03-21.良い子悪い子
「やられたわ……」
「なるほど。こう来たか」
結局パティもSランクに上げられてしまった。どうやらあの流れで承諾した事になってしまったようだ。私達の新しいギルドカードと一緒にしれっとパティの分も渡された。
「古い方を頂けますか?」
「……」
「まあまあ♪ そんな顔しないでください♪」
渋々とAランクのギルドカードを差し出すパティ。
だがどうやらそれもポーズだけのようだ。口元が若干緩んでいる。なんだかんだとSランクのギルドカードが嬉しいのか、或いは先程私と話した事を考えているのか。
「ではこちらにサインを」
パティは引き換えに差し出されたボードを受け取り、書面の内容を確認していく。
「本当にいいのかしら?」
「ええ。内緒ですよ♪」
何か都合の良い事でも書いてあったらしい。
「わかった。受け入れるわ」
パティがサインしてボードを返した。これで手続きは全て終わりのようだ。
「それじゃあ家に帰りましょうか」
「「え!? 依頼受けないの!?」」
ディアナとシルビアがショックを受けている。
「ごめんね。色々と話し合う事があるのよ」
「別に今日でなくとも良いのではないか?」
更新までは数ヶ月あるんだし。
「う~ん。出来ればメアリの意見も早めに聞いておきたいのよね」
「でしたらこちらをお使い頂いて構いません」
「ありがとう。けどギルドでは話せないの」
「遠慮しないでください♪ 私とメイガスさんの仲じゃないですか♪」
「はいはい。だから家には招いてあげるってば。何にせよ一旦帰りましょう。そろそろお昼の時間だもの」
「え!? それって私もご相伴に!?」
「構わないわよ」
そう言いつつメアリに目配せするパティ。メアリも承知したと視線で応えた。
「本当ですか!? やりました! お姫様との会食なんて夢のようです!」
「え? 別に普通じゃ、むぐっ!?」
「メアリ。饗しの準備をお願い」
「畏まりました」
メアリが一人で部屋を出ていった。先に帰って仕込みをしてくれるのだろう。いっぱい飲ませていっぱい喋らせるつもりだ。何を聞きたいのかはよくわからんけど。
「やっぱり少し確認したい事があったわ。悪いけどロロ先輩とエリ、クシャナは二人を連れて先に帰ってて」
「了解デェ~ス♪」
ロロもこういう時は察しがいいな。パティは少し時間稼ぎをするつもりのようだ。今日の昼食はさぞや豪華なものとなることだろう。
「では帰ろうか。ディアナ。シルヴィー」
「「は~い」」
良い子。
パティを置いて四人で退室し、そのままギルドロビーにまで戻って来た。掲示板を目にしたディアナとシルヴィーが一目散に駆け出していく。悪い子め。
「エリク! エリク!」
「先生! 先生!」
燥いでるなぁ~。
「クシャナだ。何を見つけたんだ?」
「「これ!」」
仲良いなぁ~。
えっと? なになに? ……レッサードラゴン?
「「見てみたい!」」
「お約束デェ~スネ♪」
「……メイガスと相談してみよう」
「「「???」」」
?
「ああ。パティの事よね。ええ。もちろん覚えていたわ」
「あはは~」
嘘だろ? いったい今まで何に気を取られていたんだ?
「だが本当にこれで良いのか? レッサーという事はそう強いわけでもないのだろう?」
私もエンシェントラヴァドラゴンとかいうやつには一度会ってみたいな。私の体にはその骨が使われているのだ。それにもしかしたら蜘蛛達のように支配して操れるかもしれん。
そうだ。どうせなら飛行能力を持った竜種が欲しいな。それで乗り物にするのだ。偵察用に鳥も欲しいが、やはり遠乗り用の乗り物はある程度のサイズが必要だ。
残念ながらレッサーは翼を持たぬ地竜の類らしい。こやつではダメだ。何か他の討伐依頼は無いだろうか……。
「ならこれはどうかしら?」
「ふむ。スカイハイドラゴンか。悪くない」
「先生、こっちは?」
「ウイングゴッドドラゴン? 大層な名前だな。だが強そうだ。これも悪くない」
「ハァ~ニィ~♪ コレはドーデスカァ~♪」
何故か背後から絡みついてきたロロ。しかもやたらと甘ったるい声付きだ。周囲から妙な視線を感じる。まあ今更か。
何がしたいのかはなんとなくわかるけど、これって女性同士でやって意味あるんだろうか。私が男性だったら周囲からの嫉妬でフルボッコにされていたかもしれんな。
諸々スルーしてロロが見せてきた依頼票に視線を落とす。
「なんだ? 巨大ゴーレム? ドラゴンではないのか?」
「操~ルツモ~リナラ~コレも良イと思イマ~スヨ~」
「おい普通に話せ。お前のは只でさえ聞き取りづらいのだ」
「ナッ!? ナンテ言イ草デェ~スカ!」
「くだらん悪戯を仕掛けてきたのはお前だろうが。それよりゴーレムに用は無いぞ。何せ我が眷属達は賢いからな。小さな蜘蛛達ですらああなのだ。ドラゴンならば何の心配もあるまい。私が毎回操作する前提で考える必要は無いのだ」
「順番に行クベキデハ~? イキナリドラゴンは大変デェ~ス」
「パティでも倒せるのだろう? ならば問題なかろう?」
エンシェントラヴァとかやたら強そうなやつ倒してきたんだし。
「パティ~は~トォ~ッテモ賢イのデェ~ス。ハニーのヨウナァ~ガチンコ脳筋とは違イマ~ス」
「なんだその言い方は……まさか拗ねているのか? 悪かった。言い過ぎた。だから喧嘩は止めよう。すまん。ロロ」
「別に怒ッテマセ~ン。事実を言ッタダケデェ~ス。ケド仲良クスルノは大歓迎デェ~ス♪」
なんだ。謝り損ではないか。まあ、ロロの機嫌が良くなったっぽいから良しとしておくか。
「つまりは戦い方に工夫が必要だと言いたいのだな。真正面から突っ込めば私でも勝てないと?」
「ソノ通リデ~ス♪ 良ク出来マシタ♪ 花丸アゲマス♪」
やっぱり機嫌悪くない? バカにしてない?
「ロロはドラゴンとやりあった事があるのか?」
「アリマセ~ン。逃ゲマシタ~カラ~。アレに一人デ立ち向カオウナンテ思エマセ~ン」
ロロはいったいどんな化け物と遭遇したんだ?
「パティを舐メテはダメデ~スヨ~。アノ娘はトンデモナイ事をシテルノデ~ス」
ああ。それで苛ついていたのか。そうだよな。
「ロロ。すまん。パティの事も決して軽んじているわけじゃない。私は無意識の内に調子に乗っていたようだ。もう二度とあの娘を軽んじるような発言はしない。そう誓おう」
「ハニィ~も良イ子デェ~スネ♪」
お前もだな。ロロ。