03-02.罰掃除
「ユーシャぁ~お願いだから~……」
「……」
ダメだ……視線すら合わせてくれない……。
「私が悪かったからぁ……。もう二度としないからぁ……」
「ほらエリク。もうしつこくしないの。
そのうち許してくれるから。
今はそっとしておいてあげなさい」
「うぅ……ディアナぁ……」
「ダメよ。甘えさせてはあげないわ。
ちゃんと反省していなさい」
「はい……」
仕方ない……学園から戻る頃にはきっと……。
取り敢えず今日は一日ユーシャと繋いでおこう。
嫌がられないよう、こっそり少しだけ。
「今日は帰ったらあの杖を試すわ。上手くいけばそのままディアナの治療ね。エリクも出かけないで待っていて。ついでに明日のデートプランでも考えておきなさいな」
デートプランと言われてもなぁ。私は酒場しか知らんぞ?
「頑張ってね! 先生!」
シルビアまで妙に嬉しそうだ。
デートは私とディアナでするんでしょ?
もしかして知らない内に皆で行く話になってた?
いやこれ、全員と行くのか。個別に。
ディアナと行ったら、次はパティともジュリちゃんの店に行くって話だったし。
その次はユーシャかな? それからレティとシルビア?
スノウとミカゲとロロはどうしようか。
行きたがるよね。きっと。
こんな事ならベルトランにでも聞いておくんだった。あいつ遊び慣れてそうだし。今日もフラッと顔出したりしないかな? 流石にないか。近衛騎士団の団長だし。当然忙しい筈だし。あれ? 矛盾してる? いや、ベルトランはその辺上手くやっているだろう。そんな気がする。
ユーシャ、パティ、シルビアの三人が学園に向かうのを見送った後、私、ディアナ、レティだけがその場に残された。
ロロ、スノウ、ミカゲはメアリが連れ出している。メイド達は総出で屋敷周囲や庭を清掃中だ。一月もの間ろくに手入れが出来なかったからな。それに第三王子の配下が何百人と屯っていたのだ。単に踏み荒らしただけでなく、奴らそこで寝泊まりまでしておったからな。キャンプの後始末が大変なのだ。奴らを呼び戻して清掃させるべきではなかろうか。
「エリクも参加してきて。それが罰よ」
あ、はい。行ってきます。
「ディアナちゃんの事は任せてください♪」
まあレティも勉強は出来るようだしな。
教師役として不足はあるまい。
ディアナの教師役って豪華だよね。姫様二人に妖精王だ。
私のは自称だけど。端から見たらね。関係ないからね。
さて。さっさと行って終わらせてくるとするか。
ふっふっふ。我が魔導にかかれば掃除程度容易いものよ!
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「やってるねぇ。大将」
「なんだベルトラン。今日も来たのか。
と言うか随分とまた大所帯だな。
どこぞに戦争でもしかけるのか?」
あとうちは居酒屋じゃないぞ。
冗談はともかく、どう見ても戦争に向かうような出で立ちではないな。誰も鎧なんて着てないし。全員騎士団らしい格好だ。隊服ってやつだろうか。団服?
「んなわけあるか。
陛下に言われて来たんだ。
後片付けを手伝えってな」
「なんでまた?」
人手が増えるのは素直にありがたいけど。
「昨日の礼だろ。律儀なんだ。あの方は」
ああ。地下組織を壊滅させたからか。
もしくは単に、息子がかけた迷惑への補填かもしれんな。
「メアリ」
「お任せください。エリク様」
何時の間にか近付いていたメアリに一声かけると、用件を伝えるまでもなく直ぐ様行動に移ってくれた。
ベルトランが引き連れてきた近衛騎士団達とメイド達の間に入って、人手が足りていないところに派遣していく。
「こいつは酷えな」
ベルトラン本人は私の側で片付けを始めた。テキパキと手際よくこなしていく。どうやらこの手の作業も慣れているようだ。下積み時代の経験とかかしら?
「ほれ、大将も手を動かしな」
「誰が大将だ」
こやつ、もはや私を女性扱いしていないな?
惚れたの何だのはもう冷めたのか? 移り気なやつだな。
「それと別にサボっているわけじゃないぞ」
「手は一本でも多い方がいいじゃねえか」
「心配は要らん。いくらでも増やせるからな」
背中から生やした無数の魔力手を伸ばしてゴミを拾い、草木を整え、地を均す。
「だからって腕組んで踏ん反り返ってたら印象悪いだろ。魔力は見えねえのが普通なんだ。そういうの気ぃ遣え。大将は人間じゃねえんだし、どこで足掬われっかわかんねえぞ」
案外真面目な事を言う。やはり騎士団長として常日頃から外聞も気にしているのだろうか。
でもまあ確かにそうだな。今更この屋敷の者達が私をそういう目で見るとも思えんが、ここは屋敷の外だ。他の人の視線にも気を遣うべきだったな。私の評判が悪くなれば、パティ達にだって迷惑がかかるはずだ。
今回騎士団員達がわりかしキッチリした服装なのもそういう理由なのかもしれん。私達の印象を良くする為に、近衛騎士達、ひいては国王陛下との仲が良好であると示す意味もあるのかもしれんな。
この一ヶ月、随分とご近所様にも迷惑をかけてしまった。恐怖を感じている者達も少なくないやもしれん。彼らを安心させる意味でも必要だったのだろう。
「エリク。ベルトラン」
「なんだ。ニコライまで来たのか」
さてはこれ、罰掃除だな?
陛下もディアナ達と同じ事考えておったな?
「流石に多いな。私は移動しよう。
ベルトランとニコライはこの場を頼む」
「まあ、待て大将。
そんなツレねえ事言うんじゃねえよ」
「俺はお前に用があって来たのだ。エリク」
なんだこいつら。掃除しに来たんじゃなかったのか。
感心して損した。
「勘弁してくれ。昨日の今日で一緒にいる所を見られたらまた邪推されかねん」
「まあそう言うなって。
大将も知りたがってたろ。色々と」
「昨晩は教えてくれなかったではないか」
折角酒をたらふく飲ませたのに。
全部こやつらのおごりだったけど。
「いくつかは許可も貰ってきた。
今なら多少は話せるぜ」
「よくそんな話が出来たな」
夜通し叱られた直後だろうに。
「まあいいじゃねえか。細けえ事は」
いいけどさ。教えてくれるってんならありがたいし。
「ニコライも何か情報を持ってきたのか?」
「そうではない」
じゃあなにさ。
この男はあまり口数が多くない。
この様子だと今話すつもりはないのだろう。
なんか普通に掃除始めちゃったし。第二王子殿下が直々に。
「まあいい。とにかく続けよう」
作業を続けながら話を聞くくらいなら良いだろう。
幸いディアナはあまりそういう事でとやかく言わないし。
それにデートの参考になりそうな場所も聞きたかったし。
ユーシャかパティに見られたら機嫌を損ねるだろうけど。
幸い二人は学園だ。帰るのは夕方だ。心配要らんな。うん。




