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転生したら万能回復薬でした!?  作者: こみやし
02.王都編・お引越し騒動
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02-32.朝の準備と作戦会議

「おはようございます♪ ユーシャちゃん♪」


「……おはよう」


 ユーシャがめっちゃ訝しげだ。

レティの目論見は早々に看破されたらしい。

或いは今更人見知りが再発しただけかもしれないけど。


 いやむしろ、単に機嫌が悪いだけか?

そもそもレティに対して良い印象は持っていないだろうし。

そんなレティが寝起き早々に至近距離まで迫ってきたのだ。

ちゃんと挨拶を返したのを褒めてやるべきかもしれない。



「おはよう。ユーシャ。

 よく眠れたか?」


「うん。大丈夫。おはよう。エリク」


 うむ。良い笑顔だ。

どうやら私に対してはもう怒っていないようだ。



「もうパティとディアナは起きて支度を始めているぞ」


 ユーシャの体に魔力を流してベットから立たせ、そのまま用意しておいた桶とタオルの側へと導いた。



「今日は少し冷えるな。

 レティ、すまんが少し温めてくれ。

 湯が冷めてしまった」


「えっと。エリクちゃん?

 エリクちゃんがユーシャちゃんのお世話を?」


「この娘は朝に弱いのだ」


「え? そういう問題?」


「レティ。気にしないであげて。何時もの事だから」


「そうなの?

 ユーシャちゃんってメイドじゃないんですか?」


 ああ。そうか。ユーシャは昨晩もメイド服だったものな。今は流石に寝間着だけど。この家の令嬢であるディアナすら自分の手で支度をしているのに、メイドのユーシャだけが最後まで寝ていたあげく世話を焼かれていれば不自然にも感じるか。



「ユーシャはメイドである以前に我が娘だ。

 母が娘の世話を焼くのは当然だ」


 そもそもメイドかどうかも微妙なところだけど。元はと言えば聖女かもしれないと疑われたのがキッカケなのだ。そんなユーシャとお近づきになるために、公爵閣下おちちうえが手配して今の立ち位置になっただけなのだ。


 諸々の目論見が消えた以上、別にメイドの立場を継続する必要もない。私がユーシャとの関係をお父上に話していないから成り行きで続いているだけだ。


 既にディアナやメアリもユーシャをメイドとして扱ってはいない。と言うか、このお屋敷の誰もがそうとは認識していないようだ。私も最近気付いた事だがな。


 実際にはどうやら私と同格の客人として扱われているようだ。当然これはお父上の差配だろう。とすると、既に気づいているのかもしれない。私とユーシャの関係にも。もしくは単に愛娘の一人であるパティに気を遣ったのかもしれんが。


 パティが恋人と公言して指輪まで贈ったのだ。と言うかそういう意味でも私と特別な関係なのだと公表されているのだよな。もういいか。その方向性で進めてもらえば。



「……そうですか」


 今度はレティが微妙な表情をしてしまった。


 これはどっちだろう。

姫的な立場か、一般社会人的な立場か。

どっちにしたって褒められた事ではないよね。

それはわかるけど、どう説明したものだろうか。



「一応言っておくと、ユーシャだってエリクが居ない時はしっかりしてるんだからね? エリクが甘やかすからこうなるだけで」


 え? そうなの?

パティと二人の時は朝の支度とかも手伝ってたの?


 あれ? 私のせい?



「エリク。支配解いて。私自分でやるから」


「……ダメだ。

 私がやりたくてやっているのだ。

 もう少し我慢して付き合え」


 ごめん。やっぱ無理。

私が我慢できそうにないわ。



「ユーシャ。気にしないでやらせてあげなさい。私が言ったのはそういう意味じゃないわ。単にユーシャは良い子だって言いたかっただけ。そもそもメイドは方便よ。学園に連れて行く為に用意した仮の姿よ。あなたは私達の恋人よ。本来の立場は従者なんかではないの。それを忘れないで」


「……うん。わかった」


「という事だ。レティ。

 レティもそのつもりで接しておくれ」


「承知しました。

 ごめんなさい。ユーシャちゃん。

 勘違いして失礼な事を言いました」


「ううん。メイドなのも本当なの。

 私、パティやディアナのお世話するのも好きなの」


「ふふ♪ ユーシャちゃんは良い子ですね♪」


 だいぶ各々の認識がズレているな。

まあ良いか。好きにやらせておけば。

私も好きにやらせてもらうし。



「そう言えばレティの立場もハッキリせねばな。

 勿論こっちも仮の話だ。方便は必要だろう。

 城から姿を消した姫君を軟禁しておるのだ。

 それに屋敷の者達にも伝えておかねばならん」


 既にメアリが伝えてくれてるだろうけど。


 とは言えスタンスはハッキリさせておかねば。私の妖精族設定と同じ話だ。先に決めておけば何かあった時に咄嗟の言い訳も立つというものだ。



「私の姉様よ。それで良いでしょ」


「ダメだろ。それだけでは。捕虜ともとられかねん。

 場合によっては何らかの口実にも使われかねん」


 近衛騎士団が攻め込んで来ないとも限らない。

流石に無いとは思いたいが。他にも一部の者が暴走するのも考えられる事だ。レティは見た目が抜群だからな。どこぞにファンでもいるかもしれん。姫だし。


 とにかく口実を用意しておくべきだ。


 なんなら直接レティに説明させに行っても……いや、流石にそれはリスクが高いか。やるとしても一月を乗り越えてからだな。



「まあ、無くもないか。

 わかったわ。何か考えてみる」


「それには及びませんよ。パティ。

 お姉ちゃんの立場はハッキリしています。

 お姉ちゃんも妖精王陛下に嫁ぐ事にしました」


「ダメよ。レティ。それは」


「勿論方便です。弁えていますよ。

 ユーシャちゃんが嫌がる事をしたいわけではありません。

 それでも敢えて提案したのは、単に都合が良いからです。

 私がお爺ちゃんを抑えます。その為の口実にしましょう」


「どういう事?」


「私はお爺ちゃんから派遣されたスパイです」


「なんですって!?」


「そういう設定です」


「あ。そうなのね。

 でもお仕事辞めちゃったんでしょ?」


「安心して下さい。どうせ辞表はお爺ちゃんに握りつぶされていますから。私の立場は変わらず筆頭王宮魔術師補佐のままなのです」


 なんか偉そう。一応役職持ちだったのか。

まあ姫だからな。コネ採用かもしれん。

真面目に職務に励んでいたかは疑問だし。



「私はパティの信頼するお姉ちゃんという立場を利用して、首尾良く妖精王陛下の懐に潜り込みました。しかし敢え無く妖精王陛下に捕縛され、そのまま妖精王陛下の偉大さに惚れ込んで忠誠を誓いました。そういう流れにしましょう」


 まあ、ほぼほぼ事実だな。

実際は洗脳紛いの方法ではあるが。

……真実の方が酷くね?



「お爺ちゃんのスパイだった事と合わせて情報を流しましょう。眼の前にはお誂え向きに三番目のお兄ちゃんが用意してくれた兵士達がいます。彼らに伝令役を頼みましょう」


 奴ら尽く私達の手助けしかしとらんな。



「火消しと責任を取る為にお爺ちゃん自ら出張ってくるはずです。これで近衛が出る幕ではなく、お爺ちゃんの管轄なのだと誘導出来るはずです。当然近衛以外も牽制出来るでしょう」


 なるほど。敢えて炎上しかねない情報を流すわけか。爺様は自らの立場どころか、下手をすると命を守るために出てこないといけないわけだ。容赦ないな。



「私は仮にも姫ですからね。お爺ちゃんの立場では助けに来ざるを得ないはずです。そんな危険な任務を任せておいて放置は出来ないでしょう。私の辞表を公表しても逆効果です。むしろ責められる口実となるでしょう。危険を承知で、姫にそんな物まで書かせた上で乗り込ませるとは。なんて卑劣な輩だと。事実はどうあれ、そう責められるだけなのです」


 卑劣すぎる……レティが……。

酷い罠だ。まさか自分勝手に提出した辞表までそんな風に利用するとは。



「全治一ヶ月くらいの怪我を負わせましょう

 これで一つ懸念が潰せます」


「いや、死んじまうだろ。あの爺様。それはやりすぎだ。

 手を出さないと約束させるだけで十分だ」


「そもそも本当に勝てるの?

 サロモン様の強さはよく知ってるでしょ?」


 確かにそこも気になるな。



「問題ありません。

 エリクちゃんの力があれば負けるはずがありません」


「……まあそうよね。魔力が無限に使えるんだもの。

 負けるわけ無いわよね。レティなら」


「パティはまだ不安ですか?」


「無理よ。私じゃ。勝てるわけ無いわ」


 そんなに?

まあ、実力だけで魔術師のトップを張っているのだものな。

そうおかしな事でも無いのか。


 いや、そもそもこの国の王族とその配下達強すぎるだろ。

仮にもSランク冒険者への昇格をせっつかれているパティが子供扱いだ。


 しかもここと今現在戦争してる国だってあるんだよなぁ。

この世界はやはり過酷すぎるな……。


 と言うか格差が激しすぎるな……。

よくユーシャと私はここまで無事に生き延びてきたものだ。


 ディアナ達と出会う前のユーシャは冒険者としては中の下くらいかと思っていたけど、上を知ってしまうと二度とそんな事言えんな。上が天井知らず過ぎて、相対的に見たら下の下だったのだ。


 多分そこらの支部のエースになれても最下層からは抜け出せまい。それくらい持つ者と持たざる者には差があるのだ。


 何せ王族に生まれれば魔力百倍のアドバンテージだもの。そんな強者達と張り合える爺様だって一般人より魔力は多いのだ。


 そもそも本当の一般人は魔力なんぞ持っていないのだ。

パティの言う一般人とは、百人に一人の魔力持ちの話だ。

いくら何でも足切りが過ぎるだろう……。


 魔力を持たない者達も呪いが解ければ話しは違うのだろうか。実は誰も彼もが魔力を扱えるのだろうか。何れミカゲで確かめてみよう。




「どうですか? ユーシャちゃん。

 少しの間、我慢してくださいますか?」


「……うん。わかった。良いよ」


 本当に少しの間で済むか?

王宮魔術師は陛下の手勢だぞ?

そのトップ宛に宣言するのだぞ?

外堀を埋めるつもりではないか?

ユーシャは本当に理解しているのか?


 後で拗れんと良いのだが。それまでにユーシャを説得するつもりだろうか。まあ、なんかレティの好きにさせておけば上手い具合に根回ししてくれそうではあるけど。



「ならば大枠の方針はそれで良しとしよう。だがレティ。計画を実行するのは暫し様子を見てからだ。爺様が直接手を出してくるのはもっと先のはずだ」


 今はまだ焦って動く必要はない。



「先ずは他の者共が魔力壁相手に色々と試してからだろう。その様子を観察して、自らの糧にするのだろう。なんなら多少の入れ知恵もするかもしれん」


 折角の実験場だ。

十分に遊んで満足してから動くはずだ。



「少なくとも数日中にこの状況を終わらせてしまう事はあり得ない。これはレティ自身が教えてくれた事だ。爺様にとってもこの状況は都合が良いのだ。だから焦る必要はない」


 それに魔導の優秀さも見せつけねばならんからな。

あっさり突破されては陛下の興味が薄れるやもしれん。



「だから今は一先ず眠れ。また今晩も夜勤だ。

 その間こちらも出来る限り計画を詰めておこう。

 それを元に後でまたレティの意見も聞かせておくれ」


「はい♪ エリクちゃん♪」


 そのまま躊躇なく空いたベットに潜り込むレティ。

それ私達のなんだけど……。


 ユーシャが一瞬ムッとしかけるも、結局声をかける事はなかった。どうやら多少はレティの事を認めてくれたようだ。ユーシャは素直だからな。真摯に接してこられるとすぐに心を開いてしまうのだ。レティがユーシャへの気遣いを念押した事で、取り敢えずの警戒心は薄れたのだろう。これは陥落するのも意外と早いかもしれない。我が娘ながらチョロいな。こんなんで大丈夫なのだろうか。まだまだ目は離せんな。

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