03-20.強引な上司
「メイガスさん。クシャナさん。お二人だけ移動をお願いします」
暫くして戻ってきた、というか扉を半分開いて顔だけ出したナタリアさんが声をかけてきた。
「ダメだ。話しを聞くのは全員だ」
分断してどうしようと言うのだ? 人質にでもするつもりか?
「もうエリクったら。何でいきなり警戒モードになるのよ。大丈夫よ心配は要らないわ。私達だけで行きましょう」
「エリク様。この場には私もおります。ご心配なく。まだまだ若い者に遅れを取る事はありません」
メアリはまだ根に持ってたの? 悪かったってば……。
まあでも、メアリとロロが居れば心配も要らぬか。ディアナとシルビアは戦えんだろうが、それでも過剰戦力と言って差し支えあるまい。何せSランク相当が二人もいるのだ。パティを基準とするならだが。
「すまん。ナタリア殿」
「いえ。構いません。よくある事ですから。では付いてきてください」
冒険者って喧嘩っ早そうだものな。あれ? 私もそんなのの一人だと思われてる?
「こちらです」
然程時間もかからずに目的地へと到着した。案内されたのは会議室だ。既に誰かが腰を下ろしている。
「ギルド長。お連れしました」
「おう。ごくろう」
私達を席に案内するとナタリアさんはギルド長の隣に腰を降ろした。どうやらこの四人で話をするようだ。
「なるほどな。まあ悪く無い。実力に間違いは無いようだ」
こやつ遠慮と言うものを知らんのだろうか。そんな真正面から堂々と品定めしてくる奴があるか。それも初対面の相手に。いやまあ、就職面接と考えれば当然なのかもしれんが。
「だがこっちはまだじゃないか?」
「メイガスさんは安定した実績を残しています」
「なるほど。お利口さん加点か」
なにそれ? そういう事? 実はパティって実力的にはSランク足り得ないの? 単に品行方正で頑張り屋だからおまけしてくれてるって事? ギルドへの貢献度が高い優等生だから将来性も加味して抱え込みたいって事?
なんなら飛行魔術を使えるからどんな依頼もスピード解決って点も加味されてそうだ。学生だからそもそもの依頼を受ける頻度だってそう高くはないのだろうし。
「随分な言い草ね。私は一度もSランクになりたいなんて言ってないじゃない。むしろずっと拒否してきたのよ? そっちの都合で勝手な事ばかり言うのはやめて頂けるかしら?」
あかん。今度はパティに火が付いた。いやまあ、言いたくもなるよな。そりゃぁ。
「すまん。そうだな。お前さんの言う通りだ。だが勘違いしないでくれ。別に悪しざまに言ったつもりはなくてな。むしろこれは誇るべき事だ。確かにこの業界は強さが全てだが、それだけじゃあSランクは任せられん。Sランクってのは実力も人間性も兼ね揃えた一握りの傑物だけが手にする称号だ。どうかそこを間違えないでくれ。ギルドはそれだけあんたの事を評価しているんだ」
「……そうですか。それで? これはどんな目的の下に行われる話し合いですか?」
そう言えばまだ何も聞いてなかったな。誠意を見せるつもりがあるならその辺も先にキッチリ説明して欲しいものだ。
「なら結論から言おう。お前達クランを組む気はないか?」
「は?」
「いや、わかっている。人数も実績も総合ランクも何もかもが足りていないと言いたいのだろう。だがそこは問題無い。何せ飛び抜けた実績があるからな。先日の騒動はこちらも把握している。あの精鋭相手にドンパチやらかしたんだ。さっきは実力だけじゃないと言ったが、他を圧倒する図抜けた実力もまた評価されるべきだ。あんたらは妖精王とやらにそれだけの力があるのだと示したんだ。その妖精王自身が冒険者になりたいなんて言ってくれるなら、こちらとしても相応の配慮を見せなきゃ示しが付かんというものだ」
まあ、あれこれ言ってるけど、要はノルマを課して利用したいってだけでは?
「今の段階ではお断りします。私達はまだ冒険者に専念出来る体制にはありません」
「もちろんすぐにとは言わん。少なくとも当面の間ノルマは課さんでおこう。学園の卒業までは準備期間だ。心配は要らん。普通クランってのはそれ以上に準備にも時間がかかるものだからな。先ずはお試しって事で制度だけ利用してみてはどうだ? あんたならその辺も熟知してるんだろ?」
「……少し考えさせてください」
「いや、その必要は無い。クランとしてこちらで登録させてもらう。必要がなければ更新しなければいい。次回更新は丁度年度の切り替わりだ。それ移行も続ける意思があるならそう示してくれ。ナタリア。メンバーの確認は任せたぞ」
ギルド長はそう言って部屋から出ていってしまった。一方的過ぎる……。
「メイガスさん」
「いえ。大丈夫よ。ええ。心配は要らないわ」
あかん。ちょっと苛ついてる。
「良いわ。精々利用させてもらいましょう」
「何をするつもりなのだ?」
「大丈夫よ。エリク。そんなビクビクしないで。別に怒ってないわ。利用すると言ったのはクラン制度の話よ。実は幾つか特典もあるの。使わせてくれるって言うなら遠慮なく使わせてもらいましょう」
「なるほどな。ちなみにどんなのがあるのだ?」
「一番の目玉はやっぱりクラン向けの大規模依頼を受注出来る事かしら。私達ならきっとどんな依頼もこなせちゃうわ」
私が魔力供給を担当して魔術師チームに砲撃を任せれば大量殲滅も容易いものな。確かに私達向きかもしれん。
「他にもいくつかあるんだけどその辺は追々ね。先ずは皆に報告しましょう」
そうだな。ここで私だけが聞いても二度手間だものな。今後の事は皆で話し合うとしよう。
「メイガスさん。よろしければ一度ご自宅にお邪魔させて頂けませんでしょうか」
「それは別に構わないけど、あの屋敷をクランの拠点として登録するつもりは無いわよ?」
ディアナのお父上の持ち物だからな。勝手にそんな事は出来まい。そもそも冒険者してる事自体内緒なんだし。そう言えばディアナが冒険者登録した事ってどう説明しよう? その辺すっかり忘れてた。まあメアリが同行してるくらいだし問題は無いのだろうけど。
「クランハウスについてはご心配なく。その辺りも次回更新時までにご用意頂ければ問題はありません。ああ、ですが一つだけ。クラン名は先に決めて頂けますか?」
「エリク。任せたわ」
「皆で考えよう。後今更だが、ナタリア殿と話している時くらいはクシャナと呼ばんか」
「そうね。戻りましょう」




