03-23.姉力
「お~! きあきあ~!」
「なんでエリクがSランクなの?」
我が娘達は対照的な反応を示した。見た目はそっくりなのに。別に顔は似てないけど。
何故か今日の二人は私と同じ黒ゴスだ。ユーシャは最初恥ずかしそうにしていたが、皆から可愛い可愛いと持て囃されている内に満更でもなくなったようだ。今では堂々と妹や私とのペアルックを受け入れている。ナイスだシュテル。
私がSランク認定された件について、残念ながらユーシャは喜んでくれなかった。ユーシャのこういう所は良くないと思うのだが、今回ばかりはその気持ちもわからんでもない。
「ユーシャもそろそろ昇格試験を受けてみてはどうだ? メアリの訓練も続けているのだ。きっと今ならより上位のランクにも上がれるはずだ」
なんなら私がユーシャの体で試験を受けても……いやダメか。流石に。
「そんなわけないじゃん。エリクの意地悪」
なんで!?
「む~!! まぁま! めっ!」
えぇ……シュテルまでぇ……。
「おねーちゃ!」
よしよしとユーシャの頭を撫でるシュテル。すっかり仲良し姉妹だ。もう私よりユーシャの方が懐かれている。嬉しいけど寂しい……お母さんももっと仲間に入れてほしい……。
「ディアナ達はどうだったの?」
「私とシルヴィーはDランク、ロロはCランクよ」
Dランクでも十分過ぎる程下駄を履かされているようだ。たぶんクラン設立の件とかも込みで必要だったのだろう。総合ランクがどうこうとか言ってたし。
ロロだけ高い理由は何だろうな。ギルド長がやっていたように他者の力量が見ただけでわかる者でもいたのだろうか。或いはロロの正体を予め知っていたのかもしれん。なんか身元の確認も重要だって言ってたし。
それでもAではなくC止まりなのは、何の実績も無いからだろう。本来まっさらな状態では精々Dランクが限度っぽい。
「むぅ……」
ユーシャはまた不満そうだ。ユーシャも現在Dランクなのだが、ユーシャの場合はFランクからコツコツ積み上げてDランクになったのだ。ディアナ達がいきなり自分と同じランクにまで引き上げられるのは確かに面白くないだろう。こんな事ならユーシャ達も連れて行くべきだっただろうか。同時に昇格試験でも受けさせておけば多少は……。
いや、これもまた経験か。ユーシャには少々利己的な部分があるからな。これは単にその精神が幼すぎるが故ではあるのだろう。私以外と関わるようになってからまだ精々半年程度だ。他者と共に暮らすという事を本当の意味では理解しきれていないのだろう。だからきっと何れは落ち着くはずだ。
恋人達や妹、姉や他の家族達が出来て日々経験を積んでいる最中なのだ。実際シュテルに関しては多少の事で機嫌を損ねる事はなくなった。今では私がシュテルを抱いているだけで突っかかってくる事も無い。素直に喜ぶシュテルを可愛がってくれている。こうやって子供は成長していくのだろう。
なんだか感慨深いものだな。いやむしろ私の方がダメかもしらんな。それだけユーシャと二人で過ごせる時間が少なくなっていくのだし。
本当にダメだな。こんな事ばかり考えていては。現在のユーシャの性格は私のせいなのだろうな。だが幸いここには手本となる者が多くいるからな。きっと心配は要るまい。
「はいどうぞ。これも美味しいわよ」
「え~♪ 良いんですか~♪ それでは遠慮なくぅ~♪」
あっちも順調なようだ。パティがナタリアさんに何かを吐かせようとたっぷり飲ませている。姫様からお酌してもらえるなんて大層なご身分だな。いいなぁ。私もあれやってほしい。残念ながら酒自体を禁止されてるけど……。
「エリクちゃん物欲しそうですね。お姉ちゃんがあ~んしてあげましょうか?」
「遠慮しておこう。そういうのは二人きりの時にすべきだ」
「ふふ♪ 二人きりなら良いんですね♪」
「エリク」
「冗談だ。怒るな」
まだレティの事は口説いちゃダメだったな。勿論わかっているともさ。
「大丈夫ですよ。ユーシャちゃん。ユーシャちゃんに内緒でエリクちゃんとそういう事はしませんから」
「……うん」
レティの言葉に一応頷くユーシャ。レティはユーシャの信頼を着実に積み重ねてきた。今の少々機嫌がよろしくないユーシャでも大好きなレティお姉ちゃんにこれ以上絡むつもりはないようだ。
「ユーシャちゃんは今度私と二人でギルドに行きましょう。こっそり特訓です♪ 要は実績さえあれば良いのです♪ あっという間にユーシャちゃんのランクを上げてみせます♪ お姉ちゃんに任せてください♪」
「……うん。ありがとう。お姉ちゃん」
「はい♪」
「しゅてー!」
「はい♪ その時はシュテルちゃんも一緒です♪」
「きゃっ♪」
よかった。これで落ち着きそうだ。ナイスだレティ。




