03-15.娘達の成長
「まぁま!」
「ただいま。シュテル。良い子にしていたか?」
「うー!」
「本当か? ユーシャを困らせてないか?」
「おねーちゃ!」
後は任せるとでも言うかのようにユーシャの後ろに回り込むシュテル。どうやら留守番の失敗は自覚しているようだ。
「大丈夫。良い子にしてた」
「そうか。ありがとうな。ユーシャ」
ユーシャがそう言うならそういう事にしておくとも。レティからも言及する事は止められているしな。もしかして今のもアウトか?
「どうして帰ってきたの? まだ早いでしょ?」
「これから庭で遊ぼうと思ってな。折角だからお前達もどうだ? それともまだ私と一緒には居たくないか?」
「バカ。そんな言い方しないでよ」
「すまぬ……」
「大丈夫。一緒に行く。シュテルも喜ぶし」
「そうか。うむ。良かった。本当に」
どうやら本当に機嫌は良くなっているようだ。これはシュテルのおかげだろうか。
「大げさ」
「うむ。そうだな。よし。先ずは着替えよう。動きやすい服装にな。おや? シュテルのその服はどうしたのだ? ユーシャとそっくりではないか。どこかの店で見つけたのか?」
「……気付いてたの?」
「何が……」
「……」
「ごほん。いやそんな筈はないな。うむ留守番してくれていたのだものな。ほれ。これは土産だ。後で食べると良い」
「……ありがとう」
「ちぇーき!」
「「……」」
どうしようこの空気……。
いや、気にする必要は無いな。うむ。シュテルは思考が読めるのだ。うっかり忘れていたな。うむ。
「あ~。そうだ。もう一つあるのだ。いやユーシャには二つだな。ほれ。これも受け取っておくれ。ユーシャ達にならきっと似合うだろう」
巾着から二つの髪飾りと一つの腕輪を取り出して二人に差し出した。
それを見て大きく息を吸い込んだシュテル。そしてその口を塞ぐように抱きかかえたユーシャ。突然の姉の行動に驚いたシュテルは、ぶー!っとユーシャの手の平に溜め込んだ息を勢いよく吐き出した後キャッキャと笑い出した。
「つけて」
「うむ」
髪飾りを二人に。腕輪をユーシャにつけてみた。
「いいな。似合っている。可愛いぞ」
「ありがと」
「あーとー! きゃっ♪」
うちの娘達可愛すぎる!
「着替えるんでしょ?」
「ああ。うむ。そうだったな」
久しぶりに運動用の服に着替え、今度は三人で庭に出た。既にディアナは済んでいたようだ。メアリに教わって準備運動を始めている。レティとロロ、それにスノウとミカゲまで揃って横並びになっている。まるでラジオ体操のようだ。
「レティまで付き合ってくれるのか」
こういうのにはやる気出さないと思ってたから少し意外。
「ふふ♪ エリクちゃんを合法的に追いかけ回す機会です♪ 乗らないわけないじゃないですか♪」
身の危険感じるから出場停止処分にしようかしら?
「覚悟シテ下サ~イ♪ ハ~ニ~♪」
こっちもか。
「スノウ。私の守りを任せよう」
「はい。エリクさん」
「ダメに決まってるでしょ。鬼ごっこは個人戦よ」
なんでディアナはそんな本気なの?
いや、わからないでもないけどさ。
「まあ良い。最初は私が鬼をやってやろう。全員全力で逃げてみせよ」
「私が鬼よ。エリクは逃げて」
「鬼はお姉ちゃんです。エリクちゃんは逃げてください」
「ノンノン♪ 私が鬼デ~ス♪ ハニーは逃ガシマセ~ン」
なんで鬼取り合ってるの? そういう遊びだっけ?
「エリク一人だけ逃げたら良いんじゃない? 他全員鬼で」
「「「「賛成!」」」」
なんでさ!?
「まぁま!」
何故か私と同じ服を纏ったシュテルが、今度は私の肩に飛び乗った。
「おいシュテル!? なんだその服は!? なんだ今の跳躍力は!? というか飛んでなかったか!?」
昨晩はドアノブにも届かなかったのに!? これはあれか!? 何か力に目覚めたのか!? 杖の力を引き出せるようになったのか!? 我が娘の成長は早いな!?
「そう。シュテルはエリクにつくんだね。お姉ちゃんを裏切って」
「!?」
ユーシャの言葉を聞いたシュテルは困った表情でウロウロし始めた。それから私を見つめて瞳を潤ませてから、振り切るようにユーシャの下へと飛び込んだ。その姿は再びユーシャと同じ服装に変化していた。
え? あれ? 負けたの? 私、ユーシャにシュテル取られた? お母さんよりお姉ちゃんの方が良いの?
いや、これ以上シュテルを困らせるまい。ユーシャの大人げない一言に随分と衝撃を受けている様子だった。ここで私までゴネ始めたら、いよいよどうして良いかわからなくなるだろう。ユーシャよりシュテルの方が少しだけ大人だったのだ。そう考えよう。
「よかろう。全員纏めてかかって来るが良い」
背中から生やした腕で地面を殴りつけて大きく後方へとジャンプする。
「ナッ!? 本気過ギデェ~ス! ハニー!」
「ふっふっふ♪ 良いでしょう。エリクちゃんがその気ならお姉ちゃんも全力です♪ 後で後悔しても知りませんよ♪」
「シュテル。私の事も飛ばせる?」
「う~!!」
あれ? なんかユーシャからでっかい羽が生えてる?
いや、羽を生やしたシュテルがおぶさっているのか?
え? 本当に飛べるのそれ?
「ちょっと!? 私のことも忘れないでよ!?」
メアリとスノウはディアナに付き合ってくれるつもりのようだ。当然のように空を駆ける四人の後から、遅れて三人で駆け出した。ディアナについてはいざとなったらスノウが飛ばしてくれるだろう。飛行魔術も使えたはずだし。ディアナも取り敢えず今は自分の足で駆け回りたいはずだ。私も少しは加減してやろう。
あれ? 一人足りなくね? ミカゲは?