03-19.冒険者活動計画
ナタリアさんは私達の冒険者登録を進めてくれた。どうやら今すぐお偉方の前に引きずり出されるやもというのは杞憂だったようだ。少なくとも先に約束を果たしてくれるつもりはあるらしい。
まあ別にどっちでも良かったのだがな。Sランクに上がる事も前向きに検討するつもりなのだ。流石に私の経験は足りていないからすぐにという事も無いだろうけど。とは言え、パティの卒業までには間に合わせたいところだ。レティみたいに融通を利かせる方法もあるようだし、なんとかなると良いのだが。
「これで申請は完了です。結果は暫しお待ちください」
ナタリアさんは私達を応接室のような部屋に案内すると、そう言って部屋を出て行ってしまった。
「随分と端折られたわね」
「ああそうだな。ユーシャの時は実技試験もあった」
「筆記試験もあんなんじゃなかったでしょ。今回は殆ど名前書いてお終いだったじゃない」
「いや、ユーシャの時も似たようなものだったぞ?」
「え? そうなの? 私の時はもっとガッツリやらされたけど」
「担がれたんじゃないか?」
お姫様がお忍びで冒険者始めるとか「何それ面白そう」案件だものな。こっそり学力計ってみるくらいはするかもしれん。その問題用紙を誰が用意したのかは知らんが。
「ちょっと後で締め上げてみましょう」
もしかしてその時から担当はナタリアさんなの?
「あまり物騒な事はダメよ。パティ」
「ソウデェ~ス。パティはモット~ラブ&ピ~スの心を大切にシテクダサ~イ」
「ロロ先輩に言われるのは納得いかないわ」
そりゃそうだろうな。高額報酬に釣られてテロ組織に加担していた前科持ちだもの。
「私のランクどうなるのかな? もしかしていきなり高いのになっちゃったり? 嬉しいような。不安なような」
シルビアは呑気だなぁ。そこは不安一択だろうに。実力も確認せずいきなり高ランクにされたら何かあると勘ぐるべきだ。逆に低ランクにされても不満が出るだろう。どう転んだって良い解釈は出来まいよ。
「メアリの頃はどうだったのだ?」
「……エリク様」
「いや、違うぞ? 別にメアリが数世代前だと思っているわけではなくて……違うんです。ごめんなさい。そんな意図は無いんです。言葉の綾です。どうか怒りをお沈めください」
「まったく」
「メアリさんって冒険者だったんですか?」
そうかシルビアは知らんのか。
「ええ。"昔の"話しです」
「ごめんてば……」
「メアリ。エリクも悪気は無かったのよ。少しデリカシーが足りないだけなの。許してあげて」
「……はい」
ありがとう。ディアナ。今後は気を付けます。
「メアリさんって今お幾つなんですか?」
「「「……」」」
あかん。私よりデリカシー無いのがいた。というか空気読め。
「見た目は二十代ですよね? でも何でも出来て頼りになる方ですし、その経験豊富な感じはもうちょっと上でも不自然ではないですよね。ふふ♪ 私実はメアリさんに憧れてるんです♪ 私も将来メアリさんのような格好いい女性になりたいんです♪ きゃっ♪ 言っちゃった♪」
「「「「……」」」」
空気読め。ほんと。
「あれ? 皆どうしたの?」
「いえ……ありがとうございます。シルビア様」
メアリは流石の大人っぷりだ。なんなら満更でもなさそうだ。私の時とえらい違いだな。まあ素直に慕われるのは悪い気もしないだろうけども。とは言えこの話題を続けるのは危険だ。どう考えても。
「そうそう。冒険者になった後の事なんだけどね」
パティがあからさまに話しを逸した。
「何れは正式にパーティを組みたいと思うの。最初はランク差とかもあるから難しいかもだけど」
「高い人と低い人は組めないの?」
「ええ。特別な理由でもない限り認められないわ」
「なんで? 強い人と一緒に冒険して修行つけてもらったら皆強くなれるんじゃないの?」
シルビアは純粋だなぁ。
「皆がそうやって誰かの為にって考えてくれるなら良いかもしれないわね。けどそうとは限らないし、それ以外にも問題はあるのよ。残念ながらね」
「えっと?」
「えっとね。先ず依頼にもランクがあるの。強い人は強い人用の依頼、高ランク依頼を受けるの。勿論弱い人は低ランク依頼をね」
「うん」
「そんな時、強さが凸凹のパーティだったらどっちを選ぶべきだと思う?」
「う~ん? それって中間くらいでも良いの? 強い人が皆を守りながら経験を積めるように丁度良い依頼をこなすんじゃだめなの?」
「それだと勿体ないの。折角高ランクの人がいるのに高ランク依頼が余ってしまうもの。高ランク依頼は受けられる人が限られてる。だからギルドとしては高ランク冒険者に高ランク依頼を受けて欲しい。つまりは適材適所ってことね」
「でもきっと皆が早く強くなれるよ? そうなれば高ランクの依頼を受けられる人だって増えるじゃない」
「ふふ♪ そうね♪ それは素敵な考えよね♪ 実際その役割を担ってくれている人達もいないわけじゃないの。ギルド側から働きかけて組ませる事もある。けれどそれは見込みのある人達だけなの。一般的には認められていない。どうしてだかわかる?」
「……危険だから?」
「そうね。それも正解よ。高ランク冒険者側にはただ強いだけでなく、誰かを守れる力を持った人が必要よね。そういう意味でも限られているわよね。他には?」
「えっと……数が少ないから?」
「ええ。その通りよ。大して接点も無い他人の命を預かれて、尚且つ教え導ける程の人格と実力を兼ね揃えた者はそうはいないわ。当然そういう人ってどこでも重宝されるの。だからギルドで初心者の育成を請け負う人となると本当に限られた人数しか存在しないのよ」
そもそも冒険者になるとも限らんものな。この国なら尚更だ。強き者は王が率先して召し抱えているのだから。
「ギルドが間に入って組ませようとするのはそういった人達を効率良く回していく為でもあるの。他にもお給金を出す事でやっても良いという人を増やす意味合いもある。勝手に組むのを認めず、ギルド側の許可制にして斡旋する必要があるっていうのは納得できたかしら?」
「う~ん……でも仲の良い人達と一緒にいたいじゃない? 私嫌だよ? パトが他の人達ばっかり面倒見て私達の事放っておいたりしたら」
「ふふ♪ そうね。そういう問題もあるわよね。実は手が無い訳ではないの。そういう人達向けに、クランやユニオンと言った制度も存在するわ」
「くらん?」
「パーティが幾つも集まった組織の事よ。例えば私達でクランを組んだとするなら、ちょっと多いけど今日冒険者ギルドにやって来た私達を一つのパーティとして、お留守番してくれているユーシャ達をもう一つのパーティとするの」
「うんうん」
「クラン内であればパーティの組み換えなんかも自由に出来るわ。その代わりにパーティとしてではなく、クランとして依頼を請け負うの。クラン以上となると一定期間毎のノルマも課されるわ。クランの人数とランクに見合った依頼をこなす事で人員の無駄を産まないようにする仕組みなの」
「とっても素敵だね♪ 私達も組んじゃおうよ♪」
「ダメよ。クラン設立にも条件があるんだから。私達では何もかも足りていないわ」
「な~んだ……残念……」
だが私達にとっても都合の良い制度だ。先程パティと話したSランク向けの依頼をシフト制で対応するという案とも合致している。どの道ノルマは課されるのだしな。何れ改めて設立を考えてみよう。
「ユニオンはどう違うの?」
「規模の違いよ。クランよりユニオンの方が大きいとだけ覚えておいて」
「そっか。うん。わかった! ありがとう! パト♪ とっても勉強になったよ♪」
「ふふ♪ どういたしまして♪」
「あら? これで終わりかしら? さっきの話はまだ足りていないんじゃない?」
「気付いたのね。ディアナ。けどわざわざそれを口にする必要は無いわ」
「……そうね。ええ。シルヴィーはこのままが良いものね」
「何の話?」
「「何でも無いわ♪」」
仲良し。




