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02-57.決着

 マズいな……。パティもレティも本気になりすぎている。これでは自身も相手も必要以上に傷つけてしまう。


 まさか私を当てにしているのか?

もう私は身内以外を治療するつもりはないのだぞ?

その事が抜け落ちてはおらんだろうな?


 話しかけようにもスノウもレティも戦闘中の集中状態だ。こんな状態で体の支配権を奪うのはかえって危険だろう。やるなら戦闘自体を中断させるつもりで介入せねば。


 もう少しだけ様子を見るべきだろうか。皆を信じて任せるべきだろうか。こんな時に相談出来る相手がいないのは心細いものだ。かと言ってユーシャやディアナには伝え辛い。あの子達を不安にはさせたくない。



 仕方ない。もう少しだけ見守っていよう。


 最悪の場合はあの杖に頼るとしよう。あれなら私の魔力を流す事にはならないからな。依存症の心配もないのだ。魔力壁を維持できなくなるかもしれないというリスクもあるから本当に最後の手段にするべきではあるのだが。


 だから最悪の事態に至るギリギリ直前のタイミングで全員魔力壁で囲って中断させよう。人命最優先だ。爺様も先輩とやらも、それぞれパティとレティにとって大切な者でもあるのだ。あの子達が後悔するような未来は絶対に避けなければならない。


 少々屋敷周りの見張りは疎かになるが、二つの戦場に意識を集中しよう。となるとやはりメアリ達も動かせん。ユーシャ達の護衛は最優先だ。私も魔力壁だけは切らさないようにせねば。




----------------------




「行きますよ! お爺ちゃん!」


 今の私が制御出来る限界まで魔力を貯め終えた。とても一つの魔術に込められるような魔力量ではないが、これを全て注ぎ込めれば十分な威力を引き出せるはずだ。


 今度は魔力壁に手を添えて呪文を唱えながら、引き出される魔力に自らの意思で上乗せしていく。魔力を光に変え、もう一方の掲げた手の先に集約していく。



 まるでもう一つの太陽が生まれたかのようだ。


 これは火の魔法の最上位呪文。所詮それだけの存在だ。当然まだここで終わりではない。まだまだ魔力を込めていく。炎は強烈な光を放ちながら段々とその色を変えていった。黄色から白へ、白から青へと。


 自ら構築した火球の熱に耐えきれず、手のひらが焼けただれていくのを感じる。しかし瞬時にエリクちゃんの魔力によって癒やされる。その繰り返しによる激痛に耐えながら、どうにか意識を集中して魔力を注ぎ込み続ける。


 さあ。これで準備は整った。


 いくよ。お爺ちゃん。今度は風なんかじゃ散らせないよ。水だって一瞬で蒸発してしまうだろう。どんな手段で止めるのか見せてみて。お爺ちゃんならきっと。



 私は手の平を振り下ろした。私の誘導に従って、青い火球は前方の私より低い位置に居るお爺ちゃんに向かって斜めに落ちていく。何故かその速度はとてもゆっくりだ。もしかしたら私がそう感じているだけなのかもしれない。術を構築した際の極限の集中状態から抜けきっていないのかもしれない。


 お爺ちゃんと火球の間には岩と土の壁が生み出された。誰しもが学ぶ基本的な防御呪文だ。お爺ちゃんのそれは他者とは比べ物にならない密度を誇る一際強固なものだけど。


 しかしそれでも到底足りるはずがなかった。なんの障害にもなり得なかった。案の定、壁は一瞬で打ち砕かれた。まるで炎自体に質量があるかのように、物理的に殴られたかのように、壁のど真ん中から粉々に散らばってしまった。


 お爺ちゃんは諦めず何枚もの壁を生み出した。しかしその尽くが散っていく。火球は歯牙にもかけていない。何の障害もなかったかのように変わらずお爺ちゃんに向かって落ちていく。



 マズい! このままじゃ!

やりすぎた! お爺ちゃんが!


「……っ!」


 声が出ない……。なんで……。なんでよぉ!


 逃げて! お爺ちゃん!

もういいから! 諦めて!

ムリだよ! 止まらないよ!

ダメ! このままじゃ!


 お爺ちゃん!!


 だめぇ!!!!



「やりすぎだ。バカ者め」


 私に動かせなかった私の口が勝手に言葉を放った。



「エリクちゃん!?」


 今度はすんなりと言葉が出てきた。

エリクちゃんが何かしてくれたのだろうか。



 突如、足元の魔力壁から巨大な魔力手が生えてきた。魔力手が火球を握り込むと、その魔力手ごと覆うように何重もの魔力壁がせり上がった。


 一瞬遅れて轟音が鳴り響き、火球のあった場所から天まで届きそうな勢いで火柱が上がる。魔力壁に誘導されて、その力の全てが空へと放出された。



「まあ結果オーライだな。

 注文通りの盛大な花火を打ち上げてくれたな。

 よくやった。先程の言葉は撤回しよう。

 感謝するぞ。レティ」




----------------------




「……」


「悪かった。バカ者だなんて言って。

 私も余裕が無かったんだ。

 レティの身になにかあればと」


「お爺ちゃんは!?」


「下だ。ほれ」


「お爺ちゃぁん!!」


 私がレティの体を操って視線を向けさせると、レティは一目散に爺様の下へと飛び込んだ。無事な曽祖父の姿に安心したようだ。そして同時に危うく命を奪いかけた事がショックだったようだ。わんわん泣きながら謝っている。



「わしの完敗じゃ。

 強くなったのう。レティ」


「違うんでずー!!!

 わだじはぁ!!」


「インチキをしとったのはわしも同じじゃ」


「でもぉ~~!!」


 まあ爺様からは結局一度も攻撃していないからな。勝負になっていたとは言い難い。それでも十分見応えはあったぞ。爺様の卓越した技量はそれだけ驚くべきものだった。この国の者達にとっては常識であろうがな。



「お主は何故避けなかったのだ?」


 あの火球の速度は大したものではなかった。飛行魔術を使える爺様に避けられない筈はない。



「いや、この問いは無粋だったな。忘れてくれ」


 この国の強者達はそういうものなのだな。特に全力でぶつかって来る孫娘に背を向けるなど、爺様の立場で出来るはずもないのだ。



「ふぉっふぉっふぉ」


 そもそも答える気も無かったようだ。それこそ無粋だとでも言いたいのかもしれない。



「約束通りレティは連れて行け。後は任せたぞ」


 爺様にレティを託してその場を抜け出し、今度はスノウの方に意識を向けた。




----------------------




「エリク! 今の何!?」


「なんだ。こっちも決着していたのか。

 しまった。見逃してしまったぞ」


「レティは無事なの!?」


「ああ。もちろん。爺様も無傷だ。

 予定通り、レティは預けておいた」


「そう……よかったぁ……」


「それより問題はお前達だ。

 全員傷だらけではないか」


 スノウは治っているようだが、それでも服がボロボロだ。よほど激しい闘いがあったのだろう。パティと先輩とやらは自ら立ち上がる事も出来ないようだ。



「心配しないで。掠っただけだから」


「立ち上がれすらせんではないか」


「魔力を使いすぎただけ。分けて♪ エリク♪」


 どう見てもそれだけではあるまい。足にやたらと傷を負っているようだ。幸い大きな傷は無いようだが……まさかこれ、散弾を自ら浴びたのか?



「オ~。アナタはタフデスネェ~」


 スノウが先輩さんを抱き上げてパティの近くに横たえた。



「おい。やり過ぎだろ。私は許可なく他者に魔力は流せんのだぞ?」


 こっちは道理で立ち上がれないわけだ。先輩さんの片足が大きく抉れている。位置が悪ければ既に失血死していてもおかしくなかっただろう。こんなの普通のポーションでは治せんだろうに。下手をすると二度と歩く事は出来んだろう。



「せめて止血くらいしてやらんか」


「お願い。エリク」


「ダメだ。魔力は使わんぞ」


 それだけはダメだ。私は誓ったのだ。パティの望む事はなんでもしてやりたいが、今ここで魔力を流し込むのはやり方が違うのだ。ユーシャやディアナとの関係が悪化しかねない方法はダメだ。どうせならあの子達も巻き込んでからにするべきだ。今回の場合はあと数分の辛抱なのだから。



 スノウの服の一部を切り裂いて先輩さんの足をきつく縛りあげる。一先ずこれでもう少し保つだろう。本当にもしもの時は魔力を流すのもやむを得ぬかもしれんが、出来る事はしておくべきだ。


 次にパティと先輩さんを魔力壁で作った担架に乗せて屋敷内に運び込んだ。



「私も治してくれないの?」


「お預けだ。暫く反省していろ」


「は~い……」


「サッキマデと様子が違イマスネェ~」


「お前は喋るな。重症なのだ」


 屋敷内の一室に二人を運び込むと、先にユーシャを介して呼び出しておいたディアナ達が待っていた。



「パティ!! エリク! 何で治してあげないの!?」


「罰だ。無茶をしたからな。

 私がいるからと傷つく事を厭わず戦うのは違うだろう」


「そう……。

 こちらの方は?」


「私の先輩よ。今日からこの家のメイドさん」


「ヨロシク~」


「ボロボロじゃない!?」


「エリク。許可してあげる。

 だから治してあげて」


 ディアナも同じ意見のようだ。視線を向けると黙って頷いてくれた。正直この惨状を見せれば二人は許可をくれると思っていた。ズルいやり方だとは思うが、黙ってやるよりずっと良いはずだ。



「ありがとう。ユーシャ」


「パティはダメ。反省して」


「は~い……」


「少しずつだ。大きな怪我だけ治癒していこう。

 依存症にならない治療方法もあるやもしれん」


 先輩さんには悪いが実験台になってもらおう。

私にはまだまだ経験が足りていない。



「エリク様。治癒ポーションです。

 こちらもお使いください」


「ありがとう。メアリ」


 さて。早速始めよう。我ながらどうかとは思うが、実験と考えると少し楽しくなってきた。流石にこの感覚は口には出来ないけれど。

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