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02-68.決着

 魔力壁で視線を誘導し、自らの背に隠して構築した魔力手で思いっきり殴りつける。シンプルだが有効な手立てだ。私はこの動きを基本形にして、文字通りに手数を増やしていった。


 その結果、私は背中から無数の腕を生やした奇っ怪な姿へと変じていた。


 要はあれだ。千手観音だ。いっそ光らせてしまおうか。後光が差すみたいな感じに。目眩ましにもなるだろう。騎士団長に通じるとは思えんが、無いよりはマシかもしれん。千の腕が眩く光れば多少は隙も生まれるかもしれん。



「うおっ!? なんじゃそら!?」


「ふっふっふ! 神々しいだろう!」


「普通に鬱陶しいわ!」


「それは良い事を聞いたな!」


 もっと光量を上げてしまおう!

嫌がる事はいっぱいしちゃろう!



「ちょっ!? 性格悪いぞ!?」


「どうせ目になんぞ頼っとらんだろうが!」


「それはそれだろ!」


「我が姿を拝みたくばこの腕全てを切り落として見せるがいい!」


「やってやらぁ!!」


 一部の魔力壁にも発光を付与して、目眩まし付きと不可視の魔力壁で振り回していく。


 更には自らの足で地に立つ事をやめ、魔力手で地面やリングとしている魔力壁を殴りつけながら、その反動で縦横無尽に飛び回っていく。


 今度はまるでスーパーボールだ。さしもの騎士団長もこの人間離れした変則的な動きは想定外だったようだ。段々と私の攻撃が届き始めた。



「くっ!」


「ほらほらどうした! さっきの威勢は!

 腕は減っとらんぞ! むしろまだまだ増やせるぞ!」


「化け過ぎだ! このっ!」


 文字通り化け物だろうからね。今の私は。

勿論そういう意味じゃないってわかってるけど。



「くっくっく! お前に褒められるのは悪い気がせんぞ!」


「そりゃ良かったよ! おらっ!」


「足りん! 足りん! もっとだ! もっと引き出せ!

 本気になれ! この体が失われようと私は死にはせん!

 遠慮するな! まだまだいけるだろう!」


「調子に乗りやがって!!」


 騎士団長の剣に少しでも触れた魔力手は当然のように掻き消える。これはもう剣の力だ。そういうものなのだと納得した。


 しかし私の攻撃を防ごうと剣を掲げれば、当然足元はお留守になる。すぐさま魔力壁で足の自由を奪い取り、今度はその拘束を切りに剣を下げた所に拳を叩き込む。



「ぐはっ!」


 初めてのクリーンヒットだ。騎士団長の横っ腹に入った拳が、そのまま騎士団長の体を吹き飛ばして壁に叩きつけた。



「丈夫なものだな。

 常人ならば骨の一本も折れているだろうに」


「その程度で済むわきゃねえだろ!

 ちったあ加減しろ! こっちは正真正銘人間だぞ!」


「なんだと? 加減しろだぁ? 貴様にはガッカリだ!

 私の見込んだ男はそんな弱音を吐く軟弱者ではない!」


「へっ! こんなん痛くも痒くもねえぜ!

 妖精王ってのも案外大したことねえんだな!」


「良いぞ! その意気だ!

 かかってこい! 騎士団長!」


「ベルトランだ! そう呼べ!」


「ならばエリクだ! 光栄に思うが良い!」


「行くぜ! エリク!」


「来い! ベルトラン!」


 たった一歩を踏み込んだベルトランの体は、一瞬にして私の眼前に現れていた。ここにきて初めて見る動きだ。一切目では追えなかった。


 咄嗟に後ろへ飛ぼうと地に叩きつけようとした魔力手が切り払われて、危うくバランスを崩しそうになりながらも、今度はリングの魔力壁から生やした魔力手で私の背から生えた魔力手を掴んで強引に引き上げる。


 ギリギリでベルトランの刃を避ける事に成功し、複数の魔力壁を間に立てて追撃を妨害する。


 ベルトランは魔力壁を切り裂いて現れると思いきや、今度はそれを足場にして上空へと飛び上がり、リングの魔力壁を蹴って私の背後から追撃を仕掛けてきた。


 再び地を殴りつけて吹き飛びながら攻撃を回避するも、またも大量の魔力手が切り取られ、私の機動力はどんどんと落ちていく。



「はっ!」


 ベルトランの笑いのような呼気が聞こえた直後、何時の間にか真横に現れていたベルトランに蹴り飛ばされて、今度は私が壁に叩きつけられた。



「くっ! 女を足蹴にするとは見下げ果てた奴だな!」


「ちょっ! 今更それ言うかぁ!?」


「冗談だ! 油断しおって!」


 ベルトランが呆けた隙に魔力手を生やし直して体制を立て直す。



「あっ! きったねえぞ!」


 どうせわざと乗ったくせに。白々しいやつだ。さっきの蹴りもわざとらしすぎるぞ。どうせすぐに終わらせるのは勿体無いなどと考えておったのだろう。気持ちはわかるがな。



 今度はこちらから突っ込んでいく。当然魔力壁の妨害も忘れない。純粋な速度で挑んでも勝ち目はない。恐らく先程のは、例え騎士団長ベルトランにでも常時無条件で出せる速度ではないはずだ。


 あの爆発的な踏み込みは直進移動に限るのだろう。真っ直ぐ前に突っ込む為だけの技である筈だ。常時あんな速度で動き回れる筈はない。体だって保つはずがない。ベルトランの肉体強度もなんとなく見えてきた。恐らく間違いない筈だ。


 実際、初撃の急接近の後は普通に目で追える攻撃をしかけてきた。その後再び私が距離を離してから、あの見えない速度での追撃をしかけてきたのだ。加速の為には多少の距離も必要なのだろう。


 ならばいっそ距離を取らずに戦うのが得策か。

どの道こちらの攻撃も近づかねば当たらぬのだ。

捨て身のステゴロこそが突破口となるはずだ。



「良いね! そう来なくっちゃな!」


 私が突っ込んだだけで意図を察したのだろう。

再び生き生きと私の魔力手を切り刻んでいく。



「なっ!? んだ!? これ!? 糸!?」


「ちっ!」


「おいおい! マジで容赦ねえな!

 一瞬遅けりゃ首飛んでたぞ!」


「そんな事はせん! 簀巻きにして放り出すだけだ!

 なんだったら吊るし歩いて見世物にしてやるぞ!

 丁度これから城に行くつもりだしな!」


「ハッ! させねえよ!」


 魔力手に糸を乗せて機動力を嵩増ししつつ、魔力壁に引っ掛けて張り巡らせていく。


 当然ベルトランも糸を切断しようと試みるが、私自身がぴったり張り付く事で動きを制限し、少しずつ罠を増やしていく。



「これで迂闊には飛び込めまい!」


「鞠の化け物かと思ったら蜘蛛だったのかよ!?」


「化け物とはなんだ! 化け物とは!

 それが惚れた女に対する物言いか!」


「捕まったら食われちまいそうだな!」


「生憎子は成せん! そもそもお前は守備範囲外だ!」


「関係ねえ! 勝ち取るだけだ!」


 だろうな。これで諦める玉でもなかろう。

これは絶対に負けられんな。



「いい加減決着をつけよう! 次で最後だ!」


「良いぜ! 良いぜ! あんたは最高だ!

 やっぱりよくわかってやがる! 来い! エリク!」


「おうよ! ベルトラン!」



 私は大きく息を吸い込んで思いっきり空気を取り込みながら、再び魔力手で地を殴りつける。


 勢いよく突進した私の軌道上には当然のようにベルトランの剣が待ち構えている。まるでベースボールだ。このままホームランを決められるか、はたまた私が三振を勝ち取るか。これはそういう勝負だ。最後の読み合いだ。


 ベルトランの下へ辿り着く前に今度は真下を殴りつけて急上昇し、更に天井を殴って斜め上から落下していく。


 ここまでは当然ベルトランにも見えている。殴りつけようとした魔力手はあっさりと切り払われるが、私本体は天井に接した時に仕込んだ糸を掴んで急制動をかけ、間一髪の所でベルトランの振るった剣を回避した。


 今だ!


 剣を振った直後の隙とすら言えないようなこの一瞬に全力で殴りかかっていく。


 魔力手だけでなく私自らの拳も使い、拳の乱打を浴びせていく。



「ぐっ!」


 ベルトランは何発かもろにくらいながらも体勢を崩す事なく反撃を仕掛けてきた。私が伸ばした腕は魔力手ごと切り落とされかけるも、流石に少しは無理もあったようで、骨を断つまでには至らなかった。


 だがこの結果も当然だ! 何せエンシェントなんちゃらドラゴンの骨にミスリルを纏わせたこの世で最も硬度の高そうな代物だからな! 正直半分賭けだったけど!


 そして勿論! 剣が封じられたこの隙を逃しはしない!


 私は溜めていた空気を思いっきり吐き出した。


 空気と共に私の中で生成されていた毒素が容赦なくベルトランに浴びせかけられる。勿論魔力壁で囲いを作るのも忘れない。


 本来体を麻痺させる程度の効果しかない毒だ。普通の人間相手ならともかく、このベルトランに通じるとは思えない。何せ身体の強靭さが半端ではないからな。恐らく数多くの強き魔物達を屠ってきたが故だろう。毒耐性までつくかは知らんが、こやつならば跳ね除けてしまうのではなかろうか。


 しかしそれも顔面からもろに浴びれば話は別だ!

これでまた隙を引き伸ばせるはずだ!


 ベルトランの体に纏わせるようにして、無数の小さな球状の魔力壁を生み出していく。刃に触れた魔力壁は当然のようにかき消されていくが、既に腕を振るだけのスペースは残されていない。さしものベルトランでも、魔力壁を身動みじろぎだけで破壊できる筈もない。



「終わりだな」


「……ああ。俺の負けだ。

 くっそ。なんだ今の。卑怯だぞ」


「騎士団長ともあろう者がなんて小物臭い発言だ」


「言わせろ! これくらい!」


 まあ無理もないが。何せミスリルの骨に毒ブレスだ。

その上、魔力消費度外視の、それもここまで一切見せてこなかった粒状魔力壁。


 最後の最後で読み合いに勝ったのは私の方だった。ここまで温存してきた手札が綺麗にハマってくれた。


 本当にハマってる?

毒ブレスやっぱ効いてなくない?

顔面から浴びたのに普通に喋ってるよ?


 やっぱこいつもおかしいわ……。



 まあそもそも、初手を譲られた時点で純粋な勝ちとは言い難いのだけど。しかも今この場には彼が油断している間に張り巡らせた罠もそのままだ。自分の得意なフィールドを作ってから戦っているのだから、ある意味勝って当然なのだ。それ以前に彼に育ててもらったから、まともな決闘の形になったのだ。ごく短期間のコーチングで私の力をここまで引き出すとは、流石は天下一の騎士団長様だ。


 何より結局あの不可視の加速も見切れていない。所謂、縮地や瞬歩というやつだろうか。よーいどんで初手突撃かまされたら私は為すすべ無く負けるだろう。それは今もって変わっていない。ベルトランが普通に動けているならミスリルだって軽く切断するのだろうし。


 結局本当の本気を引き出す事は出来なかったわけだ。まだまだ精進が必要だな。いずれ再戦の機会があることに期待しよう。



「潔く近衛騎士団を引かせるなら拘束を解こう」


「良いだろう。引き上げてやる。なんなら城まで護衛してやるぞ。守る必要はないだろうが、露払いにはなるだろ」


「是非頼むとしよう。こちらも人数が多いからな」


 近衛騎士団以外の兵士達も鬱陶しそうだし。

折角だからお言葉に甘えておこう。



「まさか学生達まで連れて乗り込む気か?」


「うむ。その通りだ。

 悪いが私達にとってはここからが本番だ」


「ふっはっはっは! まさかこの俺が前座扱いとはな!」


「お主が勝手に出てきたのだろうが。だがまあ、お陰で決闘裁判の心配をしなくても済むのはありがたい」


 こちらが仕掛けられるという事は、当然向こうもその手札を切れるのだろうし。陛下ならノリノリで許可を出しただろう。とは言え既に決着がついたと聞けばその話も流れる筈だ。もう一戦すれば当然私が負けるだろうが、それを知っているのは私達だけだ。


 この国最強の戦力である、近衛騎士団長と筆頭王宮魔術師の二人を下した者達に、まさか決闘を申し込んできたりはしないだろう。しない筈だ。たぶん。きっと。おそらく。めいびー。



「たっぷり感謝してくれ。

 なんならキスの一つもくれたって良いんだぜ?」


「やだよ。初めてもまだなのに」


「今すぐもう一戦しねえか?」


「バカ者め。往生際の悪い男は嫌われるぞ」


「ハハッ! 違いねえ!」

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