数が合わないよね?
私、ペンギテース、クリュセラ、オクルス、スペイフィキィスの5人とここまで我々を移動させてきた移転術師、その術師とともに首都へ帰るための移転術師2人の計7人一行は、小兄さまとイーが居る場所から大きく距離を取った所へ無事に移転できていた。
捕虜になっていた神編術師から一人で複数人を転移させる方法を学んだ術師を、北方面の戦場まで同行させてきた甲斐があった。天馬に負担をかず、短時間で移動できたもの。
「ここまでありがとう。ここも直ぐに危険区域になるから、早い所帰ってね」
移転担当の術師にお礼を言うと、彼らは「ご無事のお帰りをお待ちします」と言って帰還していった。
戦闘員でない彼らの方が心配される側だし、戦闘している場所でなくとも怖かったはずなのに。彼らこそ無事に帰還できていますように。
そして意識を切り替えて小兄さまたちの様子を探る。
皇帝宮騎士団の一団── 1個大隊くらいと守護衛士兵団1個大隊 ──と睨み合い、まだ戦闘には至ってない様子だ。
彼らの背後には巫覡プリメトゥスを先頭に、愛し子が何人かとイーが切られたあと乗り込んできて氷の男神の愛し子たちに引きずられるようにして去って行った、考えなしの猪みたいな奴が部下を侍らせてギラギラした視線で巫覡を睨んでいる。睨む所間違ってるって、誰か指摘してやんなさいよ。
巫覡の少し後ろ── 考えなしの猪の前 ──に、長髪で冷静そうな青年と、ラクリーマやガウディムみたいな雰囲気の元気そうな少年が控えている。余裕ありげな彼らもかなりの寵愛厚い愛し子みたいだし、アレに襲われても心配は無さそうだけれど。
うーん、イーと同じ二柱の愛し子の姿は見えない。周囲に潜んでる気配は感じられないので、空に上がっているとしてもかなり離れているのは間違いないな。留守番なのかな?
それにしても、イーたち近衛騎士団の影に全然隠れられてなかったみたいね。編成もひっそりしてたんだけどなぁ、予想されちゃったのかな。
何気に、ここが一番戦力が集中しているのでは?
ーーーガウディム、近衛騎士団の方に居る敵勢力はどれくらいなの?ーーー
念話通信でガウディムに問えば、配置されている通信担当とやりとりして返答がある。
=== 皇帝宮騎士団1個大隊と、守護衛士兵団2個大隊だそうです。王宮騎士団にも確認したところ、あちらは皇帝宮騎士団2個中隊と守護衛士兵団2大隊です ===
「こちら側に彼らの半分近くの戦力を集めたみたいね。平均的に分散させると思っていたけれど、皇帝ゲマドロースは本当に巫覡と巫女が嫌いなのね。近衛騎士団の援護は見込め無さそう」
私たちに戦わせて疲弊させて、直属の部下たちに二人とも殺させる気でいるらしい。出来ると本気で思っているみたいだけれど、派手に術の打ち合いくらいしかしないから疲弊しないよ?
=== プロエリディニタス帝国側、南、南西、南東の国境に敵影は見られないとの事。プロエリディニタス帝国の国境軍が警戒しているせいか、近寄れないそうです。しかし東から東南、西から西南の中間あたり其々に守護衛士兵団の3個中隊が迫ってきており、東南方面はスクトゥーム騎士団、西南方面はパークス騎士団・アニラス騎士団が戦闘中 ===
ーーー神殿は?ーーー
=== 王宮騎士団を大きく迂回して守護衛士兵団4個中隊が四方から神殿を囲もうとしたらしいのですが、神殿騎士団が押さえています。ファブラ騎士団、クーラス騎士団が援護に向い、つい先ほど背後から強襲して壊滅させ、残るは2個中隊程。神殿が一番早く戦闘終了しそうですね ===
ーーー皇帝宮騎士団と守護衛士兵団、こちらの得た情報と数が合わないわねーーー
皇帝宮騎士団は増援として2個大隊が投入されたと聞いたけれど、それ以上の数が姿を現しているし守護衛士兵団の総数もおかしい。私たちを欺くのと、巫覡にも悟られない様にひっそりと派遣されたという事か。
「団長、嫌なことに気が付いたんっスけど」
ガウディムとの通信は皆と共有していたので、黙って聞いていたスペイフィキィスがぽつりと漏らす。心なしか顔色が悪い。
「たぶん同じことを私も気が付いたと思うけれど、聞くわ。何かしら」
「グラキエス・ランケア帝国が馬鹿正直に保有する兵力を公表してるとは思ってなかったっスけど、全力で巫女と巫覡お二人を潰すために兵力を放出して、今帝国本国には兵力が殆ど残ってないんじゃないっスか?」
と、いつもより真面目にスペイフィキィスが言えば、クリュセラとオクルスもさっと顔色が変わった。あちこち通信して情報を集めこちらに知らせていたガウディムはすでに気が付いていたようで、こちらの会話を聞いても驚くことなく黙っている。今もこちらの会話にを気にかけ、あちこち念話で情報を集めていて本当に器用だと思う。どんな情報を聞いても取り乱さずに冷静でいられるって、すごい事だと思うのに、戦闘力として弱いって落ち込むことがあるらしい。全然弱くないんだけどなぁ。
「精鋭を少数残しただけで、全兵力を我が国に向けてきたのは間違いなさそうだね」
全員の顔色が悪くなり、向こうのガウディムも沈黙している。そう心配することはないと思うのだけど、確かに心配にもなるか。
「むしろ好機だと思うよ」
「えぇ? ちらっと見ただけでも3割くらいは愛し子っス。俺たちじゃどうにもできないっスよ、あいつ等」
「そうだね、だからスペイフィキィス達は愛し子じゃない方を切って落として。愛し子は私がやるわ」
ニヤっと笑って言えば、オクルスが「いくら団長でも無理ですよ…」と心配そうにこぼす。
「大丈夫、私一人じゃないもの」
「副団長でも難しいのでは?」
クリュセラが心配そうに、小兄さまの方を見て言う。
「兄さまじゃないよ。皇帝宮騎士団と守護衛士兵団の後ろに私の味方が居るじゃない」
「まさか、巫覡とか言わないっスよね?」
先ほどとはちょっと違った焦り顔でスペイフィキィスが問いかけてくる。
「うん、そのまさか。お互いの国の代表とか国民の願いで、私たち全力で戦わなくちゃいけないでしょ。でも私たち神の一番の愛し子だよ、術なんてお互い当たらないわよ。それなら周囲に全力で撃って、敵を落とそうと思って」
「団長がそう思っても、巫覡はそう思わなかったり行動しなかったりしたらどうするんっスか!?」
「ああ、協力してくれるそうよ。確かめたから大丈夫」
あっさり言えば、全員が黙った。
「…… 確かめたって、誰に?」
衝撃から一番最初に持ち直したのはスペイフィキィスで、唸るように声を絞り出してる。
「当の巫覡に、大兄さまが」
「ドゥーヌルス様が?」
「うん、大兄さまにこっそり巫覡に接触してもらって氷の男神にも確認いただいたの。巫女と巫覡の術の打ち合いで外した攻撃で、御身の愛し子も撃ち落とすのは可能か。そして、それを御身はお許しくださるか、とね」
そう、母なる女神には王国を攻める帝国の愛し子を殺したとしても女神の寵愛が失せないこと、殺意・敵意を持って向かってくる者の神の寵愛は薄くなるか失せてしまう事を確認した。
けれど、巫覡は彼らと同じ国に所属しており、寵愛を与える神さえ同じ者も居る。敵意を持って王国を攻める氷の男神の愛し子は寵愛が失せるし、そういった愛し子を巫覡が殺してしまったとしても問題ないだろうけれど、それ以外の神の愛し子を巫覡が切ったり殺してしまったら彼の寵愛がどうなるかは誰にも分からない。
巫覡は提案を聞いてすぐに、あっさり協力することを承諾し父なる神に問うてくれたらしい。
答えは『今回の侵略戦闘に限り問題無し』という事だった。
巫覡が氷の男神と対話しているのを見ていた大兄さまが感じたのは、氷の男神は皇帝ゲマドロースを嫌っていて、自らの愛し子であっても妻の治める国を攻める者に寵愛は授けていたくないようだ、という事だった。
巫覡とやりあうのは嫌だが、皇帝ゲマドロースの力を削げるのは喜ばしいことだと思う事にした。
というような事を説明すれば、スペイフィキィスも「あー…」と言って黙った。




