02-38.特別な素質
「なりません。コルティス嬢は我々が守護します。余計な心配をしていないで帰りなさい。騒動が収まるまで学園の敷地内に立ち入る事は許しません」
ダメだ。まるで話を聞く気は無いようだ。
「学園長!」
「聞き分けなさい」
仮にも王女相手にピシャリだ。
流石、王族すら好き勝手出来ないとされる学園の長なだけはある。
さてどうしたものか。別に無理やり連れて行く必要も無いのだが。本当に守ってくれるなら任せておく方がこちらとしても都合が良い。籠城中だからな。物資の問題もあるし、何より人は少ない方が守りやすいのだ。
「学園長。パトリシアさんに任せてみませんか?」
パティ達の担任教師が言葉を挟んだ。
パティとユーシャは最初この担任教師の下を訪れたのだ。事情を聞いた担任は、こうして再び学園長室まで連れて来てくれた。
「口を慎みなさい。これは学園長としての決定です。
貴方の出る幕ではありません」
「申し訳ございません。ですがどうかお願いします。
私はこれを良い機会だと考えます」
「……まさか託すと言うのですか?
妖精王などという得体の知れない存在に?
我々の大切な生徒であるコルティス嬢を?
自らの責務を放り出すと言うのですか?」
「重ねて申し訳ございません。私では力不足でした。
シルビアさんを育て上げる力はありませんでした。
残り少ない学園生活でもそれは決して叶わないでしょう」
何の話だ?
「……そのような物言いはおやめなさい。
貴方はよくやっています。あの娘は特別なのです。
素質を引き出しきれないのは我々全員の力不足故です」
何か特別な力を持っているのか?
もしかしてこの学園、悪役令嬢とかもいたりする?
あれか? パティが主人公を本来の攻略対象達から寝取っちゃったせいで物語が進まない的なやつか? 卒業間近になっても主人公が何の力にも目覚めてないからピンチなのか?
その内魔王とかも出てきたり?
あかん。思考がアホな方向に行ってる。
今更乙女ゲーの世界だったとか言われても納得できるか。
そんなわけがなかろう。偶然だ。そうに決まってる。
……王様がやたら強さに拘ってるのってそこに関係あったりしないよね? なんか予言で魔王に国滅ぼされるとか言われてたりしないよね?
バカバカしい。ほんと。そんなわけないってば。
「パトリシア殿下」
あら? 一応呼び方はそっちなの?
別にこの学園長、王族を蔑ろにしてるわけでもないのか。と言うか普通に生徒や教師を心配してるし、単純に職務に忠実なだけの良い人なのだろう。
「妖精王、いえ。妖精王陛下は信頼に足るお方ですか?」
「はい。私は心から信じています。
シルビアを託して下さるなら必ずや導いて下さいます」
「おい。パティ。それは何の話だ?」
「エリク!? ちょっ!?」
「お前また隠していたな? この状況を想定していたな?
そういうやり口はいかんと何度も言っておるだろうが」
「シー! ちょっと! 今喋らないでよ!」
「……これは何の悪ふざけですか? ユーシャさん?」
「名乗りが遅れて申し訳ない。私は妖精王エリク。
今は屋敷からこの少女を操っている」
「……本当なのですか?」
「生憎と証明する手段は持ち合わせていない。勝手ながら、それでもこうして出てくる必要があると判断した。パティと貴殿らの願いを叶える為には私の器量を示すべきであろう。ならば黙って覗いているだけでは不適格だ。これを貴殿らがどう受け止めるかは任せよう。論外だと断ずるならば私が責任を持ってこの娘達を引かせよう」
「妖精王陛下。器量を示すとおっしゃいましたね」
「うむ。要望があるならば口にするがいい」
「でしたらどうか暫しのお時間を」
そう言ってから、今度は担任教師へと呼びかけた。
「ナダル教諭」
「はい。学園長」
たったそれだけの会話で担任は学園長室を退室した。
おそらくシルビアを連れてくるつもりなのだろう。
それから暫くして、見覚えのある少女が現れた。
「パト!? それにユーシャも!?」
緊張した様子で学園長室に入って来た少女は、二人の姿を見て半泣きで飛びついてきた。
「もう! 心配したんだよ! 二人とも!
何にも言わないで休学なんて! それに変な噂も!
もう会えないかもって! うっうわぁぁぁあああん!!」
あかん。ガチ泣きし始めた。
たった二日で大袈裟過ぎない?
いったいどんな噂流れてるの?
「大丈夫よ。心配かけてごめんね。シルヴィー」
暫くパティがなだめるていると少女はゆっくりと落ち着きを取り戻していった。
「妖精王陛下。
この少女から何か読み取れるものはありますか?」
ああ。そうだった。本題はそこだよな。
まさかいきなり引き合わせてくれるとは思わなかったけど。
「見てみよう」
シルヴィーの手を取って、微弱な魔力を流し込んでいく。
「!?」
「シルヴィー。少しじっとしていて。お願い」
パティが半ば押さえつけるようにシルヴィーの体を抱きしめた。後でユーシャが怒りそう。まあ仕方ない。くすぐったいからね。魔力抵抗のせいで。
「うん?」
あれ? 魔力抵抗は? 無い? どういう事だ?
「え!? え!? なにこれ!? なにこれ!?」
特にくすぐったくも無いはずなのに、シルヴィーは更に騒ぎ始めた。まあ、自分の中に何か入ってくる感覚なんて、例え気持ち良くたって混乱するよね。普通は。
「シルヴィー」
パティが再度呼びかけた。
ようやく大人しくなるシルヴィー。
目をぎゅっと瞑って耐えている。
なんか新鮮だなぁ。こういう反応。すっごく普通って感じがする。うちの娘達、もう魔力流されたら恍惚とするだけだもの。それか無反応か
いや、それどころじゃないんだよ……。
「パティ。この娘には呪いが無い。
おそらくユーシャと同じだ」
「なんですって!?」
「何かわかったのですか?」
さて。どう説明したものか。魂の呪いの事はあまり広めるべきではないよな。これは爺様とレティの研究成果だ。レティが私のものとなったからと言って、勝手に言いふらすわけにはいかないだろう。
「少し待ってくれ。先に確認したい事がある。
パティ。この少女は魔術が不得手なのか?」
「ええ。一切使えないわ」
使えない? それも一切?
私は違和感こそあるが魔術を使えないわけじゃない。
スノウに至っては普通に魔術も魔導も使いこなしている。
ユーシャはどちらもまだだ。
パティから教わっているが未だ魔術を成功させた事は無い。
シルヴィーは魔力持ちだ。それは間違いない。
なのに魔術を一切使えない。
生まれつき呪いを持たない者は魔術が使えないのか?
私が魔術を使えるのは例外なのか? ならばスノウは?
ダメだな。今はそこを掘り下げるべき時じゃない。
これは簡易的な診察だ。時間を掛けるべきは今じゃない。
先ずは学園長の問いに答えよう。
「この娘には私達と同じ力の素質がある。
おそらくその素質と人間の魔術は相性が悪い。
今わかるのはその程度だ」
「私達と言うのは妖精族を指すのですか?」
「うむ。加えてその眷属だ。
この少女には私の眷属達と同様の特徴がある。
私も見るのは初めてだ。眷属達以外の人間ではな」
厳密にはユーシャもかもしれんが。
とは言え、ユーシャはわからない事が多すぎるからな。
「……私、妖精さんだったの?」
「ふふ♪ もう何言ってるのよ。シルヴィー。
そんなわけないでしょ」
「?」
「私達と一緒に来て。魔術は使えないかもしれないけど、代わりに魔導を教えてあげる」
「まどう? 魔導? パトが何時も言ってるやつ?
もしかして使えるようになったの?」
「いいえ。私は使えないわ。
教えてくれるのは妖精王よ」
「よくわかんないけど。うん。
パトがそう言うなら行くよ。どこにでも」
「ありがとう♪ シルヴィー♪」
なんかこの娘……。後でまた荒れそう。




