空の舞台で
「うわぁ嫌だぁ、団長怖いっスよ! 俺今すぐ帰っていいっスか?!」
スペイフィキィスが黙ったのは一瞬で、やけくそ気味に叫んだ声でクリュセラとオクルスも正気に返って溜息を吐いていた。
「もう決まってしまった事ですし、団長の命令ならば腹をくくるしかありませんわね。愛し子じゃない敵を切って切って、とにかく切ればいいのですね、団長」
綺麗な造作をした顔を破顔させ、ぶっそうな事を確認するクリュセラ。まあその通りなので、黙って頷いておいた。
「団長と巫覡の術から逃げるついでに、敵を切っていけばいいんですね。…… できるかな」
不安そうに言うのはペンギテースだけど、いつもやってる事じゃないの。そして、そういうの一番上手なのはキミでしょうが。と、ペンギテース以外の目が語っている。見つめられた本人はまったく気が付いていないけど。
「えっと、頑張ります」
ペンギテースを見ていたオクルスが気が抜けた様に呟いた。穏やかな彼には気の乗らない指示だろうけど、頑張ってもらわないと困る。
「うぅ、センパイまで。ここで嫌だって言ったらダメなやつじゃないっスかぁ。いやだぁ」
「しっかり嫌だって言ってるじゃないの。団長の命令を嫌と言い続けられるって、相変わず良い度胸をしてるわね、スペイフィキィス」
力なく気合を入れたオクルスを見ても、最後まで嫌だと言うスペイフィキィスに感心したように突っ込むクリュセラ。
「いやぁ、クリュセラさんも知ってるスよね? 俺の壊滅的な戦闘力のなさを。ラクリーマ先輩みたく腕力という力技で解決も出来ない位ひ弱なんっスよ」
「その分、剣の速度で相手を切るのは得意だろ。体力のない振りするのが上手いだけで、ちゃんと戦えるのは皆に知られてるの、お前だって自覚してるだろうに」
まだ言い訳するスペイフィキィスの退路を断つペンギテースに乗って、クリュセラが追い打ちをかける。
「たまに提案する作戦もえげつなくて冷静で冷徹な頭脳派っぽいのに、軽薄な言動でごまかしてるじゃない。もう諦めてまともに戦えば?」
誤魔化してたのバレバレだと言われ渋い顔になるスペイフィキィスだったが、今さらそれが本性ですとは言えず「頑張りますっス!」と怒鳴っていた。
「さて、皆の気合いが入った事だし兄さまの所まで駆けるよ。こちらの存在がばれちゃったみたい」
円になるように向かい合って言い合いをしていた4人は一斉に兄さまの方を見て、皇帝宮騎士団の大隊長らしき人物がこちらに剣をむけて兄さまに怒鳴っているのに気が付いた。
「わーあ、頭悪そうな怒鳴り声ぇ」
口笛を吹いて笑うスペイフィキィスに吹き出した皆は「あの口塞いでくる」と言って駆けて行ってしまった。
「私は上から行くよ。適当に攪乱させといて」
一人残っていたスペイフィキィスに言い、返事は待たずに上昇する。ちらっと下を見ればスペイフィキィスは片手を上げて返事の変わりにして、兄さま達の方へ向き直っていた。
ここから私と連携して術をぶっ放すのかな。相変わらずやる事が大胆で規模が大きいわ。
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今日の空は雲もなくとても澄んでいて、こんな殺伐とした空気のなか天馬と飛ぶなんて残念だわ。
でもこの空の舞台で炎と氷とで大掛かりで手が込んだ見栄えのする術を撃ち、思い切り戦闘演舞するのは、もやもやする気分が少しはすっきりするかも知れない。なんて、ほんの塵くらいの大きさで楽しみに思う。そうでも思ってないと、少しでも楽しい事があるって思わなけりゃやってらんないわ、と吐き捨てたくなる自分が前面に出そうだもんなぁ。
紫炎天は今の所おとなしく従っているけれど、私が戦闘に集中するとどうなるかが不安要素ではある。だからといって何をしたらいいかなんて分からないから、同化している蒼炎が押さえてくれることを期待しつつ、あまり戦闘だけに集中しないようにしよう。
つらつら思考しつつ密度を上げた炎の小剣を広範囲に展開する術を練り上げていると、皇帝宮騎士団から一つ小隊が離れてこちらへ向かって上昇してくる。
まずは私を落とそうとしているらしい。もう少し引きつけて、こちらに来た奴らを確実に落とそう。
迫る敵にも意識を向けつつ巫覡の方も確認すると、背後に居る守護衛士兵団が急き立てるようにじりじりと巫覡に詰め寄り、長髪の青年── まあ確実に氷の男神の侍従だよね ──に犬猫を追い払う素振りで止められていた。
どうみても巫女の色彩を持つ私が皇帝宮騎士団の上部に位置しているんだもの、追い払えと迫っているんだろう。騒がしく怒鳴られても意に介さず、ゆったりと鬣だけが青い天馬を進ませている。
左手でなにかしら術を練っていて、私に対抗するという姿勢を見せている様だった。
あれ、何の術かなぁ。氷系の術もコルフィラティナ様が残してくださった情報で知識だけはあるけれど、実際に見た事がないから術を編んでいる段階で確定できないんだよね。
実際に展開させてくれるのを待たなくちゃいけないか、残念だわ。あ、手先がキラキラ光り出したからあの辺に氷の結晶が舞っているのかな。
すごく綺麗、手元をよく見たら結晶が見えるかもしれない。どうしよう、隠蔽した分体を彼の傍に発現させて手元をよく見たりしちゃ駄目かな。さすがに皇帝宮騎士にばれたら拙いか。よし、遠見の術展開して覗き見しちゃおう! なんてもっと良く見ようと思ったのに。
「死ねぇ! 神の子などと自称する小娘がぁっ?」
直ぐそこまで来ていた小隊の隊長らしき青年が大声で叫んで切りかかってきた。来るのは分かってたけどさ、大声で存在を知らせるなんて馬鹿でしょ。
何も言わずに練り上げていた術を、兄さまの居るあたりと巫覡の後ろの皇帝宮騎士団も被るように上部から展開する。
広範囲の術だから、しっかり兄さま達の居る離れた場所からは悲鳴が聞こえるけれど、さすがに巫覡の居る所は防がれたみたい。揃って並んでいた皇帝宮騎士団が、もごもご動いて見えるので炎の小剣が降ってきて動揺したのかな。少しは効果があったようで、なにより。
ここら一帯の小剣は青年に集中させてやったから、酔ったみたいな台詞を全部言い切る前にまともに被弾していた。良く燃えてるね。
「小娘って、そういうお前はわたくしと大して年は違わないじゃないの。小娘とわたくしを見下すお前は何様なの? 」
燃えて悶える青年に向って言うが、聞いていないのか聞こえていないのか、剣を捨て無茶苦茶に手を振り回している。その炎、そんな事じゃ消えないよ。
「ああ、自分が小僧って馬鹿にされるから、他人を馬鹿にしたいのね。そうでしょう?」
黒焦げになって天馬から落下していく隊長に目を向けることなく、青い顔をして私を見る彼の部下たちにニタリと笑って聞いてみる。
「ねえ?」と手のひらに炎を生み出して彼らに見せ付けるように、小く振って見せれば怯えた様に一歩後退する。
自分たちの背後から聞こえる仲間の悲鳴が気になって仕方ないが、私から目を離せば何が飛んでくるか分からず動けないらしい。何しに来たの、あんたたち。




