03-06.知りたいこと
「お疲れ様。エリク」
ディアナが差し入れを持って来てくれた。
「良い匂いだな。それはなんだ?」
「焼き芋よ。向こうでメアリ達が焼いてるの。
はい。どうぞ。これはエリクとお兄様の分よ」
こっちの世界でも定番なのだろうか。落ち葉を掃除したついでに芋を焼くのは。
まだ雪こそ降ってはいないが、既に季節は冬と呼んで差し支えない。長時間の屋外労働で冷えた身体にはさぞかし染み渡る事だろう。
私は寒さを感じる事こそ出来るが、どうやら凍える事は出来ないようだ。それ自体悪いことでは無いのだけど、折角ならそういうマイナスの状態があってこその楽しみも味わいたいものだ。
なんだか私、どんどん欲張りになっている気がする。それだけ日々の生活に余裕が生まれたのだろう。良いことだな。うんうん。
「どうかした?」
「折角なら食べさせてくれないか?
この通り手が汚れているのだ」
折角だからもっと欲張ってみよう。
「ふふ♪ ダメよ♪
その手には乗らないわ♪」
残念。まだ甘える許可は降りないようだ。
でもディアナが嬉しそうにしてくれたから良しとしよう。
代わりに差し出されたホカホカのタオルで手の汚れを拭き取って、焼き芋を受け取った。
「……」
「ニコライ? どうした? 食わんのか?」
訝しげ?
「……デネリス公の娘か」
「ああ。昨日紹介したろう?」
「……そうだったな」
なんだろう。この表情。
もしかしてディアナ本人に何か思う所がある?
公爵閣下と知り合いなのか? 或いは母君の方か?
パティの母君を思い出しているとか?
年齢的には知り合いでもおかしくないだろうし。なんなら殆ど同年代かもしれない。
改めて冷静に考えると陛下ってだいぶアレだよね。貴族とか王族なら普通の事なのかもだけど。
それから暫し休息を取り、ディアナが帰っていったところで掃除を再開した。
更に暫く経ってから、ようやくベルトランが戻ってきた。
「コルティス嬢の件は話せん」
忘れない内にと早速質問してみたが、素気なく断られてしまった。
「ベルトランも知っているのか?」
「聞くな。他の質問には大体答えられるぞ。先ずはパトリシア殿下の私物の件だ。盗まれた分も押収された分もまとめて返却しよう。後日こちらに運ばせる。それで構わねえか?」
そうだな。今更寮の部屋に戻す意味もないし。
「うむ。頼む」
「おう。次はヴァイスの嬢ちゃんが関わった組織についてだな。これについても話せる事はそう多くない。別に隠しているわけじゃねえ。そもそも俺達も把握できてねえんだ」
「なら何がわかっているんだ?」
「断片的な情報だな。どうやら相当遠い国から来てた連中みたいでな。エリクは聖教国って知ってっか?」
「いや。聞き覚えが無いな」
「まあそうだろうな。普通に歩いたんじゃ年単位の旅になるような距離だ。確証は無いんだが、おそらくその国が関わっているんじゃねえかって話だ」
本当にふわっふわな情報だな。とは言えそれだけでも十分かもしれない。少なくとも敵の本拠は遠方だ。現時点で必要以上に恐れなくて済むのはありがたい。
「後はレティシア殿下の処遇だな。これも問題ねえ。パトリシア殿下の件と合わせて無罪放免だ」
「それは本当に良いのか?」
「気にすんな」
なんかこの件も詳しく説明するつもりが無いようだ。
ジェシー王女達が頑張ってくれたのだと納得しておこう。
「スノウ達の件もこちらで調べておく。念の為、あまり屋敷から出ないで済むようにしてやってくれ」
「うむ。約束しよう」
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「というわけだ。
よかったなパティ」
「そうね。何れまた顔を出しに行きましょう」
「また王宮魔術師どもに追い回されるのではないか?」
「二兄様に付き合ってもらいましょう」
なるほど。名案だ。
些か無礼な気もするが。
「杖のチャージも順調ね」
「うむ。案外暴走する様子もないな」
私の魔力は勝手には吸えんからな。
「しかし時間がかかるな。
いったいどれだけ取り込めるのだろうか」
「取り敢えず入れられるだけ入れちゃいましょう。完全な治療にどれだけの魔力が必要なのかわからないんだし」
「そうだな」
一応、前回の陛下を治療した際の魔力と同等で構わんとは思うのだけど。それがどれくらいなのかもイマイチわからんが。どうやらこの杖、外から見える以上に大量の魔力を取り込めるようだ。
「ついでにパティも何か願いを考えておいたらどうだ?」
「遠慮しておくわ。こういうのは必要な時にとっておくものよ」
乱用して壊してしまっては勿体ないからな。
「まあそれはそれとしてもだ。
この杖に何が出来るのかは知っておくべきだ」
「ふふ♪ エリク自身が気になってるわけね♪
良いわ。そういう話なら付き合いましょう♪
ちなみにエリクには叶えたい願いがあるの?」
「ユーシャと仲直り」
「それは自分で頑張りなさい」
わかっているさ。冗談だ。