03-16.新フォーム
「気持チ悪イデェ~ス!!」
「なんだと!? この機能美がわからんのか!?」
折角我が下僕達を参考にして生み出した新フォームだと言うのに。結構練習頑張ったのに。
千手フォームは意外と無駄が多いのだ。騎士団長みたいな化け物と戦う時はともかく、普段は手足など八本で十分なのだ。まあ厳密には自前の分も含めて十二本あるんだけども。
新フォーム、モデルスパイダーは背中から四対の魔力手を生やした形態だ。動かし方は人間の手足ではなく、眷属である蜘蛛達のものを参考にしている。あの子達に何度も憑依して動きをマスターしたものだ。
眷属化と私の魔力によって通常の蜘蛛とは異なる存在へと進化した彼らは、私の意図を正確に理解して自らの意思で協力してくれるようになった。高い知性を獲得した事で忠誠心まで芽生えたらしい。今も屋敷の警護を請け負ってくれている。
私はそんな彼らに愛着が湧いたのだ。そうして幾度も観察を続ける内に強い興味をも抱いた。彼らの動きに私はある種の美しさを見出したのだ。
このフォームも千手フォームと変わらず魔力壁や糸と合わせることで縦横縦横無尽に動き回る事が出来る。蜘蛛達の動きを参考にする事で、より無駄のない滑らかな動きを実現するに至ったのだ。その機動力は決して人間が追従出来るようなものではない。
「エリクちゃん! 魔力壁はズルです! 無しです!」
「足場にするだけだ。妨害には使わんとも」
「降りてきなさい! 私の事放っておくつもり!?」
ディアナが主役だものな。確かに放っておくのはマズいわな。仕方ない。木で代用するか。それくらいの高さならなんとかなるだろ。
「糸も禁止です! 誰が片付けると思っているのですか!」
あかん。メアリまで怒ってる。
まじかよ。糸無しは辛いって。
いやでも、メアリの言う事は尤もなんだけども。折角昨日皆で綺麗にしたんだし。
まあ良いか。ジャンプ力も中々のものだからな。なんとかなるさ。
「エリク!」
「まぁま!」
ユーシャとシュテル!? いつの間にそんな近くに!?
くそ! 油断しすぎた! 呑気に着地してる場合じゃなかった! 魔力壁も糸も無しでここからどうすれば!? なんだこれ!? いつの間に囲まれていたんだ!? こいつらどうやって連携してるんだ!? 息合いすぎだろ!?
ユーシャ&シュテル、ロロ、レティの三組が空から、ディアナ&メアリ&スノウが地上から、私を囲うように飛びかかってきた。既に跳躍しても逃げ切れるか怪しい密集具合だ。
「こちらです! 主!」
ミカゲ!? まさか庇ってくれるのか!?
ええい! ままよ!
一か八か、ミカゲの声がした方向に向かって跳躍する。しかしそこは、よりによってロロとレティの間だった。予め予期していたのか、咄嗟に反応を間に合わせた二人が私に向かって手を伸ばしてくる。
(まずい! このままでは!)
「はっ!」
そこにまっすぐ突っ込んできたミカゲは、二人の腕を真下から押し上げるように払い除け、そのまま突っ込んできた私に巻き込まれて吹っ飛んだ。
「ミカゲ!?」
魔力手でどうにかミカゲの身体を包み込み、そのままの勢いで木に激突する。
「バカ者! 無茶しおって!」
「えへへ♪ 捕まえました♪」
は?
「おい待て。これは私が庇ってやったのだ。捕まえたのはむしろ私の方だ」
「捕まっちゃいましたぁ♪」
あかん。なんかデレてる。最近魔力なんて流してないのに……。
「「エリク!!」」
なんでぇ!? なんでユーシャとディアナがキレてるのぉ!?
くっ! 瞬間湯沸かし器どもめ! 毎度毎度私が悪いみたいに! 鬼ごっこでまでキレるのは理不尽すぎるでしょ!
「主! こちらです!」
(何故か)表情をキリッとさせたミカゲが私の手を握って走り出した。そのまま木々の中を器用に駆けて行く。意外と動きがサマになっている。どうやらこの手のフィールドには慣れているらしい。もしかしたら以前は森の中にでも住んでいたのだろうか。ポカで逃亡生活の経験とかありそうだし。
「なにか?」
「いや、なんでもない。それより良いのか? お前はこっち側で」
「はい! 私はいつだって主の為に!」
「だがスノウは向こうについているぞ?」
「いいんです! たかが遊びなんですから!」
それはそう。
「エリク! 待ちなさい!」
お? 先頭はディアナか? 意外と動けるではないか。と言うかユーシャ、シュテルとディアナしか追いかけてきてない? 他の連中はどこかで網でも張っているのか?
「エリク!」
「まぁま!」
既にユーシャの背から羽は消えている。代わりに私と同じように八つの足が生えてきた。更にはその足で思いっきり地面を蹴りつけて飛びかかってくる。動かし方はむちゃくちゃだが膂力は十分にあるらしい。
「ぐふっ!」
「ユーシャ!?」
「おねーちゃ!?」
残念ながらコントロールはまだまだのようだ。あらぬ方向に吹き飛んだユーシャが太い幹に腹から突っ込んで苦悶の声を上げる。
「くっ! やったわね! エリク!」
えぇ……何もしてないじゃん……。
ユーシャの丈夫さを知っているディアナは、シュテルに任せて一人で追いかけてきた。
「待て! 一旦中断だ! ユーシャの診断がしたい!」
「なら止まりなさい!」
「中断だぞ! 追いかけるのもだぞ!」
「ふふ♪」
絶対止まる気ないでしょ!? 捕まえる気満々じゃん!