03-22.思いつきと賛同者達
「あら? まだ居たの?」
「うむ。パティ。丁度良い所に来てくれた。飛行種のドラゴンはどれだ? 乗り物が欲しい。見繕っておくれ」
「は? 乗り物?」
「なんでもないわ。ナタリア。クシャナも悪いけどその話はまた後でね。今は帰りましょう。メアリ達が昼食の用意をして待ってくれているはずよ」
それもそうだな。折角のご馳走が冷めてしまっては忍びない。早々に帰宅するとしよう。
パティとナタリアさんと合流し、皆で連れ立って屋敷へと向かう。姫様や公爵令嬢もいるのに移動手段は自らの足だ。ナタリアさんは流石に少し驚いていたが、すぐさまそんなものかと納得してしまった。
パティ自信の意思が絡んでいるとは言え、こうも普通に扱われていると少しばかり疑問も湧いてくる。
「ナタリア殿は何時頃からメイガスの担当を?」
「かれこれ五年程でしょうか」
流石に早すぎないか? パティはまだ十一歳の頃から冒険者なんてやっていたの? まあ、ユーシャはもっと早かったけど。とは言えユーシャの場合は仕方がない。生きていく為にはそれしかなかったんだし。
というか、そうか。冒険者をやっている期間だけならユーシャの方が長いのか。中の下レベルのユーシャとRTA走者みたいなパティとではその経験量も比ぶべくもないだろうが。
「クシャナさんはどのような御縁でメイガスさんとお知り合いになられたのですか?」
「ダメよ。ナタリア。冒険者に個人的な事は聞かないなんて鉄則でしょ。職員のあなたが破ってどうするのよ」
「それはあくまで冒険者の方々にとっての暗黙の了解です。職務規定として記されているわけではありません。むしろ職員としてはギルドに所属する冒険者達を知る必要がありますから。極端な事を言えば犯罪者達の隠れ蓑にだってされかねません。ギルドカードが通行手形としても機能するのは我々の調査あってのものです。どうかご理解くださいませ」
「私の時は聞かなかったじゃない」
「必要ありませんでしたので。御身の正体は最初から割れていたのです。殿下♪」
当時十一歳だものな。この国なら強者に自由を与える事はおかしくないが、当時のパティに護衛の一人も付いていなかったとは思えない。パティ自身は一人で出し抜いたつもりでも隠れて見張っていた者もいたのかもしれない。
「やめなさい。冗談でもその呼び方はダメよ。ましてやこんな往来でなんて以ての外よ」
「失礼致しました。ですがそれもまた要らぬご心配かと。メイガスさんはご自身の思っている以上に有名なのですから」
写真も映像も無いのにこの世界の人達ってどうやってか有名人の事は把握してるんだよなぁ。城下町ともなれば尚の事だ。姫様の顔を知っている者がいてもおかしな事ではない。
「ナタリア」
「はい。もう言いません」
随分と親しげだ。五年もの付き合いだそうだしな。パティとそれだけ付き合っていれば親しみも抱くだろう。パティは人誑しだからな。
「そう言えばクシャナさん。先程仰っていた乗り物の件ですが」
「ナタリア!」
「まあ良いじゃないか。パティ。まだ出来ると決まったわけでもないし、それにドラゴンを王都に近づけるなら事前の根回しも必要となってくるだろう。その辺の事を相談させてもらうには都合が良いのではないか?」
「……そうね。わかったわ。好きになさい」
渋々だ。まあでも一応同意してくれた。さっきからナタリアさんに言い返され続けてたから少しフラストレーションが溜まり始めているのかもしれない。そこに私まで加わったのは良くなかったな。とは言え、こういう話は出来る時にしておくべきだ。忘れると後が面倒になるからな。
「ナタリア殿。私は動物や昆虫の類を使役出来るのだ」
「それが魔物にも?」
「実はまだ確かめていない。ドラゴンにも通用するのかは未知数だ。しかし試してみたい。屋敷の庭に着陸出来る程度のサイズ感で、尚且つ十人くらいを軽く運べる竜種が欲しい。当然そんなのが王都を出入りすれば問題も起きよう。その辺り相談に乗って頂けるだろうか?」
「ギルドの方はお任せください。それからご承知の事とは思いますが王宮にも許可を得る必要があるかと」
「うむ。そちらはパティに任せよう」
その時はメイガスではないパティの出番だ。なんならベルトランに頼んでも良いかもしれん。
「先ずは小型の鳥系魔物で試してみましょう。次に高魔力抵抗を持つ魔物で。それから少し大きめの魔物。順番によ。いきなり竜種は試せないわ」
「うむ。その辺はパティが決めておくれ。いや、後で二人で考えよう」
「ええ」
パティも少し楽しそうだ。わくわくしているのだろう。こういう企み自体は好きだもんな。ふふ♪
「でしたら是非私もご一緒させてください♪ ギルドに報告された魔物の目撃情報ならば私が全て把握しております♪ 必ずやお役に立てるでしょう♪」
なんかこっちも食いついてきた。ナタリアさんはなんでそんなに楽しそうなの? ギルド的には胃の痛くなりそうな企みじゃない?
「ちなみに妖精王陛下。ご相談なのですが」
敢えてクシャナじゃなくてそっちで呼んできた?
「そうだ。それで思い出した。ナタリア殿。私の正体は内緒にしてくれと言ったではないか。何故ギルド長殿が把握していのかね?」
「あはは~♪ 申し訳ございません♪ ですがこれも職務ですので♪」
反省する気はなさそうだ。でもまあ仕方ない。どうせバレていた事だろうし。パティと連れ立って来た時点でこうなる事は想定して然るべきだった。
「それで相談とは?」
「はい! その乗り物についてなのですが! 一般に貸し出されるご予定は!? 同時に何体まで制御可能ですか!? 竜種ともなれば餌代も相当なものと存じます! 彼らをお手元で維持する為にも是非ご検討の程を! その際には是非私も協力させて頂きます!」
なんかえらい興奮してらっしゃる。
「近すぎよ。ナタリア。人の恋人に迫らないでよ」
ナタリアさんを引き剥がすパティ。
「ハァ~ニィ~」
金の気配に釣られてロロまで纏わりついてきた。
「やらんぞ。貸出なんて」
いやまあ、航空会社とか設立したら莫大な富が築けるだろうけど。
「「「え~~!」」」
ロロまで混ざるな。後もう一人は誰だ?
「セビーリアにも何時でも帰れるのかと思ったのに……」
なんだシルビアか。
「シルヴィーは心配要らんだろうが。私の家族なのだ。何時でも運んでやるともさ。そもそも竜に頼らずともパティが飛んで運んでくれるだろうに」
「卒業したら一度里帰りしましょう。私もお祖母様にご挨拶に伺わないとだから」
「うん♪ その時は皆でね♪」
「全員で行くのか? そうなるとディアナの編入試験後から新学期までの間、或いは夏季休暇まで待つ事になるだろう。距離を考えると難しいのではないか?」
そもそもまだ戦争中じゃなかったっけ?
「一先ず私とシルヴィーだけで行くわ。全員で行くのはまた今度ね」
「私も行きたいわ。お祖母様と会ってみたいの」
そう言えばパティの祖母ってことはディアナにとってもそうなんだよな。二人の母親が姉妹なわけだし。
「ならやっぱりドラゴンの出番だよ♪」
「どうだパティ? いけると思うか?」
「後二ヶ月ちょっとよね……その間学園もあるし……」
言うても卒業間近なら、そう詰め詰めってわけでもなかろう? パティは少しでも長く学園にいたいのだろうけど。
「いいわ。先ずは計画を立てましょう」
「「「「やったぁ~!!」」」」
なんか大事になってきた。




