02-34.状況整理
「現状で行動を起こしてきた敵対勢力は四組よ」
第三王子の一派。
サロモン翁を筆頭とする王宮魔術師。
第二王子。こちらは単独。
第一王子とその娘、ジェシー王女。
「内、明確な脅威足りうるのは爺様と第一王子の派閥か」
「二兄様、ニコライ第二王子も侮ってはダメよ。
魔力壁の弱点にも何れは気付くはずよ」
野性的な勘だろうか。厄介なものだな。
「他に警戒すべきは近衛の騎士団長だったか?」
「ええ。彼が出張ってくると最悪ね。
正直勝てるヴィジョンが浮かばないわ」
「そこまでか。
それは神器の性能故か?」
「勿論それもある。
けど、本人も冗談みたいに強いの。
そもそも神器って誰にでも扱える物ではないのよ」
そう言えば聖女も莫大な魔力が必要な神器を使っていたという話だったな。
「神器と言えば、聖女の神器の事はお父上にすら伝えておらんかったのだよな。逆に他には誰が知っているのだ?」
「それは……止めておきましょう。
今の状況ではさして重要な話題でもないわ」
なんだ? 何故今になって口を噤むのだ?
私達が王都へとやってきたからか?
それ程知られるのはマズいのか?
「重要ではないというのは無理があろう。
私がその神器として目を付けられかねんのだ」
「……そう、ね」
歯切れが悪いな。
本当にどうしたと言うのだろうか。
「エリクちゃ~ん」
「レティ!? 聞いていたの!?」
どうやってか背後に忍び寄ってきたレティが、しなだれかかるように私の首筋に絡みついてきた。対面のパティとユーシャにすら気付かせないとは。素直に驚きだ。むしろ恐怖すら感じるぞ。我々は決して油断などしていなかったのだ。
「おい。寝ていたのではなかったのか?」
「ふっふっふ♪
お姉ちゃんはパティのピンチに敏感なのです♪」
まあ、実際何だかんだと警戒してはいたのだろう。
本気で完全に気を抜いて眠っていたわけでもないのだろう。
このお姉ちゃんはやはり計り知れないところがあるな。
「ダメですよ~♪ エリクちゃん♪
パティを虐めたりしたら」
「時には虐めくらいするさ。
愛しているからな。気を引きたくて必死なのだ」
「……」
「……」
「レ、レティ……あの……」
「ふふ♪ そんな風に怯えないで下さい♪
大丈夫ですよ。信じて下さい。お姉ちゃんは味方です」
「うん……」
「エリクちゃん。王宮魔術師の、中でも上位の実力を持つ一部の者達には、とある特殊な任務が課せられます」
「レティ!?」
「構いません。私はもうエリクちゃんのものですから」
「続けてくれ」
「はい。私達は神器の回収を任されている者です。
特殊な隠密部隊とお考え下さい」
なるほど。パティはレティに聞かれたくなかったのか。
私が神器に興味を持っていると都合が悪かったのか。
「飛行魔術は便利ですからね。
優秀な魔術師は何かと都合が良いのです」
妥当な話だな。
神器の回収には高い実力も必要なのだろうし。
「管理する者達はまた別にいます。
そちらの情報は我々にも知らされてはいません」
案外、近衛騎士が兼任していたりしてな。流石に安直か。
「神器の事をパティに話したのはレティなのか?」
「ええ。パティの望みは予てから知っていましたから」
このお姉ちゃん、パティに甘すぎるだろう。
パティも、そんな経緯ではお父上にも話せないわけだ。
逆に私達に話せたのは、国と関係のない無力な存在だったからなのだろう。まさか秘密を守る者達とこうも近づくとは思わなかったのかもしれない。
もしかしたらレティと神器の取り合いをするような未来もあったのかもしれんな。その場合レティがやる気を出すかは疑問だが。何だかんだとこちらの味方につきそうな……うん?
「おい、レティ。まさかお前、パティの為に王宮魔術師の職に着いたのか? 聖女の神器を回収できたら、パティに流すつもりだったのか?」
「ふふ♪」
どっちだ?
いやでも、順番がおかしいか。
その仕事に着いたから神器の事を知ったはずなのだし。
でもなぁ。レティだからなぁ。
先に知ってても不思議も無いんだよなぁ。
何度も仕事を辞めたという話も、爺様が辞表を受け取らないと知っていたから出来た悪ふざけだったのかもしれない。パティの為に必要だったなら、本気で仕事を辞めてしまうつもりも無かったのだろうし。
そして今回元気になったディアナを見た事で、仕事を続ける理由が本当に無くなったのかもしれない。実際にはまだ神器も欲しい所ではあるのだけど。そんな話は当然レティには伝えてないし。
あれ?
もしかしてレティが目に埋め込んだのは神器なのか?
まさか管理班に収めず私的利用してる?
そうすると、まさか爺様もグルか?
いくらなんでも肩入れしすぎじゃない?
「爺様とレティはどういう関係なのだ?」
「お爺ちゃんはお爺ちゃんですよ?」
え? そういう事?
「サロモン様はレティの母方の曽祖父よ」
え!?
ひいおじいちゃんだったの!? あの爺様いくつだよ!?
スノウに愛人になれとか言ってたよ!? 元気すぎだろ!?
いや、重要なのはそこじゃないんだけども。
「もう少し爺様の事を大切にしてやらんか」
「良いんです! お爺ちゃんは殺されたって死にません!」
なんでこんな反抗的なのかしら。
滅茶苦茶世話になってるだろうに。
なんなら甘やかされまくってるだろうに。
絶対レティに神器の事教えたの爺様だろうに。
「とにかく話はわかった。
それで、レティはどう考える?」
「エリクちゃんの力が神器によるものかですね。
当然それは疑われているでしょう。
ですがお爺ちゃんは魔導の事を知っています。
ですから心配は要りません」
それがあったな。
手の内を知られる事は厄介だが、お陰で余計な口実を与えずに済んだのは幸いだ。
「と、言いたい所ですが。まあ、諸々知っているのはお爺ちゃんだけですからね。他の者が言及する事は当然あり得るでしょう。お爺ちゃんも所詮は使いっ走りの回収班ですから。お上の指令には逆らえません」
ダメじゃん……。
「とは言え気にする必要もありません。
結局回収に来るのはお爺ちゃんです。
動きを封じてしまえばそれで話は終わりです」
なるほど。
そういう意味でも早めに手を打つ必要はあるわけか。
「陛下はどう考える?
この挑戦の最中でも手を出してくるか?」
ワンチャン、王子王女の争いを優先して止めてくれたり?
陛下的にはもっと積極的に競い合って欲しいって話だし。
「どうかしらね。どちらの可能性も無くはないわ。
王宮魔術師と近衛騎士団は抑えてくれるかも。
陛下の興味が続く内は」
「それはあれか?
私達がこのまま閉じこもり続ければ何れ飽きると?
不甲斐ない子供達に代わってこの茶番を終わらせると?
一旦仕切り直して自分好みにやり直すと?」
「あり得るわ」
「あり得ますね」
「まじかぁ……」
どうしよう……。
やっぱり私は調子に乗っていたのだろうか……。
王宮魔術師も近衛騎士団もそれぞれが魔力壁を突破する方法を持っているのだ。この二つがいっぺんに襲いかかってきたらどうやっても耐え凌ぐ事なんぞ出来るはずがない。
「やはりお爺ちゃんを早めに釣り出しましょう。
それで陛下もより強い期待を抱いてくれるはずです」
各個撃破は重要だ。しかし……。
「今更爺様が負けた所で陛下の心象に影響するのか?
既に陛下の眼の前で負けを認めているのだぞ?」
「問題ありません。本気のお爺ちゃんが暴れてくれれば陛下も楽しんでくれますから。必ずエリクちゃんの力も認められるはずです」
そう上手くいくかなぁ。
「魔力占有化を早急にマスターしましょう。
サロモン様と戦うなら準備はしっかり済ませないと」
「え~?
パティはお姉ちゃんを信じてくれないんですかぁ~?」
「もちろん信じているわ。
けど、レティに任せきりでは陛下も認めてくれないもの」
「まあそうですね。良いでしょう。
お姉ちゃんも全力でサポートしちゃいます。
元々エリクちゃんともそういう約束でしたからね♪」
「お願いね。レティ」
これで一つ方針が固まったな。
まあ、結局これまでと何も変わらないんだけども。