03-18.ルーキーズ
「ここがギルドね!」
新品の装備に身を包んだディアナが仁王立ちでギルドの建物を見上げた。
「端ないです。お嬢様」
「立ってたら邪魔になるわ。早く入りなさい」
「アハハ♪ ディアナはお子様デェ~スネ♪」
「もう! ちょっとくらい良いじゃない!」
急かされながらギルドに乗り込んでいく。今回は何故かメアリも一緒だ。他はパティとロロとシルビアだ。ユーシャ、シュテル、レティ、スノウ、ミカゲはお留守番だ。
全員でゾロゾロ来てもあれだしね。それにレティは自分がSランク冒険者である事を未だにパティには内緒にしているようだ。なんかズルしたから言いづらいっぽい。もしくは重い感情を向けている自覚があるのかもしれない。やりすぎて引かれたくないのだろう。
「シルヴィーはあまり燥がないのだな」
「お姉さんだからね♪」
いや、それなりに燥いでいるようだ。ただそれ以上に燥いでいるディアナの様子が微笑ましいのだろう。可愛い妹分にそんな視線を送っている。
「新規のご登録ですね。こちらの用紙にご記入ください」
窓口に辿り着くと私達が何かを言うまでもなく受付嬢さんが案内を始めてくれた。多分ディアナのお陰だろう。どう見ても新人って感じだし。装備に着られている感半端ないし。
「登録は四人よ。もう二枚頂けるかしら?」
パティが若干訂正を入れる。どうやら受付嬢さんはディアナとシルビアだけだと思ったらしい。
「これは失礼致しました」
チラッと私達を眺め回してから平常心で追加の用紙を差し出してくれた受付嬢さん。
よくよく考えると浮いてるのってディアナだけじゃないよなぁ。新品装備、女学生、ビキニ、ゴスロリの四人組とかわけわからんだろうに。加えて改造魔女っ子制服にメイドさんだ。よく堪えたなこの人。
「クシャナだけで良いのか?」
「ええ。フルネームで書く必要は無いわ。なんならエリク名義でもいいし」
「クシャナの方にしておこう」
たまに使わんと忘れるからな。
「メイガスさ~ん!」
「げっ!?」
なに? 誰?
「やぁっと来てくれました! ずっと待ってたんですよ!」
「だから昇格審査は受けないって言ってるじゃない」
「そう言わないでください! もうすぐご卒業ですよね! 今後は専念出来ますね! ほら! 問題ありませんよね! そうお時間は取らせませんから! ね! 今日やっちゃいましょう! 大丈夫です! メイガスさんなら確実です! 後はちょっとお偉方と話してサインするだけですから!」
「しつこいわよ。ナタリア。見てわからないの? 今日は連れがいるの。そんな時間は無いのよ。それに私は忙しいの。冒険者業には専念出来ないわ」
「そこをなんとか!」
「パティ? そちらの方は?」
見かねたディアナが言葉を挟む。
「ギルド職員のナタリアよ。王都支部での私の担当なの。それと、ここでは私のことはメイガスと呼んでちょうだい」
パトリシア殿下として扱われるのは本意ではないものな。それにしたって微妙な偽名だけど。そのまんま魔術師って名乗ってるようなものだし。パティらしい。
「なら少しくらいお話を聞いて差し上げたら? 承諾は出来ないにしても、それをちゃんと説明して納得していただかないとでしょう? こっちはメアリもいるから大丈夫よ」
「いや、それは……」
「お嬢様。生憎と話し合いで解決する問題では無いのです。ここはメイガス様を庇って差し上げてください」
「どういうこと?」
「詳細は後ほど」
「それでは納得出来ないわ」
「ナタリア殿を説得したところで意味は無いのだ。ギルドの上層部がせっついているのだからな。彼女個人に何かの決定権があるわけではない。ただ上から言われた事を履行しようとしているだけだ。それを諦める権利も無いのだよ」
勤め人とはそういうものだ。わかるぞ。うん。
「ご理解頂きありがとうございます。えっと、あなたは?」
「私はクシャナ。こちらがディアナ。それからロロとメアリとシルビアだ。パt、メイガスには私達の冒険者登録に付き添ってもらっている。ナタリア殿。悪いが少しばかり見逃しておくれ。なんならここに居てもらっても構わない。後でメイガスとの話し合いの時間も確保しよう。その時は私達も同席させてもらうがな」
「……もしやあなた様が妖精王陛下であらせられますか?」
ナタリアさんが小声で問いかけてきた。そう言えば先日の事件では冒険者達の挑戦者も居たのだものな。パティの正体を知っているならそりゃ私の事も知っているよな。
「内緒だぞ」
「……良いでしょう。後ほどお時間を頂けると言うなら問題はありません」
それから登録受付の受付嬢さんと何やら話し始めたナタリアさん。
「これより私がご案内致します。皆様どうぞ奥のお部屋へ」
登録作業してくれるんだよね? このままお偉方とやらの所に連れて行かれないよね?
「まったく。エリクったら。勝手な事してくれちゃって」
「そう言うな。こうでもしなきゃ向こうだって引っ込み付かんだろう」
「それはそうだけど……」
「まあ心配するな。なるようになるさ」
「もしかしてエリクが?」
「うむ。私でも代わりは務まるだろうさ」
幸い実績はバッチリだ。なんなら最初から高ランクにしてくれるかもしれん。
「目眩ましにはならないわよ」
「そうなのか?」
「担当にはボーナスだって出るもの。一人でも多くランクを上げたいに決まってるじゃない」
「ならいっそ辞めるか?」
「……それはそれで癪なのよね」
そうだな。ここまで頑張ってきた積み重ねを捨てたいわけではないだろうな。
「とは言え何れ決着をつけねばな。ナタリア殿も言っていたように学園卒業後は躱す口実も無くなるだろう」
「そうね……」
「そうなれば強制的に上げられるかもしれん。だがそもそもSランク昇格の問題は強制かつ高難度の依頼によって拘束時間が生まれる事だ。ならばその依頼は全て私が引き受けてしまえば問題も無かろう」
もしくはレティに聞いてみてもいいかもな。何故かあやつはSランク故の義務を回避してるっぽいし。
「ふふ♪ 強引ね♪」
「だが良い考えだろう? 私達で独占してしまおう。都度手が空いている者が引き受けよう。Sランクのシフト制だ。私達にならそれが出来るのだ。逆にギルドが音を上げるまで搾り取ってやろう」
レティはともかく、ロロだってパティ以上の実力者なのだ。諸々の問題が片付いた後ならスノウを冒険者にする手もある。これで四、五人は堅い。決して絵空事とは言えまいよ。
「良いわ。エリクの案に乗ってあげる」
「それでこそだ。行くぞ。パティ。むしろこちらから昇格を申し込んでやろう」
「ええ♪」