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02-64.最大の関門

 私達は光の道を駆けていく。


 これは屋敷のバルコニーから始まり、学園の敷地内に直接繋がる橋だ。橋を構成する魔力壁は足元だけでなく左右と上部も囲い、更にそれ自体が光を放つ事で私達の姿を完全に覆い隠している。


 色付きの魔力壁は間に合わせられなかったが、元々習得していた発光を魔力壁に付与する事は造作もなかった。取り敢えずはこれでも問題無いだろう。私達が全員で学園に乗り込んでいると悟られなければ、一先ずはそれで十分だ。相手は屋敷の方にも人員を割かなければいけなくなるのだから。


 まあ、このままでは私達も外の様子が見えないが、外を這わせている蜘蛛が私の視界を補ってくれている。敵も突如出現した光る壁に驚いてはいるが、手出しする方法も思いつかないようだ。幸い魔術師達も残っていなかったようで、飛び上がって確認しに来る者も見当たらない。




 囮として屋敷の魔力壁は解いてしまった。奴らに踏み荒らされるのは業腹だが、少しでも敵の人員が分散された方が都合が良い。それに屋敷内にもある程度の罠はしかけてある。きっとそれなりの人数を釘付けにしてくれるだろう。


 私達がすぐに学園に辿り着けるのだから、当然敵もすぐに学園内へと雪崩込む筈だ。今度は学園の一部を魔力壁で囲っていく必要もある。流石に学園全域は私でも囲いきれない。精々校舎の一部と寮を囲うので精一杯だ。屋敷の魔力壁まで維持する余裕はない。



(杖の方も問題無さそうだな)


 殿のユーシャが手にしている聖女の杖は、変わらず封印形態を保っている。私の魔力は占有化がなされている。聖女の杖も吸収できない魔力には興味も無いようだ。


 箱と篭手もメイド達が運んでくれている。あれらは大切な証拠資料なのだ。敵に奪われてはより立場が悪くなりかねない。どうしても置いてくる事は出来なかった。



 緩やかな坂を下るようにして学園敷地内に駆け込んだ。階段よりこっちの方が手っ取り早かった。距離的には少しロスにはなるが、光って見づらい階段なんぞ駆け下りれんからな。ゆっくり歩くよりはマシだろう。



「何事ですか!」


 私達が地面に辿り着いた所に、丁度先生方を引き連れた学園長が駆け込んできた。話しが早くて助かるな。そして学園長こそが最初にして最大の関門だ。彼女の協力無くして私達の目論見は為し得ない。



「学園長!」


「殿下! これはどういうつもりですか!

 学園の敷地内に立ち入る事は許さないと告げた筈です!」


「申し訳ございません! ですがお願いします!

 どうか私を助けてください! 私には皆の力が必要なんです!」


 パティもなんだかんだと覚悟は決めていたようだ。先ほどはああ言っていたが、真っ先に口を開いてくれた。


 この娘は心で納得できていなくとも土壇場でぐずる程幼いわけではないからな。今やるべき事は心得ている。迷いなどするはずが無かった。



「学園長様。どうかお願いします。パトリシア王女殿下は罪人として告発されました。私達の力だけでは守り切る事が出来ません。皆様に一緒に来て頂きたいのです。どうか共に王女殿下をお守りください。お願いします!」


 流石はディアナだ。しっかりパティをフォローしてくれている。



「先生! このままじゃパト捕まっちゃうんです!

 何も悪いことしてないのに! 嵌められちゃうんです!」


 シルビアはやっぱり緊張しいだな。言いたい事はわかるけどちょっと言葉選びが間違ってる。あと別に、パティは悪い事してないわけじゃないからね? 今回は冤罪だけども。



「先生! お願イデス!

 一緒に悪代官ヤッツケマショ~!」


 ロロはもっと空気読んで。



 早速一人が先生方の中から飛び出してきた。

勿論ナダル教諭だ。真っ先にパティの手を取ってくれた。



「私に出来る事なら力になります!」


「先生! ありがとう!」


「何を言っているのですか! あなた達は!

 この学園を巻き込む事は認めません!

 今すぐ出ていきなさい!」


 やっぱりそうなるかぁ。学園長の立場ではな。むしろ話を聞こうとしてくれただけでも温情だ。本来なら第一声で今の言葉が出てきていただろうからな。


 先に生徒達を扇動出来ていればと思わなくもないが、やはりこの目論見は彼女を真に説得してこそだ。



「学園長先生! わたっ私! 魔導を扱えるようになったんです!」


 待て、シルビア。手札を切るのが早すぎる。

そういうのはもっと落ち着いてから……。



「魔導とは?

 もしや妖精王陛下が行使するという術の事ですか?」


 あら? 興味持ってくれてるの?



「そうです! 魔力壁! 使えます!」


 人一人を覆う程度の魔力壁を生み出したシルビア。緊張の表れか若干歪んではいるものの、間違いなく彼女なりの魔力壁が出現していた。



「ほう。これが」


 それを見ていた先生の一人が呟いた。



「驚いた。本当に呪文は必要ないのだな」


 また一人の先生が感嘆の声を上げた。



「先生方。もしこのままパトリシア王女殿下が裁かれれば、恐らく魔導に関する知識も封じられる事となるでしょう。彼らは魔導を悪の象徴とするつもりなのです。或いはそうして自分達だけが独占するつもりなのかもしれません。このようなこと、本当に許して良いものでしょうか?」


 ディアナが畳み掛けるようにして語り始めた。



「恐らく先生方ならばパトリシア王女殿下の常日頃の奮闘ぶりはご存知のはずです。かく言う私も、王女殿下にご尽力頂いたお陰で生き長らえる事ができました。魔導は王女殿下の研究が編み出したものです。今日こんにちの妖精王陛下のお力も全ては王女殿下あってのものなのです」


 ディアナが私に視線を向けた。



「事実だ。未だ弱く小さな存在に過ぎなかった我をここまで育て上げたのはパトリシアだ。魔導の知識も彼女から授かったものだ。だからこそ我は彼女を敬愛している」


「エリク……」


 少々大袈裟な言い方ではあるが、これは概ね真実だ。パティと出会わなければ、私の魔導は今より遥かに劣るものであっただろう。パティの齎した知識と、パティの与えてくれた守るべき者達の存在が私に力を与えたのだ。



「人の王に勝負を挑んだのもその為だ。しかし生奴らは卑劣な策を持って我が花嫁を奪わんとしている。だからと言って力尽くでの解決は望まん。パトリシアの愛する者達や居場所から引き剥がしたくなど無い。罪人として国を追われるなど認めるわけにはいかないのだ」


 私は一歩前に出て頭を下げる。



「パトリシアの居場所を守るため、どうか貴殿らの力を貸して欲しい。頼む。いえ、お願いします。私と一緒に戦ってください。この小さくか弱い、けれど人一倍頑張りやの少女をお救いください。この娘の努力をお認めくださるなら、我々と共にこの娘の力となってあげてください」


「私からも改めてお願い致します。彼らは王女殿下の努力の結晶を奪い、踏み躙ろうとしているのです。教育者であり、また一人の探求者でもある皆様ならば、それがどれだけ下劣な事かご承知の事と思います。どうか共に理不尽へと立ち向かってくださいませ」


「「「「「「「「「「お願いします!」」」」」」」」」」


「「「「「「……」」」」」」


「貴方がたの考えは理解しました。出来る事ならば我々も力になりたいと思います」


 先生方と目配せを交わし、学園長が代表してそう答えてくれた。



「ですが、生徒を巻き込む事は許容できません。このような言い方は本意ではありませんが、貴方がたのお願いはつまり、我々に人質になって欲しいと言う事でもあるのです。この学園を預かる者としてそれだけは認められません」


 そうだよね……。当然だよね……。


 学園長からしたら、生徒を人質に、肉の盾にするような行為は認められないだろう。少々心もとないが、先生方だけでも味方に付いてくれたのを良しとするべきか……。



「お待ちになってください! 学園長!」


 そこに聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 つい先程会った、ミランダ嬢の声だ。



「私達も力になります!」


 ミランダ嬢の背後には大勢の生徒達が集まっていた。

どうやらナダル教諭が呼びに行ってくれていたようだ。

ミランダ嬢の隣で生徒たちの先頭に立っている。



「何のつもりですか! ナダル教諭!」


 学園長から再び怒りの声が放たれた。



「どうかお認めください。学園長。

 彼女らもパトリシアさんを慕う者達です。

 皆、多かれ少なかれ彼女の影響を受けてきたのです。

 彼女の力になりたいと願っているのです。

 自ら志願して立ち上がったのです。

 彼女らの友を想う心をお認めください」


「なりません」


「「「「「学園長!」」」」


 尚も食い下がる生徒達に今度は先生方も加わった。

多くの者達から懇願の視線を向けられた学園長は、渋々と口を開いた。



「…………妖精王陛下」


「皆様には一切の危害を加えさせないとお約束します。

 我が身命を賭してお守り致します」


「本当に守れるのですね?」


「はい。必ず」


 最悪でも私が騎士団長と一騎打ちで時間を稼ごう。

また光の橋をかけて全員を離脱させよう。それで、!?



「逃げるなんてツレないじゃねえの。妖精王さんよ」


 魔力壁を切り裂いて一人の大男が近付いてきた。

どうやら説得に時間を掛け過ぎたようだ。時間切れだ。



「ありゃ? 修復されちまった?

 聞いてた話と違うじゃねえか。

 爺様も耄碌しちまったか?」


 入口だけ別の魔力壁にしておいて正解だったな。彼が聞いていた通りの人物なら真正面から乗り込んでくると思っていたぞ。お陰で通したのは一人のみに留まった。その一人が最も厄介な相手ではあるのだが。



「今日はアロハシャツではないのだな」


「あっちの方がお好みかい? それは悪いことしたな。

 それにしても妖精王ってのがまさかこんなべっぴんさんとはな。いや、単に寄生してるだけだったか? まあ良いや。どうせ遊ぶなら可愛い子ちゃんとの方が楽しいもんな」


「遊びだと?」


「これは失敬。気に触ったかい? まあ気楽にやろうや。こちとら、こんなハンデ付きじゃあやる気も出ねえんだわ」


 もっと堅物かと思っていたぞ。

なんだこのチャラチャラしたやつは。

こんなのが王国最強の戦士なのか?


 いやまあ、私服がアロハの時点で堅物も何も無いが。



「ならば見逃してはくれんか? 見ての通り今は守る者も多くてな。満足に相手はしてやれんかもしれん」


「それはそれだ。折角の機会だしな。

 少し試してみるのも悪くない。

 やってる内にやる気も湧くかもしれん」


「意外と話好きなのだな。

 なんなら酌でもしてやろうか?」


「ダメだ。その手には乗らねえぞ。

 酒は陛下にも止められてんだ」


 なにやらかしたの?



「それで? 準備は出来たのかい?」


「なんだ。私を待っていてくれたのか。

 案外と紳士的なのだな」


「わざわざリングこしらえておいてよく言うわ。

 この壁から出たらダメなんだな。

 良いぜ。他の奴らにも手出しはさせねえ。

 一騎打ちといこうじゃねえの」


「良いのか? お前が敗れれば我々を止められる者は居なくなるぞ?」


「だから言ってんだろ。気が乗らねえって。

 陛下の命だから従ってるだけだ。

 陛下使って好き勝手やってる連中なんざ興味はねぇんだ」


「その陛下本人が楽しんでおるだろうに」


「悪癖ってやつだな。それについては。

 なあ、もう良いだろ? 始めようぜ?」


「お手柔らかに頼む」


「あんた次第だな!」

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