。端ないですよ」
「あら、おかえりメアリ。お客様はお帰りになられたのね」
「丁重にお送り致しました」
「ありがとう。それじゃあ早速だけど」
「手配済みです。既にトリアが動いています」
「ふふ♪ 流石ね♪」
「恐縮です」
「屋敷の警護ならば我が眷属達にも任せておけ。前回程厳重に回る必要は無いぞ」
「油断は禁物です。エリク様。冒険者達は対魔物のエキスパートです。蜘蛛型魔物と近しい彼らでは弱点を突かれる事もあるでしょう」
「そうか。そうだな。ならばそう伝えておこう。彼らならば対策の対策も用意してくれるだろう」
「過信しすぎもよくないわよ? あの子達が可愛いのはわかるけど」
「もちろんだとも。その辺はパティの意見も聞かせてもらおう。大丈夫だ。あの子達は賢い。必ずパティの知恵をも活かしてくれるだろう」
「まったく。言っても聞かないんだから。良いわ。万全を尽くしましょう」
「うむ。頼むぞ。パティ。そして皆もな」
「「「「「お~~!!!」」」」」