03-25.短気は損気
「先ずはクランの話よ」
「あ♪ そうでした♪ クランの名前をお決めください♪」
「後よ後。先ずはこちらの質問に答えなさい」
そうだった。名前を決めねばならんのだったな。先に案だけでも考えておくか。
「ギルドは私達に何をさせたいの? わざわざあそこまで便宜を図ったのはどういうつもり? まさか王宮から圧力でもかかっているの?」
「そんなわけないじゃないですか。これは全てギルドとしての判断です。あなた方の力を見込んだからこそなのです」
「確かに妖精王の力は強大よ。けど実績豊富なクランだって存在するじゃない。彼らを差し置いてこんな小娘達を担ぎ上げる理由が他にあるって言うの?」
「そのように卑下なさる必要はございません。それともまさか、メイガスさんともあろうお方が妖精王陛下の価値を十分にご理解なさっていないのですか?」
「私は正確に理解しているわ。だからこそ聞いているんじゃない。あなた達の本心を言いなさい。妖精王に何をさせたいのかしら?」
「別に何も。ただ所属をハッキリさせて頂きたいのです。どうやら妖精王陛下は王家に仕えるつもりは無いようですし」
「反乱でも企てているかのような口ぶりね」
「ふふ。まさか♪ ただギルドとしては誇示したいだけなのです。妖精王陛下には看板を背負って頂きたいのです」
なるほど。広告塔になれと言っているわけか。ギルドのトップエースを名乗らせる事で箔をつけたいのか。
「そんなの既存の冒険者達に悪いじゃない」
「何を甘いことを仰っているのですか。彼らは実力こそが全てです。悔しければ妖精王陛下を超えればいいだけの事です。我々はそのお手伝いをさせて頂くだけなのです」
それで競い合わせたいと。直接対決でなくとも討伐実績等でも競い合えるものな。私は火付け役というわけだ。彼らに今以上のやる気を出させる為の。超えるべき目標になれと言いたいわけだ。新人にやらせる事じゃないな。
「それって槍玉に上がるのは私達よね? 王家から挑戦を受けたように、今度は国中の冒険者達が挑んでくるってわけよね?」
それは御免だなぁ……。折角落ち着いたのに……。
今度はガチの暗殺者とか送り込まれてきそうだ……。そういう汚い手を使ってでも目の上のタンコブを排除しようとしてくる可能性もあるのだ。今度は第三王子のとこみたいにスノウやミカゲのような素人同然の者達を送り込んでくる事も無いだろう。
或いは単に名を売る為だけに挑んでくるのかもしれない。何にせよ、同業者達から嫌われるのは間違いない。運営側であるギルドから依怙贔屓されるのだ。しかも一切実績も無いままだ。
例えここから実績を積み上げようとしたとて、最初はギルドのテコ入れのおかげとしか思われまい。なんだったらギルドとグルになって実績を偽装しているとすら疑われるかもしれん。それくらい今回の抜擢は大雑把に過ぎる。パティが姫である事も知れ渡っているようだし、その辺りも働いて変な方向に飛躍するかもしれない。
「さあ? そこまでは。ただ他の皆様にもプライドや面子がありますから。負けっぱなしというわけにもいかないのも、想定される事ではありますね」
「確信犯じゃない!」
「ふふ♪ 頑張ってくださいね♪ 我々も全力で応援させて頂きます♪」
つまり煽ると。種火を拾い上げて着火させるつもりだと。更にはそれを燃え上がらせたいと。酷い炎上商法だ。やはり私達の都合なんぞ何にも考えておらんな。
「メイガス。受けて立とう」
「エリっクシャナ!? なんでそうなるのよ!?」
「先にも言った通りだ。実績を積み上げて黙らせてやろう。挑む者が居なくなるほどの力を示そうじゃないか」
それもそれでギルドの思うツボだとは思うがな。彼らとしては勤勉な実力者が手に入るだけだ。何も損はしていないのだ。だがやはり、それだけで終わらせるのは癪だよな。
「貴殿らは我々を利用すると口にした。プライドがあるのは我々も同様だ。そうでなければ今後も舐められ利用され続けるだけだからな。これはギルドからの挑戦状と受け取ろう」
またしてもこうなってしまったか。だが既にこれも避けられぬ事態だ。ギルド長がクラン設立を強行したのはそういう意図だったのだろう。止めたければあの時点でなんとしても断るしかなかったのだ。だが既に後の祭りだ。それにこのままでは終われない。降りかかる火の粉は払わねばならない。私も覚悟を決めよう。
「私は真っ向からこれを打ち破ろう。貴殿らが泣いて許しを請うまで手を緩めぬと誓おう。帰ってギルド長に告げよ。私はクシャナとしてではなく、妖精王エリクとしてこの誓いを遂げてみせると」
妖精王とクシャナの関連性も広まりかねんな。まあこれも致し方ない。
「クラン名は……、そうだな。【マギア・グラティア】とでも名乗ろうか。よしこれで用は済んだな。お引き取りをナタリア殿。メアリ。送って差し上げろ。ああそうだ。手土産も忘れずにな。菓子もいくらか包んでやれ」
「承知致しました。エリク様」
「ふふ♪ 妖精王様はおっかない方ですね♪ それでは失礼致します。皆様の今後のご活躍に期待しております♪」
ナタリアさんは素直に席を立ち、メアリの先導で帰っていった。
「ちょっと! エリク! 何勝手な事してるのよ!」
「マ~♪ 良イジャナイデ~スカ♪ フフ♪ ハニィ~は豪気デェ~スネ♪ ソレでコソ私のハニィ~デ~ス♪」
「お姉ちゃんもエリクちゃんの意見に賛同します。奴らに一泡吹かせてやりましょう♪」
「まあ実際それしか無いわよね。いいわ。私も出来る事は何でもするわ」
「よくわかんないけど私も頑張る。パティがバカにされてるのは許せないから」
「しゅてー!!」
「なんかまた大事になってきたね。けどもちろん私もパトの味方だよ♪」
「皆まで……」
「ギルドはパティを軽んじた。あくまで興味があるのは私だけだと口にした。なればパティこそが我々の中心なのだと見せつけてやろう」
「ナタリアはそこまで言ってないじゃない」
「言ったようなものであろう。パティに期待する事は何も無いと言ったのだ。ただ私を餌にしたいと。目論見はそれだけだと。ギルド長も同様だ。わざわざパティを挑発してクラン設立の流れに繋げたのだ。ギルド長の立場でSランク候補の選定理由を知らんわけがないだろう」
何がお利口さん加点だ。何が悪しざまに言ったつもりは無いだ。パティを怒らせて冷静な判断力を失わせたかっただけだろう。
「そういうエリクこそカッとなって追い返しちゃったじゃない。まだ聞きたい事だってあったのに」
「そうだな悪かった。そこは謝罪しよう。だがもう聞く必要はあるまい。それより作戦会議だ。先ずは足を確保するぞ」
「もう。エリクったら」
「本当にドラゴンを従えられるなら門番としてもうってつけね♪」
「大丈夫なの? ディアナ? このお家はペット飼っても良いの?」
「問題ないわ。お父様には私から手紙を書いておくから」
メアリとトリアに上手く取り計らってもらおう。すまんな二人とも。これからまた迷惑をかける事になりそうだ。