鼓舞
首都内と周辺に居る神編術師を優先して潰すと同時に国境付近に展開する神編術師へも攻撃を向けるべく、愛し子だとしても損傷を与えられるように高密度の炎で術を練り上げる。
硬く、細く、鋭く。例え氷の壁が阻もうとも、それを貫く程の熱さと威力を込めて。
出来るだけ彼らを排除しなければ、今回の襲撃を退けられても再度国内へ侵入されてしまう。首都周辺への移転も、配置した迎撃軍の隙間を狙っていた。こちらを偵察するために国内に潜んでいるグラキエス・ランケア帝国の斥候か内通者が報告しているにしても、こちらの情報が漏れるのが早くて正確だ。
通信特化の神編術師がこちらの動きを観測し、情報共有しているのだろう。もちろん妨害はしているのだが、間に合っていない。彼らの排除は侵入している帝国軍を退けてから全力で取り組むとして、今すべきことに集中しよう。
分体の前方に広がる一隊に殺気が濃くなってゆく。何かしら仕掛けてきそうな気配もするし、術の発動は同時になりそうだ、と気配を広げたせいでぼんやりとする思考で判断する。
ちかちかと太陽の光を反射する小さな氷の刀の一軍が、扇を広げるように私に迫るのと、捻じれた針のような濃密な炎が国中で放たれるのは同時だった。
氷の小刀の扇を貫き総大将プリメトゥスの側に居る術者に迫る炎の針は、彼が片手を上げて瞬時に創り上げた氷の壁に突き刺さった。残った迫り来る氷は分体に到達する前に熱で溶けて水となり、地上へ向けて落下していく。
捻じれた炎の針が回転してじわじわと氷の壁を進みはするが、溶けたそばから氷を強化されてどんどん進みが遅くなってゆく。これ以上ここの術師に固執しても成果は得られないと判断して、分体を小さな球に分解し、今度はこちらから総大将プリメトゥスへ向けて放つ。
国中に行き渡らせた術力の端で視えたのは、先ほどの私と同じように冷気で掻き消える炎の名残だけで、遠くに見える青年が腕を下ろしている動作がかろうじて分かるくらいだった。
やはり、愛し子相手だと気合を入れて練り上げた炎でも傷つけるのは難しい。
さて、どうしたものかなぁ。
分体に集中していた意識の半ばを本体に戻し首都内の様子を確認すれば、帝国の神編術師が天馬から落馬し落下したり盾になった兵士ごと身体の中心を貫かれて蹲るのが視える。
狙った神編術師の7割程は落とせたようで、こっそり胸を撫でおろした。これで退却してくれると万々歳なのだけれど、そんなに甘くはないよねぇ、とため息が出る。
===報告! 首都内に侵入した帝国軍すべてが、学園を目指して移動を始めました!===
我が軍の心話術師で通信担当が各地からの状況を確認した情報を出撃している全員へと報告してくるのを、なんとも言えない気分で聞いた。けれど、私は迎撃軍の代表だもの、笑え。笑って皆を鼓舞しろ。
蒼炎に乗り、学園上空に到着した近衛騎士団一隊の先頭に居るアルドール殿下の横へと並ぶ。
映像をも通信できる特殊能力を持っている心話術師であり通信担当でもあるガウディムに頷き、声を張り上げる為に、息を限界まで吸い込んで声を出す。
「グラテアンの騎士達よ!」
側に居るガウディムとクリュセラ、近場から呼び寄せていて学園内に展開していたグラテアンの予備小隊員たち、学園外周で待機する我が小隊員たちが一斉に「おおぉ!」と応じる。
通信で私の声を聴いていた隊員たちも応じているのが、脳裏に聞こえた。
「フランマテルム王国を守る騎士たちよ!」
横のアルドール殿下と共に居る近衛騎士団の騎士たちが、同じように「応!」と答える。グラテアンの団員を数人ずつ迎撃する一団に配置しており、そこからも同じように通信で返答があるのが聞こえた。
「首都に侵入した敵は、王宮にも近いこの学園に向かっている。奴らは何だ?」
「我が国を侵略する敵!」
あちこちのグラテアンの騎士たちから声があがると、近衛騎士団の騎士たちも「敵…」と呟く。
「そう、敵だ! 我が国に侵入し、我が軍と剣を交え、我らが母なる女神へ、罪なき子供たちへ剣を向けようとしている!」
教師に逆らい粋がって屋上に残っていた生徒たちの顔色が無くなっていく。今更ながら、自分たちも害されるということに気がついたのだろう。
他国を侵略する者が子供まで手にかけないと高を括っていたのかもしれない。もしくは、騎士科の生徒のようだから、自分もいち騎士のように戦えると思っていたのか。どちらにしろ、現実が見えていない馬鹿には違いない。
「謂れ無き敵意には、暴力でもって返すのだ!」
さあ、笑え私。冷酷巫女に相応しい笑みを浮かべろ。
「さあ、我らが騎士、我らが女神の子供たちよ」
両手を広げて心から笑う姿は、映像つきでクリュセラに能力を増幅されたガウディムによって国全体へと伝わっているはず。国の人々にも、騎士たちがなぜ戦うのか知ってもらわなければいけないと思うから。
「敵を一人も生かして帰してはならない」
「応!」の返事と共に騎士たちの顔には決意の意志が、屋上の生徒たちには恐怖の意志が見える。
慌てて屋上へと出てきたソノルース殿下が、荒い呼吸のまま残った生徒たちを屋内へと押し込み、こちらを心配そうに見上げている。
アルドール殿下がそっと手を上げて安心させるように微笑すれば、ぐっと口を引きしめ無表情になるように努めていた。ああ、頑張って王族をしようとしている。
「我らが騎士たちよ、敵の全てを蹂躙し、屠り尽くせ!」
返答するように騎士たちが雄叫びを上げると、残った神編術師が移転させた侵略軍が学園へと押し寄せてきた。気配が多すぎて確実な人数は分からないけれど、一個大隊くらいか。
神編術師だけではこれだけ送り込めるはずもないのだから、兵士個人で移転できる能力持ちが居るに違いない。移転せずに首都内各地に残る帝国軍は6方面、各々こちらと同じくらいの規模みたい。
ここ学園以外は数で勝っているから、心配はない。
「さて、わが巫女姫。我々はどうします?」
アルドール殿下が緊張感のかけらもなく、にこやかに問いかけてきた。
言うまでもなく。
「もちろん、敵を蹂躙しに参りましょう。我が近衛騎士殿」
こちらもにこやかに笑い、答えた。




