02-41.優等生と悪巧み
「うむ。良いぞ。その調子だ」
「はい! 先生!」
シルビアを迎えた翌朝から早速魔導の訓練を開始した。
シルビアはよほど魔導と相性が良かったのか、まさにスポンジのように次々と魔導を習得していった。
「驚きました。本当に」
お姉ちゃんもあまりのスムーズさに言葉を失っている。この状況は完全に想定外だったようだ。シルビアはやはり特別なのかもしれない。
「えへへ~♪」
何より心根が素直なのが良いな。境遇を思えば魔術を使えない事を苦にしてもっと暗い性格になっていてもおかしくなかっただろうに。そこら辺は本人の性質に加えて、パティや先生方の尽力も大きいのやもしれん。
「次はこれを試してみよう」
「はい! 先生!」
よしよし。やはり素直な頑張り屋は教え甲斐があるな。
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「第三王子本人はあれ以来現れておらん。
兵士達も相変わらず軽いちょっかい程度だ。
もしかして奴らは何かを待っているのだろうか」
「助っ人でも呼んだのかもね。
そろそろSランク冒険者も出張ってくるかもしれないわ」
面白い腕試しとでも考えるかもしれんな。
既に噂も広まっている頃だろうし。
「厄介な相手はいるか?」
「いるわ。けど彼が出張ってくる事はまず無いわね」
「有名な冒険者か?」
「ええ。今はお祖母様の下で戦ってくれているはずよ」
それは都合が良いな。
戦争の間はこちらに戻って来る事は無いのだろうし。
「神器遣いの冒険者とかもいるのか?」
「どうかしら。居たとしてもこの国に居続けることは無いんじゃないかしら」
それもそうか。回収班送り込まれちゃうだろうし。
活躍していたとしても何時の間にか名前を聞かなくなりそうだ。逆に言うと世界中を探せば誰かしらいるかもな。実際に近衛の騎士団長は神器を活用しているわけだし。
「そろそろジェシー王女も動くのではないか?」
「可能性は高いわ。一月かけないと言っていたもの。それに私が城に忍び込むのも想定しているはずよ。なら噂も広まらないような短期決戦を仕掛けて来る可能性は十分あるわ」
いったいどのような手で仕掛けてくるのだろう。
魔術師の軍勢? 地下からの奇襲? まさか転移魔術?
色々想定はしてみたが結局これといったものは見つけられておらんのだ。しかし彼女は初日に会った時点で何やら自信あり気のようにも見えたし、あの時既に魔力壁を破る手段にも心当たりがあったのかもしれん。
「ジェシー姉様なら根拠なんて無くても自信があるように見せるわよ。言ったでしょ。勝負事には強いのよ」
ただのハッタリだった可能性もあるのか。
まあそれくらいの事はするか。
「とにかく受けて立つしかないな。
思いつく限りの準備は進めてきた。
どんな策で来ようと止めてしまえばいいだけだ」
一応この世界、少なくともこの国に転移の魔術は存在しないらしい。神器も知られている限りでは同様だ。そもそも基本的には地水火風の属性魔術しか存在せんのだ。飛行魔術はただ風を操っているにすぎないし。
光と闇も存在するそうだけど、使い手が歴史上数人って程度だ。現代では術の詳細すら伝わっていない。当然パティやレティですら使い方は知らないらしい。
なら時空間魔術なんてものは存在しないのだろう。もしかしたら魔導にならその可能性もあるかもしれんけど。最近ようやく炎を出すくらいの事は出来るようになったし。
「再生型魔力壁もどうにか間に合ったわね」
「うむ。占有化の方は相変わらずだがな」
本当にどうしたものやらだ。私には無理かもしれん。いっそレティと成長したシルビアに任せた方が早そうだ。
「魔術はどう?
相変わらず使う気にはならない?」
「必要もなかろう。
パティもレティもスノウも最上位の実力者だ。
私の魔力を用いれば敵などおらんだろう」
「過信しすぎないでよ」
「なんだ? らしくないではないか。何時も通り自信を持つがいい。パティは調子に乗っているくらいで丁度良いのだ。私はお前の前向きさが好きなのだ。妙に気負う必要は無いのだぞ?」
「散々な言いようね」
「そうか? もしや期待を押し付けられているとでも? 私はそんなつもりなんぞ無いぞ。パティの事は信頼している。だからって頼りきりでいるつもりもない。むしろ後ろで引っ張られるだけの存在ではいたくない。パティの隣で手を握っていたい。これはそういう意味だ。だから安心しろ。気を遣うための笑顔を浮かべろとは言っていない」
「もう。そっちの方が難しいじゃない」
「そこは気の持ちようだ。私達に迷惑をかける事が怖いなんて感情は捨ててしまえ。どうせお前に我慢なんぞ出来んのだ。ギリギリになって押し込むくらいなら最初から全部押し付けてしまえ。安心しろ。ユーシャとディアナには内緒にしてやる。全部私が受け止めてやる」
「まだ隠している事があるかもって疑ってるの?」
「うむ。その通りだ。だがもう怒らん事にした。パティが私を巻き込んでくれた方が嬉しいからな。悪巧みがあるなら事前にそう言え。何でも協力してやるとも」
「……考えておくわ」
「楽しみにしておるよ」
「……ありがと」
パティは赤く頬を染めて小さく呟き、視線を逸らした。