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02-61.お使い任務

 屋敷に残したユーシャを起点に魔力壁を維持して、私とシルビアはこっそりと敷地の外へと抜け出した。


 既に敵の配置状況は把握済みだ。第三王子のイマイチやる気のない兵士達の視線を掻い潜るのは造作もなかった。無理もない。もう二十連勤くらいしてそうだし。交代要員とか足りてなさそうだし。


 どうやら司法側の人員は配置されていないようだ。第三王子の兵士達が既に張っているから必要ないと判断したのかもしれん。つくづく奴らは私達の役に立ってくれるものだ。


 人目を忍んでどうにか学園の敷地内に侵入し、何食わぬ顔で寮への道を歩いていく。今は二人とも制服姿だ。誰も疑う者などいないはずだ。



「それにしても胸がキツイな」


 パティの制服を借りるのは無理があったかもしれん。



「ダメだよ。先生。

 そんな所に指突っ込んだら端ないよ」


 私の手を掴んで引き寄せ、そのまま握りしめるシルビア。どうやら仲良く手を繋いで向かうつもりのようだ。良いね。青春だね。学生っぽいね。



「先生はやめろ。今はクシャナだ」


「ならクシャナも話し方変えてみたら?

 それじゃあ妖精王だってバレちゃうよ?」


「それもそうだな。違った。それもそうね」


「うん♪ うん♪ その調子♪」


 まあ口調でバレたりはせんだろう。そもそもパティの部屋に近付いた時点で怪しまれるだろうけど。



「こっちだよ。クシャナ」


 三年以上も生活している場所だけあって、シルビアの足取りに迷いは無い。真っ直ぐ寮を目指しているようだ。もう然程時間はないからな。やはり来てもらって正解だった。



「あの建物だよ。

 パティの部屋は三階の角部屋なの」


「中から行くのは危険よね。

 外から回り込んでみるのはどうかしら?」


「う~ん。それより良い方法があるよ。

 今日はお休みだから。あの娘も寮にいると思うし」


「あの娘って?」


「隣室の娘。ミランダっていうの」


「ああ。そっか。隠してるのは壁の中って話しだものね。

 何もパティの部屋からじゃなくても良いのよね」


 あの姫様、勝手に壁をくり抜いて隠しスペースを作ったらしい。自ら魔導杖を作るだけあって細工の類も達者なのだ。



「後で私達も先生に謝らないとだけどね」


「いっそ貫通させて敵のせいにしてしまえばいいわ。

 どうせパティの留守中に勝手に部屋を漁ったんだし」


 パティの細工の件も証拠隠滅してしまおう。一石二鳥だ。



「ふふ。もう。クシャナったら」


「急ぎましょう。もうあまり時間が無いわ」


「そうだね」


 私達は寮に堂々と正面から乗り込み、何食わぬ顔で三階まで上がっていった。案の定パティの部屋の前には兵士が一人立っていた。どうやらこっちは第三王子の手勢ではなく、司法側の手配した人員のようだ。しっかりと仕事をしているっぽい。


 最初は近付いてきた私達に警戒したものの、シルビアが隣の部屋をノックして、中から出てきたミランダ嬢と楽しげに話をしだすと、あっさりと警戒を解いてくれた。


 あの学園長の事だから、生徒達に余計な手出しをしないようキツく言い含めていたのかもしれない。


 ミランダ嬢は明るく聡い少女だった。久々に顔を出したシルビアに驚きはしたものの、当然隣に兵士が立っている事は知っていた為、大きな声を出す事もなく自然な態度で合わせてくれたうえで、初対面の私にも躊躇う事なく部屋の中へと招き入れてくれた。



「ありがとう。ミランダ」


「良いのよ。これくらい。

 それで? パティは無事なの?」


「うん。大丈夫。私達はパトからお使いを頼まれたの。

 それで悪いんだけど、ちょっと壁に穴開けても良い?」


「必要ないわ。欲しいのはこれでしょ」


 ベットの下から何やら鍵付きの箱を取り出したミランダ嬢。以前ジュリちゃんの店で見た、呪いの人形を封じていた箱に少し似ている気がする。結構なサイズ感だ。あと重そう。



「え? まさかこれって?」


「もちろんパティのよ。兵士達がパティの部屋の物、片っ端から持っていっちゃったから。これだけは隙を見て取り出しておいたの。もうこっちの壁の穴は塞いであるから心配は要らないわ」


 この世界のお嬢様達ってDIYが必須技能なの?



「よく知っていたわね」


「そりゃあ隣の部屋で壁くり抜かれたらわかるわよ。

 安心して。私はそんなヘマしてないから」


 ヘマしたって言われてるぞ。パティ。



「ありがとう。ミランダさん。とっても助かったわ」


「どういたしまして♪

 ところであなたはパティとどういう関係なの?」


「婚約者よ」


 手を上げて指輪を見せてみる。



「それは……」


 複雑な表情でチラッとシルビアに視線を送るミランダ嬢。この様子だとシルビアのパティへの想いは気付かれていたっぽい。パティ本人は違うと言っていたけど。



「心配しないで。今はシルヴィーも一緒に暮らしているの。きっと時間の問題よ。パティは浮気者だから」


 余計な事を言ってしまった。まあでも、なんかミランダ嬢にこれ以上心配をかけるのも気が引けるからね。



「そっか。ふふ。なんだか羨ましい」


 ごめん。流石に連れて行くのは無理なんだ。

見せびらかしておいてあれだけど。



「帰りはどちらから?」


 このまま窓から飛び降りた方が手っ取り早いけど、それではミランダ嬢が困るだろう。後で兵士に問い詰められるのは間違いない。



「普通に扉から出るわ。

 けれど窓を開けておいてくださるかしら?」


「結構重たいわよ?」


「大丈夫。クシャナは凄い魔術師だから」


 正確には魔導師だがな。パティ曰く。



「なるほどね。

 おっけ~♪ 待ってるわ♪」



 一旦箱は持たずに扉から出て、そのまま寮の裏手に回る。ミランダ嬢に合図して箱を窓から出してもらい、魔力手で受け取った。


 最後にもう一度ミランダ嬢に礼をしてその場を後にする。


 これでミッション達成だ。何事もなくて何よりだ。



「シルビアさん!」


 誰だ!?



「大丈夫だよ。クシャナ。ナダル先生なら」


 ああ。パティ達の担任か。



「何故ここに!?

 まさかパトリシアさんも!?

 今ここは!」


 慌てて駆け寄ってきたナダル教諭が、そのままの勢いでシルビアに問いかけた。



「大丈夫です。先生。

 パトは屋敷から出ていません」


「ああ……そうでしたか……。良かったです。

 シルビアさんも元気そうで何よりです」


 本当に血の気が引く程心配してくれていたようだ。

良い先生だな。やっぱり。



「はい。お陰様で。

 すみません。先生。

 急いでいますので私達はこれで」


「気を付けてください。見廻りが私だったから良かったものの、他の誰かに見つかれば、いえ。要らない心配でしたね。そちらの方は妖精王様ですね?」


 見廻りか。それでこんな真っ昼間から寮の近くを彷徨いていたのか。まあでも、一目でシルビアに気付いたのはナダル教諭だからこそだろうな。まだ少し距離もあったのだし。


 しかし目立つ箱も持っているからな。もっと用心せねばな。折角首尾良く目的の物を手に入れたのに、こんな場所で躓いているわけにはいかんからな。



 いや、それよりもだ。

この者はどうやって私を妖精王と見抜いたのだ?

魔力量か? それとも単に見覚えのない顔だったからか?

まさか生徒全員の顔を記憶しているのか?



「いかにも。私は妖精王エリク。

 ですが、この姿の時はクシャナと呼んでください。先生」


「クシャナさん……わかりました。

 二人とも付いてきてください。

 学園の外まで付き添います」


「良いのですか?

 勝手に持ち場を離れても」


「手短に済ませましょう」


「「ありがとうございます。先生」」


 パティは本当に良い友人達や先生方に恵まれたものだ。お陰で助かった。これで間違いなく無事に帰り着けるだろう。


 後は屋敷の敷地近くにさえ辿り着ければ問題ない。

最悪兵士達に見つかっても魔力壁で空から乗り込めば済む。


 待っていろ。パティ。もう少しだ。

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