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03-09.協力者

「シュテル。パティの事はわかるか?」


「まぁま?」


「そうだ。ママだ。私だけじゃないぞ。

 パティもディアナもユーシャもお前のママだ」


「いっぱぁ~♪」


「そうだな。いっぱいいるな。

 よし。行け。シュテル。パティとディアナに挨拶だ」


「まぁま?」


「すまんな。私はここまでだ。

 これは必要な事なのだ。どうかわかっておくれ」


「しゅてう?」


「そうだ。お前はシュテルだ」


「ちがーの! まぁま! しゅてう! しゅてう!?」


 何だ? 何が言いたいんだ?

相変わらず舌っ足らず過ぎてわからんぞ?



「少し挨拶をしてほしいだけだ。私はここで待っている。シュテルの可愛さで二人をメロメロにしてやるのだ。それで大体の問題は片付くはずだ」


「えへ~♪」


 ちょろいな。我が娘ながら。少し可愛いと言っただけですぐに有頂天だ。可愛い。



「わかるな? 先程私を起こした時と同じだ。パティかディアナに跨ってママと呼んでやれ。きっと二人もすぐにシュテルが気に入るぞ。何せ可愛いからな。我が娘は天使なのだ。そうして二人を懐柔したら私を呼びに来るのだ。なあに心配は要らん。お前の可愛さなら全て上手くやれるさ。何せ可愛いからな。本当だぞ? お前もわかっているだろう?」


「むっふ~♪」


 ご満悦だ。少々しつこすぎたかと思ったが要らぬ心配だった。むしろ心配になってきたな。そんなんで大丈夫か? 知らない人について行ったりしちゃダメだぞ?



 意気揚々と私の下から歩き出すシュテル。時折こちらを振り返りながら、私がその場に立っている事を確認している。可愛い。


 笑顔で手を振るとシュテルは嬉しそうに駆け寄ってきた。



「違う違う。そうじゃない。戻ってこんでいいのだ。そのまま行ってくれ。今のもう一つ隣の部屋だ。あそこにパティとディアナが寝ているのだ。ついでに今日はメアリも居るぞ。私がこれ以上近づけば察して起きてしまうからな。お前だけが頼りだ。やってくれるな? シュテル?」


「むっふ~♪」


 この娘は何故こんなにドヤ顔なのだろう。可愛い。


 結局私の下まで戻ってきたシュテルを抱きしめてから、再びパティ達の部屋へと送り込んだ。


 どうやら部屋の位置はちゃんと把握していたらしい。私の思考を読み取ったからか、或いはある程度杖の時の記憶もあるのか。聖女の杖という呼称を把握していたのだから、後者の可能性も高そうだ。


 ともかくこの様子なら何をするべきなのかも正確に理解してくれているだろう。後は結果を待つだけだ。



 と思いきや、暫く扉の前で考え込んでからトボトボと落ち込んだ様子で戻ってきてしまった。



「とぉかなぁぃ……」


「ああ。そうか。そうだよな。

 届かんよな。シュテルの身長じゃ」


 ドアノブに手が届かず諦めて戻ってきたようだ。うっかり失念していたな。私としたことが。



「何か力は使えないのか?」


 一応何でも願いを叶える杖だったのだ。シュテル自身の望みだって叶えられて当然だとは思うのだが。



「む~ぅ~……」


 無理っぽい。


 その辺はまだまだわからない事が多すぎるな。取り敢えず後回しだ。



「なら扉の前から呼びかけてみろ。メアリなら気付く筈だ」


「その必要はありませんよ。エリク様」


 ひぃっ!?



「このような夜更けに何をなされているのですか?

 まさか夜這いですか? 幼子連れで?」


「いや! ちが! これは!」


「その娘はいったいどこから連れ込んだのですか? まさかまた屋敷を抜け出して飲みにでも行かれていたのですか?」


「そんな事しとらんだろ! 人聞きの悪いことを言うな!」


「お静かに。お嬢様達が起きてしまわれます。先ずは私がお話を伺いましょう。エリク様のお部屋に戻りますよ」


「それは構わんがな。お前こそこんな時間に何をしておったのだ。折角ディアナが回復したと言うのに」


「……少々喉が乾いただけです」


 なにか隠してる?

もしかしてお花を積みに?



「エリク様」


「はい。ごめんなさい」


 私にしがみついて怯えていたシュテルを抱き上げて、メアリと共に部屋へと戻った。



「かくかくしかじか」


 シュテルの事情を説明する。



「つまりエリク様がそう望まれたと」


「不可抗力だ。寝ている間に起こった事だ。

 責めるなら私を一人で寝かせた全員を責めるべきだ」


「……」


 メアリはジト目を向けてはきたものの、私の開き直りに物申す事はしなかった。ディアナの隣を譲られた自覚があるからだろう。その理由が私や皆からの気遣いだったと理解しているからだろう。ここで朝帰りの件を持ち出さないだけの温情はあったようだ。それだけディアナの件では感謝してくれているのだろう。なのにごめんなさい。付け込んだりして。



「頼む。力を貸してくれ。

 私はユーシャに嫌われたくない」


「それでお嬢様達を巻き込もうとしたと」


「メアリもだ。お前達ならわかってくれると信じている」


「それはユーシャも同様です」


「ああ。わかっているとも。あの娘も何れは受け入れてくれる。だが今回ばかりはタイミングが悪い。只でさえやらかしているのに、そこに私の新たな娘が加わったのだ。ユーシャの機嫌が悪化するのは目に見えている。どうにか穏便に済ませたい。ユーシャの為にも協力しておくれ」


「潔く叱られるべきでは? ユーシャに発散の機会を与えるべきでは?」


「それで後悔するのはあの娘自身だ。あの娘は優しい子だ。衝動的に振る舞えば必ず苦悩する事になるのだ」


「誰よりも振り回しておいてよく言えたものですね。自覚があるならご自重くださいませ」


「不可抗力だと言っておろう」


「シュテルの件に限った話ではございません」


「そうだな。全面的に私が悪い。それはわかっている。反省もする。だからどうか助けておくれ」


「まったく。調子の良い方ですね」


 あれ? なんか嬉しそう?



「致し方ありません。お力になりましょう」


「感謝する。メアリがいれば百人力だ」


 あからさま過ぎたか? でもやっぱりなんか嬉しそう?

あれか? ディアナの件があったから機嫌が良いのか?

今なら本当に何でもしてくれるかも?



「エリク様には何か策があるのですか?」


「無い。取り敢えず味方を増やす。個別に引き合わせて一つ一つの騒ぎを小さくする。以上だ」


「……まあ妥当なところですね」


 どうやらメアリも今すぐには名案も浮かばないらしい。



「こういう事ならパティとディアナに頼るべきではないか?

 それともやはり起こすのは気が引けるか?」


「いえ。どの道お二人との接触は避けられません。ならばユーシャより先に済ませておくのも必要な事でしょう」


「何か他に気になる事でも?」


 メアリに視線を向けられたシュテルは私の背後に回り込んだ。どうやらすっかり怯えられてしまったらしい。無理もない。いきなり廊下に現れたからな。あの時は気配も感じなかった。ワンチャン、メアリなら今の私にも勝てるんじゃなかろうか。当然総合力はベルトラン程ではないが、隠密系の技能なら上回っているのかもしれん。



「……少々お待ちを」


 そう言って今度はしっかりとシュテルに向き直るメアリ。



「シュテル。挨拶だ。メアリの事もわかるだろう? 怖くないぞ。優しい人だぞ」


「わんわん?」


「ふふ。そうだな。わんわん泣いていたな。メアリはディアナの事が大好きなのだ」


「エリク様!?」


「ああ。すまん。言ってなかったか。シュテルは他者の思考が読めるのだ。それに杖としての記憶も残っているらしい」


「……」


 メアリ? 何か思念でも送ってる?


「……ふひ♪」


 シュテルが変な笑い声を上げた。そしてそのままトテトテとメアリに近づくと、バッと全身で飛びつくように抱きついた。



「すっかり気に入られたな。いったい何を見せたのだ?」


「お気になさらず」


 メアリは満更でもなさそうにシュテルを撫でている。どうやらメアリの方もシュテルを気に入ったようだ。


 まあ私の娘は可愛いからね。当然だよね。

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