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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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冬のさかり

 一族中の反対にも関わらず王命を盾に私を神殿へと連れて行かせたデフォラピスは、念願の父に近づくためヴァニトゥーナを取り込もうと躍起になっていた。

 グラテアン家に入ってしまえば父を籠絡するのに全力を出せると思っていたらしいが、肝心の父は「私との結婚という形態さえとれれば本当の夫婦になれなくてもいいと、君が言ったんだ。今後も君と関わる気はない」と宣言して母の部屋に篭ってしまい、誰とも交流しようとしなかった。食事も部屋に運ばせて、家中の誰にも顔を見せない徹底ぶりだった。


 次に、父によく似た容姿と性格の大兄さまに近づいて、取り入ろうとしたらしい。「母と思って頼って」と猫撫で声で囁かれ、悪寒が止まらず半泣きで震える大兄さまを見た小兄さまが、兄をグラテアンの邸宅から逃がして欲しいと屋敷を訪れた伯父に頼んだ。

 グラテアンの伯父は女神のことを学ぶため、親類を頼りプロエリディニタス帝国へ留学するという名目で、兄をデフォラピスと王家から逃がす事に成功する。


 君はどうするのかと尋ねられた小兄さまは、私と同様に母によく似た容姿と性格をしていた。敵意をぶつけられる位で兄上に比べたらむしろ逃げやすい、と笑顔で宣言しデフォラピスの目を盗み、ずっと剣の指導で交流のあったアニラス伯爵を頼って、修行と称してアニラス騎士団に見習いとして入団してしまった。


 ああいう大胆で行動力のある所がティティに良く似ているよね、と後日グラテアン家へ帰れた私にパピィクラルスの伯父が苦笑していた。



 兄二人に逃げられた母は、残ったヴァニトゥーナを彼女の意のままにするべく以前と同じように言葉で不安をあおり、自分に依存させようとしていた。朝に夕に口調と言葉を変えてヴァニを脅すも、正式にグラテアン当主の役目を代行する伯父たちが祈祷所で愛し子の心得を口伝することを口実に、二人の距離をとらせていたため成果は芳しくなかった。


 こっそり様子を見ていた小兄さまの目には、憎い女の子供ではあるが容姿やふとした仕草が恋い焦がれた男にそっくりなヴァニを、彼女の基準で可愛がっているように映った。しかし、特殊なグラテアンでは普通の貴族の考えはむしろ害になる。しかも彼女は母なる女神を敬ってもいなければ、彼女の叔父にすら少しはある女神の寵愛が全く無いのだ。

 そんな所に幼子ひとり残して居なくなることに不安が募り、小兄さまはヴァニを連れていこうとした。

 ヴァニは一緒に行こうと手を握った小兄さまに「あったかい女のひとに、ここにいなさいって言われたから、ここにいる。だから、おにさまはおねさまをつれてかえってきてね」と、ふにゃりと笑って言って見送ったのだった。

 あの時ほど自分に力がないことが悲しかったことは無い、と今でも小兄さまは言う。ヴァニが母なる女神からお声をかけられたのだと確信した兄は、妹たちを取り戻すことを約束してその足でグラテアン邸を出て行った。



───────────



 デフォラピスにとっての邪魔者が消えたはずのグラテアン家は、彼女に居心地の良いものへと変わると信じていた。やっと愛する彼と結婚し、ともに彼の子供を育てるのだと希望に燃えて来たというのに。

 夫であるはずの愛しい男は先妻の部屋に閉じ籠り、結婚まえ以上に顔を見ることすら叶わない。生活する部屋だって、夫婦共同の寝室も夫人用の部屋も「ティティとの思い出があるから君は入らないでくれ」と仰って使わせてくださらないから、未だに客室使用しているのだ。

 奥様と呼ばれるのを密かに楽しみにしていたのに、自分を奥様と呼ぶのは実家から連れてきた者ばかり。それも、ずっとグラテアン家に居る使用人たちが全く口にしないため、次第に誰も口にしなくなった。


 二人の息子を味方につけるのは手こずるだろうが、心を込めて親しみと愛情を見せれば、わたくしが愛する彼と共に成長を見守り手助けできる母だと理解すると思っていた。

 あの憎らしい彼女にそっくりな娘も叔父の元で調教されれば、わたくしがいかに彼に相応しくあろうと努力したのかを理解できるだろう。

 彼によく似た可愛らしい娘は、これから目一杯の愛情を注ぐつもりだった。


 それが、息子二人は屋敷を出てゆき、叔父からは神殿に居る娘の教育も捗っていないとの報告がきている。可愛らしい娘は、グラテアンの親族とやらが女神への祈りや約束事を教えなければいけない、と引き剥がしていってしまう。

 更にはグラテアンの決まりや慣習があるのだから、余計なことを教えないでくれと苦情まで寄越される始末。この国で生きる貴族子女に必要な知識は早く身に付けて損はないのに、なぜ彼らは理解しないのか。


 フラメンギリス様が何も仰らず彼女の部屋に籠りきりという事は、わたくしが子供たちの教育を任されたのと同じのはず。そう思って、子供たちや彼の代理をしている邪魔なフラメンギリス様の兄弟たちを説得してもらおうと、グラテアン公爵婦人の部屋の扉を軽く叩き呼び掛ける。ああ、お名前を口にできるって何て素敵なことかしら。

 いちどで返事をくださることはまずないので、間を開けては扉を叩く。今日は5回でお返事くださったわ! ご機嫌がよろしいようで、わたくしも嬉しくなる。

 息子二人を呼び戻すことと、可愛らしい娘と邪魔なご兄弟への説得を手短にお願いするも、何時ものように返事はない。仕方なくまた何回か繰り返せば、扉越しにも聞こえるため息が聞こえる。


「グラテアンにはグラテアンの決まりがある。君は何も知らないのだから、何もせず居ればいい」


「で、ですがフラメンギリス様。あの子たちは学園に通うことになるのですから、特殊なグラテアンの事情を教えるより先に一般の貴族の作法を覚えた方が効率的では…」


 先に一般常識を覚えた方が絶対に後々楽になると思い、つい自分の意見を言ってしまったのがいけなかったのか、頑丈な扉に硬いものが当たる大きな音と扉に触れた手に振動が伝わる。


「余計なことはするなと言ったはずだ。関わる気もないとも。さっさと立ち去ってくれ」


 大きくはないけれどハッキリ聞こえる声で仰った後は、どれだけ話しかけても応えてくださらなかった。厳しくて冷たくつれないフラメンギリス様…

 入園してから習いはするけれど、学園に入るまでに覚えるのが不文律だった礼儀でさえ授業で初めて知ったのだと平気な顔をして笑っていられた、おおらかでのんびりしていた彼女に影響されてしまったのね。子供たちの教育は早い方がいいのに… やはり、今晩からでも可愛らしい娘には貴族令嬢の礼儀を教えてあげるべきだわ。

 そうよ、厨房と相談して食事から学べるようにするのがいいわね。


 フラメンギリス様からの冷たい言葉は忘れて、前向きに頑張りましょう。可愛らしい娘が貴族令嬢らしくなったら、きっと喜んでくださるわ!

 足取り軽く立ち去る彼女の後ろ姿を、側にいた使用人が主人と同じく冷たい目で見ていたことを知るのは、女神のみであった。

女神

優秀? あの頭には脳みそではなくて、何か得体の知れない物体でも詰まっているのかしら。

おかしな方向に前向きなのはどういう思考回路をしているのか分からないわね。

理解したくもないから、全く困りはしないけれど…

さて、大きな愛し子からの祈りも受けたことだし、小さな愛し子への守護を強めてきましょうか。

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