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02-62.作戦会議

「おかえり。二人とも」


「うむ。目的の物は手に入ったぞ。

 復学したらミランダ嬢とナダル教諭には礼を言っておけ」


「そう。二人が手助けしてくれたのね」


「お陰で随分と早く戻ってこれた。

 少し話をしておこう」


「その前にこれを開けたいの。鍵を壊してくれる?」


「うむ。だが別に壊す必要はないぞ」


 魔力を流し込んで鍵の構造を探り、鍵の形になるよう魔力を物質化して回転させた。



「エリクならもうどこにでも侵入できちゃうわね」


「必要ならな。

 それで? 何が入っているんだ?」


「開けてみて」


 箱の中に収められていたのは沢山の書類と不思議な模様の円盤だった。いや、これは見た事がある。パティの魔導杖とよく似ている。


 けどなんだかこちらの方があやふやだ。理路整然とした印象を受けるパティの細工に比べて、なんだか漠然としているような気がする。本当になんとなくの印象だけど。


 あれだ。象形文字とかに近いのかも。そもそも魔導杖の方に使われている文様が言語がどうかもよく知らないからハッキリとは区別もつかないけど。


 例えるなら漢字を学んだ事が無く、ただ見たことがある程度の状態で、漢字の成り立ちのイラストを見ているような感じだ。精々似通っている事を察せる程度なのだ。



「これは恐らく古の朽ちた神器の欠片よ。

 私はこれを参考に魔導杖を完成させたの」


「なるほどな。よくぞまあと感心したい所だが、今重要なのはそこではない。これがいったいなんの証拠になるのだ?」


「私の推測ではエリクが全ての仕掛け人とされてしまうからよ。これはその疑いを晴らす為のカウンターなの。私が自らの意思で魔導を追い求めていた事の物的証拠なの」


「私が仕掛け人? パティではなく?」


「ええ。最終的にはそういう話に持っていくはずよ。

 エリクは以前からこの国で暗躍していた。

 隣国、かつてのヴァイス王国の者達と共謀して。

 私はその協力者だった。サロモン様とレティもね」


 なるほど。そんな筋書きで魔導と紐づけるのか。


 まあこの状況でただパティだけを引っ捕らえたとて意味は無いものな。当然その先の目的は私との交渉だ。奴らはパティを人質に取りたいのだ。これはその為の召喚命令だ。陛下の機嫌を損ねかねない横槍を入れてまで今動いた理由は他にあるまい。


 そしてこれが私をターゲットとした策だから陛下は許可を与えたのだろう。むしろ面白がって見ていることだろう。私がどのようにしてこの危機を跳ね除けるのかと。



「しかしカウンターと言うには弱くないか? 見る者が見れば真実とわかるかもしれんが、肝心の知識を持つ者達こそが黒幕かもしれんのだぞ? 証拠として認められない可能性も高いのではないか?」


 それに神器に関する品を隠し持っていた罪で別件逮捕されるかもしれん。追加で口実を与えてしまうだけにもなりかねん。



「そこまで極端な事をしてくるなら、どのみち決闘裁判でも挑むしか無くなるわ」


「なんだそれは? 決闘で白黒つけるのか?」


「ええ。流石にどんな時でも認められるわけではないけど、今回に限れば陛下が必ず認めてくれるはずよ」


「だがパティでは勝てん相手もいるのだろう?」


「代理人も認められているわ。

 それに他にも方法はあるじゃない」


「眷属化はせんぞ」


「強情ね」


「焦って結論を急がずとも個別に分けて考えてはどうだ?」


「今更ロロ先輩を差し出したって意味はないわ。きっとロロ先輩を雇っていた連中は既に捕縛されているもの。先輩を詰め込んでいたハリボテを用意したのは恐らく今回の件の首謀者よ。先輩と雇い主達は利用されたの。今更切り離せはしないわ」


 既に始末されたか、口裏を合わせれば見逃すとでも言われているか。どのみちこちらに有利な証言をするとは思えんか。


 流石に今回ばかりは第三王子の兵士達に証人を頼むのも難しかろう。下手をすると第三王子達まで我々の仲間だと言われかねん。纏めて始末した所で向こうは痛くも痒くもないだろうし。


 きっとあの篭手に関しても同じだ。シャーロット嬢の雇い主達に擦り付けるつもりだろう。第二王子から取り上げた事も証拠隠滅の為だとかなんとか難癖を付けるのだろう。



「私達が勝つ手段は相手の証拠が間違っていると証明する事だけなの。けれど道理が通ると思ってはダメよ。今回押収した私の研究成果と、事前に盗み出した魔導杖の試作品を並べて、完全に一致するじゃないかって言い出すような連中が相手なの。もちろん後者を犯罪者達から押収した事にした上でね」


「そんなもの勝ちようがないだろう。敵は準備万端で冤罪をふっかけるつもりなのだ。それならまだ近衛騎士と真っ向から戦った方が勝ち目もあると言うものだ」


「ダメ。まだそれは無理よ。確かにエリクは強いけど経験が足りないの。騎士団長だけは相性が悪すぎるわ。エリクなら何れは勝てるでしょうけど、今はまだその時じゃないの」


「それはパティも同じだ。例え私の眷属にして二人で戦ったとしても、相手が騎士団長なら勝てはせんのだ。決闘裁判を挑んだ上で負けてしまえば、最早罪を受け入れるしか無くなるのだろう?」


「なら逃げる? 全て捨てて。国の外に。

 負けを認めて尻尾を巻いて逃げ出すの?」


「それは極論だ。最後の手段だ。本当にそれしか道がなくなったのなら私が必ず逃がしてみせよう。けれどその前に考えよう。どうすれば勝ちを引き寄せられるのか。パティと私だけでは勝てなくとも、この場にいる皆が力を合わせれば騎士団長とて退けられるやもしれん」


「楽観的過ぎるわ」


「悲観的過ぎだ」


「二人とも。一旦そこまでよ。

 落ち着いて。頭を冷やして。

 それから私の案を聞いてくれるかしら?」


「「どうぞ。ディアナ」」


「ありがとう。私の案は簡単よ。皆でお城に乗り込みましょう。決してパティを一人にはしないわ。そして私達だけで戦うのもダメよ。仲間を募りましょう。レティお姉様と合流して、第一王子殿下の派閥とも話をつけて。学園の皆様にご協力頂くのも良いかもしれないわ。パティを大好きな人達はいっぱいいるのでしょう? そんな皆が集まったら、きっと無視は出来ないと思うの。私達の、パティの言葉も信じてくれると思うの。どう? 良い考えでしょ?」


 まるで署名運動やデモ活動だな。

確かに存外悪くない手かもしれんが。


 問題はどうやってそれを実現するかだ。私達全員が乗り込んだ所で、仲間となってくれる者達との接触が妨げられるのは間違いない。ならば最初からある程度の数で乗り込む必要があるだろう。



「先ずはこの屋敷内の皆よ。その足で学園に行きましょう。先生方や学生達にお願いして回るの。仲間になってくれる人にはその場で列に加わってもらうの。それからお城に行きましょう。レティお姉様を迎えに行きましょう。サロモン様が一緒なら王宮魔術師達も加わってくださるかも。そうすれば騎士団長だって怖くはないわ。そうでしょう?」


 爺様ならば対抗できるやもしれん。確かにあの爺様は魔力壁こそ破れんが、経験と技量だけなら私なんぞ足元にも及ばんのだ。それこそ騎士団長が相手であっても"相性が良い"かもしれん。



「これはスピード勝負よ。騎士団長が出てくる前に人数を揃えましょう。魔力壁で囲って正面から強行突破しましょう。流石に大勢の学生達まで加われば相手もあまり乱暴な事は出来なくなる筈よ」


「いや、魔力壁で階段を作ろう。空を渡っていこう。

 この屋敷の上階から直接学園のど真ん中に乗り込むぞ」


「良いわね♪ それ♪」


「ちょっとエリクまで!? 何言ってるのよ!?」


「ミカゲ。メアリとトリアに準備をさせろ。大至急だ」


「御意!」


「勝手な事しないでよ!

 まだ話は終わってないわ!」


「落ち着け。大丈夫だ。参加者達が罪に問われないようにはしてやるさ。私を信じて任せてくれ。いや、私達を信じておくれ。パティ。きっと上手くいく。皆お前のことが大好きだからな。喜んで協力してくれるさ」


「そんな……事を……」


「パト。大丈夫。一緒にレティ様を迎えに行こう。きっとここでパトが逃げたら無事じゃ済まないよ。私達には選択肢なんて無いんだよ。道はとっくに決まっているの。だからせめて前を向いていよう。一人でダメなら私達が手を引いてあげるから。だから信じて。パト。私の手を握って」


「……うん」


「よし。決まりだ。すぐに動くぞ。

 その前にシャーロット嬢も起こさねばな」


「エリク。許可するわ」


「本当に良いのか?」


「ええ。ユーシャの事は任せて。

 私から説明しておくわ」


「待って! まさか!?

 それなら私にしてくれたって!」


「それはダメだ」

「それはダメよ」


「なんでなのぉ!?」


「パティが信じていないからだ」

「パティが臆病だからよ」


「意味わかんない!」


「縋らせるつもりはない」

「誤魔化さないで」


「なにを……言って……」


「きっとわかるさ」

「今日が終わる頃には理解出来るはずよ」


「……わかんないよぉ」


「「愛してる。パティ。だから信じて任せなさい」」


「…………」

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