02-49.弱点
「おい! マズいぞ!
このままじゃ本当に破られてしまう!」
第二王子の右腕から放たれた杭が魔力壁に幾度も衝撃を与えていく。急いで補強も続けているが、明らかにあの神器の威力は魔力壁の強度を上回っている。
「今なら隙だらけです!
お姉ちゃんが背中からサクッとやってきます!」
「おい! 待て! 何をする気だ!?
ダメだ! 殺っちまうのはダメだぞ!」
「甘いこと言わないでください!
あの二番目お兄ちゃん相手なんです!
殺る気でやらなきゃ殺られます!」
「ならここで大人しくしていろ!」
レティの体を完全に支配し、飛び出さないようその場に縛り付ける。
「エリクちゃん!」
くっ! 聞き分けてくれ!
こっちも余裕が無いのだ!
「エリク!? 今のは!?」
飛び起きたパティがクシャナの方の私に問いかけてきた。
「第二王子の襲撃だ! 悪いが今は手を離せん!
そこで皆を……いや! こっちに来てくれ! パティ!
レティを止めてくれ!」
「!? わかったわ!」
一瞬意味がわからないという表情を浮かべるも、それ以上は何も聞かずに飛び出すパティ。物わかりが良くて何よりだ。今は尚の事ありがたい。
「レティ!」
「パティ! 良いところに!
エリクちゃんを説得してください! このままじゃ!」
「落ち着いて。レティ。
状況を教えて」
「エリクちゃんが限界です!
お姉ちゃんが止めてきます!」
「エリク!?」
「おい! 端折るな!
限界なのは魔力壁だ! 私じゃない!
レティが第二王子を抹殺しようとしているのだ!
パティも止めてくれ!」
「そういう……落ち着いて。二人とも。
先ずは二兄様を壁の内側に招きましょう」
「そういう事か! そうだな! それでいこう!」
魔力壁を操作して第二王子の突っ込んできた部分に穴を空け、ダメ押しに後ろから魔力手で押し込んで魔力壁を閉じ直した。
「妖精王! 何のつもりだ!!」
あれ? ブチギレてる?
折角楽しんでた所に水差しちゃった?
「二兄様!」
パティが止める間も無く窓から飛び出し、怒れる第二王子に臆する様子もなく飛びついた。というかあやつまた抱きつきおったな……。しかも第二王子にも懐いてたんかい……。
「離れろ。パトリシア」
さしもの第二王子も無邪気な妹の抱擁を無下には出来ず、先ほどの怒りが嘘のような静かな声音で諭すように話しかけた。
「待って! お願い! 話を聞いて兄様!」
「なんだ? 手短に済ませろ。見ての通り取り込み中だ」
聞くんかぁ~い!
甘すぎるでしょ! なに!? シスコンなの!?
いや、パティがおかしいのか。人誑しの天才なのか。陛下も第一王子父娘も第二王子もレティも会う者皆がパティに好意的だし。やっぱ王様向いてるんじゃない?
「もう攻撃はやめてほしいの。
代わりに私と一対一で戦いましょう」
「ならぬ」
そりゃ無理だろ。第二王子の目的は妖精王なんだし。と言うかパティも自分で言った通り、パティでは第二王子の相手は務まらんだろう。あの魔術の反射を受けて無傷だったのだ。パティの魔術でダメージを与えられるかすら疑わしいところだ。もしかしたら私の魔力壁より丈夫なのかもしれない。流石に無いか。無いよね?
「ならレティは?
私達二人がかりでも兄様を満足させられない?」
おい。妙な言い方をするな。
「ダメだ。妖精王を出せ。
奴との一騎打ちならば受けてやる」
「ならこの騒動が終わってからでもいい?
エリクは今私達を守ってるから。
兄様との死合に全力を尽くせないの」
「……」
今なんか字がおかしくなかった?
しないよ? 殺し合いなんて受けないよ?
「お願い。兄様。私が必ず約束を履行させるから。
ね? 信じて? 良いでしょ? 二兄様」
女性がというより、子供が甘えるように、第二王子の手を引っ張って問いかけるパティ。
「……約束だ」
うけるんかぁ~い。
「ありがとう♪ 二兄様♪ 大好き♪」
おいこら。
「うぅ~!!
やっぱり行かせてください! エリクちゃん!」
ダメだってば。ちょっとイラッと来るのはわかるけど。
影でただの脳筋呼ばわりしておいてって思うけど。
パティ、そういうところだぞ。ダメだぞ。そういうのは。
ほんと、良くないところだぞ。
「あ、そうだ。兄様、これもう要らないでしょ? 私達に預けてくれない? きっと兄様が持って帰っても取り上げられちゃうし。それで今度は使いこなせもしない人に渡されちゃうと思うの。そうしたらきっとその人はこの装備に耐えられないと思うの。あれだけの威力が出るのですもの。きっと反動も大きなものなのでしょう? 扱えるのって兄様だけなんでしょう?」
「……うむ」
え? 神器まで取り上げるの?
と言うか素直に渡してくれちゃうの?
なんならちょっと嬉しそう?
やっぱシスコンじゃん!
褒められて満更でもないんじゃん!
「ありがとう♪ 二兄様♪」
またハグをしてから第二王子を送り返すパティ。
第二王子は私が魔力壁に開けた穴を通って、どこか満足気にその場を後にした。
「ただいま~」
パティは両腕で抱えるようにして、巨大な篭手を持って帰ってきた。
「……」
「なに? どうしたの?」
レティは何も言わず、篭手をはたき落とすようにして手を空けさせてから、パティを抱きしめた。
「本当にどうしたの?」
ちょっとレティが可愛そうになってきた。




