03-24.チョロ姉
「え~♪ 言えるわけ無いじゃないですかぁ~♪」
どうやらナタリアさんは大層な呑兵衛だったらしい。上機嫌ではあるものの、未だに酔い潰れる気配は見せていない。もう随分飲んだのに。それに結構な健啖家でもあるようだ。細い体してるのにいったい何処に消えたのだろうか。
「エリク」
「なんだ?」
今度は何を怒っている?
「見すぎ」
ああ。悪かった。そうだな。目論見がバレてもつまらんものな。いやもうバレてそうだけど。
「ふっふっふ♪ メイガスさんもまだまだ甘いですね♪ この程度でお姉さんは籠絡できませんよ♪」
ほら。あんな事言ってるし。
「聞き捨てなりません」
あれ? レティ?
「パティのお姉ちゃんは私だけです」
ああ。そっちか。
「いや、パティにはまだ十六人もの姉君がおるだろうが」
第十八王女だし。それにジェシー王女みたいな存在も含めればもっといるだろうし。
「いません。お姉ちゃんはお姉ちゃんだけなのです」
あかん。これ触れたらダメなやつだ。下手をすると他の姉君達を亡き者にするとか言い出しかねん。
「レティお姉ちゃん」
「はい♪ なんですか♪ ユーシャちゃん♪」
「これ食べさせて」
「喜んで♪」
「しゅてー!」
「はい♪ シュテルちゃんも♪」
良かった。ナイスだ。ユーシャ。これで暗黒面に落ちる心配は無さそうだ。
「メアリ。お客様がお帰りよ。それと私達のデザートもお願いね」
「え!? ちょっと!? それはズルいですよ!?」
パティもなんだかんだと堪え性が無いな。レティといい、王族はみなこうなのだろうか。
「ナタリア。私は貴方を信頼しているわ。きっと私達をただ利用するだけの汚い大人なんかじゃないって」
「ぐっ!」
「あなたが居てくれたからこそ私は冒険者を続けてこれた。幼い私の世話を焼いてくれたのは他でもないあなたよ」
「ぐふっ!!」
「改まってこう言うのは恥ずかしいのだけど、私はナタリアの事を母や姉のように思っているわ」
「ぐはぁっ!!!」
ナタリアさんが追い詰められていく。この様子だと本当に疚しい事でもあるのだろう。反応がだいぶ大袈裟だ。単に悪ノリしてるだけかもだけど。
そもそもパティだってナタリアさんの事は大して信頼している様子も無かった筈だ。ギルドで呼び止められた時は咄嗟に「げっ!?」とか言っていたし。あれはどうみても慕っている相手と数ヶ月ぶりに再会した少女のものではなかった。
「メアリ? 今日のデザートは何だったかしら?」
「妖精王陛下考案の菓子にございます。姫様」
「ふふ♪ あれね♪」
作ったな。そう言えば。一ヶ月の缶詰生活を強いた詫びに以前私が振る舞ったのだ。レシピは渡していたが、まさかここで引っ張り出してくるとはな。私のような素人が作ったものではない完成品はどんな仕上がりだろうか。こちらまで楽しみになってきたな。
「なっ!? それってまさか!?」
「ええ♪ 市場には出回らない品よ♪ ふふ♪ あれ本当に美味しいのよね♪ お城でも食べたことが無かったわ♪」
いや、大袈裟過ぎない? 言う程大したものじゃないよ?
「ななななななな!?!」
大丈夫? ナタリアさん何か壊れてない?
「残念だわ~♪ ナタリアにも是非食べてもらいたかったのに~♪ でも仕方ないわよね~♪ 今日の所は忙しいみたいだもの~♪ あまり引き止めても申し訳ないものね~♪」
「いや! あの! その!」
「あら? もしかして予定は空いていたのかしら? ならもう少し"お話"して頂けるわよね? 勿論デザートが来るまでの間で構わないわ♪」
「くっ! ……良いでしょう! 何でも聞いてください!」
「ふふ♪ 何でもって言ったわね♪」
「あ! いや! その!」
「大丈夫よ♪ 安心なさい♪ ナタリアの立場が悪くなるような事は聞かないわ♪」
「あ、ありがとうございます。あはは~……」
「うふふ♪」
なんかチョロ過ぎて逆に不安になるな。実は追い詰められているのも演技だったりしない? なんかナタリアさんって結構面の皮が厚いみたいだし。そうでなければ単身ノコノコとこんな場所に乗り込んで来たりはせんだろう。パティもくれぐれも油断せんようにな。
なんならここから更にいいように利用される可能性だってあるやもしれん。あのギルド長共々あまり信用すべき相手ではなさそうだ。ギルドの利益が一番っぽいし。
けどパティの愛され属性ならば或いは? いや、そう油断するのは良くないな。せめて周りの私達は気をつけておくとしよう。うむ。