02-33.包囲網とメンタルケア
「おかえり。パティ。ユーシャ。
お早い帰りだったな」
わざわざ朝早くに飛行魔術で学園の教室に直接乗り込んだパティとユーシャだったが、始業前にも関わらず何故か教室で待ち構えていた教師に捕縛され、そのまま学園長室に連行されてしまった。
そして学園長から一月の休学が言い渡され、半ば強制的に屋敷へと帰されてしまったのだった。要するに迷惑だから騒動が収まるまでは来るなと言われてしまったわけだ。
「きっとジェシー姉様の仕業よ」
そうなの?
確かに妙に行動が早かったけども。
でも普通に学園側も対処しただけじゃない?
パティの事をそれだけよく理解してくれているのかも。
なんかパティと担任も仲良いし。
こやつ、あっちこっちにそんな相手がいるな。
まあ人に好かれるのは良い事だが。
恋人が人気者なのも悪い気はしないのだが。
でもやっぱりちょっとじぇらしー。
「きっと情報を集めさせたくないのよ。
何か大掛かりな事を仕掛けてくるんじゃないかしら」
まあ、貴族の子女が通う学園だものな。
王族だってパティだけではあるまい。
情報が集まる場所なのは間違いあるまい。
「早速一つこちらの策が潰されてしまったな」
一応、パティの度胸を示すためのものでもあったのだが。
その辺りの考えも読まれていたのやもしれんな。
爺様だけでなく第一王子の派閥も侮れんようだ。
「ならば今日はどうするべきか」
今はスノウが入口の見張りに。
部屋にはユーシャ、パティ、ディアナ、ミカゲ、私。
それとレティが眠っている。
屋敷内はメアリやトリアが中心となって見回ってくれている。私の蜘蛛達も各所に配置している。
「ねえ、エリク。約束は?」
ディアナが少しだけ遠慮がちに聞いてきた。
「勿論守るとも。今日の勉強は休みだ」
ベットはレティに占拠されてるけど。
スペースに余裕はあるけど別に私達はソファでも構うまい。
「私とユーシャは城に潜り込んでみるわ」
「まあ待て。そう焦るな。今はまだ向こうの行動が読めるほどの情報も出回ってはおらんだろう。そういう事をする時はしっかりと機を伺うものだ」
「……そうね」
らしくない。
「ディアナ。すまんが」
「気にしないで」
意図を察してくれたようだ。
ディアナもパティの事はよくわかっているものな。
「こっちに来いパティ」
パティをソファに座らせ、私は立ったまま、頭を抱えるように真正面から抱きしめた。
「大丈夫だパティ。そう不安がるでない。
誰もパティのせいだなんて思ってはいない。
パティが役に立とうとする必要もない。
私達はそんな事を望んではいない。
ただお前に笑っていてほしいだけだ。
側に居て欲しいだけだ」
頭を撫でながら優しく語りかけていく。
「たかが一つ策を潰されただけだ。焦る事はなにもない。
敵は私の守りを破れない。これはパティのお陰だ。
私の力はパティが一緒に考え、育ててくれたものだ。
今まで沢山頑張ってくれたから私達には余裕があるんだ。
パティがいてくれたから私達は今の関係になったんだ。
大丈夫だ。パティ。心配するな。皆がいる。
皆で考え、乗り越えていけば良い。わかるな?」
「……うん」
「よし。良い子だ。
だがもう暫くこうしていてやろう。
いや、違うな。まだ暫く抱きしめさせてくれ。
私が抱きしめたいのだ。愛しているぞ。パティ」
「……うん」
パティに抱き寄せられて、ソファに膝立ちで上がる。
「おい。何処を揉んでおる」
「ふふ♪」
こやつ。調子に乗りおって。
まあ良いけどさ。元気出たなら。
やれやれ。仕方のないやつだな。
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「ありがとう。エリク。
もう大丈夫よ。そろそろ作戦会議を始めましょう」
パティはそう言いつつも、今度はディアナとユーシャを両脇に侍らせた。
「おい。パティ。ズルいぞ。
どっちか寄越せ」
「嫌よ。エリクにはミカゲがいるじゃない」
「主♪」
「結構だ」
本当に侍らせようものなら、ユーシャとディアナが怒るのが目に見えているだろうに。
「ディアナ。こっちへこい。
約束だ。今日は私が抱きしめるのだ」
「だそうよ。パティ」
「ディアナは私よりエリクが良いの?」
「選べないわ。そんなの。
どちらも同じくらい愛しているもの」
パティからも私の魔力と同じように、何か依存性の高い成分でも放出されているのだろうか。
「残念ね♪ エリク♪
ディアナは離れる気は無いそうよ♪」
「そうは言っとらんだろうが。
ならばユーシャ。お前なら来てくれるだろう?」
「嫌。エリク、ディアナに先に声かけたもん。
だから今日はパティにくっついてる」
なん……だと……。
「仕方ない。
布団に潜り込んでレティでも抱きしめるか」
「「「ダメ」」」
こんにゃろ。
「ミカゲ。スノウと代わってこい」
「あんまりです! 主様!」
「パティ。ごめんね。
このままじゃ話進みそうにないから」
おお! ディアナ!
来てくれるのだな!
「仕方ないわね。
ミカゲ。代わりにこっちに来なさい」
「結構です」
おい。
「ダメだぞ。ミカゲ。お前は私の奴隷なのだ。
つまり我が伴侶であるパティの所有物でもあるのだ。
パティの命令にも絶対服従だ」
「くっ! かしこまりました……」
そんなに嫌?
「ダメよ。エリク。そんな言い方したら」
めんどくさいなぁ。
「ならミカゲもこっちに来い」
「はい! 主!」
「むぅ」
案の定ユーシャがむくれてしまった。
「やっぱ無しだ」
「そんなぁ!?」
「ミカゲで遊ぶのは程々になさいな。
こちらに来なさい。私の横に座りなさい。ミカゲ」
「はい。お嬢様」
ディアナの言う事は素直に聞くのだな。
私がさっきああ言ったからかもしれないけど。
もしくはメアリの教育の賜物だろうか。
後者の可能性が高そうだ。
結局、パティ&ユーシャと私&ディアナ+ミカゲで対面になって席に着いた。ここまで随分と時間を浪費してしまったな。いい加減、真面目に考えねばな。
「一旦状況を整理しましょう」
パティの仕切りでようやく会議が始まった。