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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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ご褒美の前に

 訓練場を大きく破壊はしなかったけれど、焦げ跡が抉れている床や壁を彩っている。

 グラテアン側に余裕はあるが、近衛騎士団レクスプラエトリアニ側の面々は、アルドール殿下を除いて疲労困憊状態のようだった。

 擦り傷や軽い火傷をした者は居るが重傷者は居ないので、修理に適正を持つ術力保持者を中心に、訓練場の修繕をして初回の合同訓練を終了することになった。

 しかし、見学されていた宰相閣下方との話し合いというクソ参謀排除のお願いのため、小兄さま以外の皆を後片付けに残して見学部屋へと向かうことにした。みんな手伝えなくてごめんね、と謝るとラクリーマがからりと笑い答えた。


「気にしないで、団長。でも、今日の訓練はこれで終わりにしてもらえれば嬉しいなぁ」


「あら、訓練の代わりにするなら、もっと絞り出すように術を放たなくちゃダメよね。ほら、ここにも抉れてる所があるわよ。さあ、さあさあパパッと直してちょうだい、ラクリーマ」


「ちょクリュセラ、そういう事じゃないって。あああ、もうやればいんでしょ、やれば」


 上手いことサボろうとしたラクリーマを上手に操縦したクリュセラが、視線でさっさと行けと言ってくれたので、有難くいかせてもらおう。こんどお菓子でも差し入れしよ。

 かしまし娘たちに後押しされたし、王太子殿下のお洒落姿とアルドール殿下のキメ姿という、ご褒美の一部を前払いしてもらっちゃったからなぁ。頑張らないとね。


「カリタの炎の威力を舐めたりせず、ちゃんと訓練場の強化はしておいたのだがな。強化が足りなかったようだな」


 見学部屋への道すがら、殿下溜息を吐く。


「愛し子に当てるつもりで、かなり強化した炎を惜しみなく放出しましたもんね」


「まあ、設備を壊してもいいと言ったのはこちらだ。訓練場を守り切ったあとで、カリタに壊せなかったな、と笑う予定だったんだ」


 失敗だったが次は負けないからな、っていたずら少年のように微笑まないで、殿下。あれだけ炎を叩き落としていたのに、衣服のどこにも解れひとつない姿で笑顔を向けられると、眩しいんですって。最近、殿下への二言目に眩しいしか言ってない気がしてきた。殿下も意識して顔で魅せにきてるんだもの、自覚ある美形はやっかいだわ。


 殿下の気配りに満ちた楽しい会話のおかげで、すぐに部屋に到着した気がする。

 アルドール殿下を先頭に部屋へ入ると、楽しそうに微笑む宰相閣下と、目をキラッキラさせて大興奮の軍務大臣こと、趣味馬鹿全開のゲマネウム侯爵と、イーよりもあからさまに不機嫌なクソ参謀。

 なにがそんなに気に入らないんだろ、このおっさん。


「あのな、ティー。リュスタルス・ウェルテス伯爵は兄上と同じ年齢で、同級だったんだぞ」


 呆れたような小兄さまが、こっそり教えてくれた。

 なんで兄さまに考えてる事が分かったのか驚いたけど、それ以上にクソ参謀が、まさかの大兄さまと同じ年だったことに驚きだわ。老け顔とかの問題じゃないくらい、おっさんが板についてる。

 大兄さまと同じってことは、私の7歳上ってことよね。え、待って25歳なの!? 小兄さまと2歳差しかないのに見た目は10歳以上あるって言われても納得しちゃうよ。

 ちなみにイーは今年20歳になったばかり。イーは年齢のわりに言動が幼い所があって、私と同じ年に見られがちなんだけれど、クソ参謀はねぇ……

 見た目通りの年齢だったら、おっさん頭おかしいわ、で済むのに。このおっさん、すごく言葉に困るなぁ。


 うーん。大兄さまと同じ年で、爵位だって継いでるのに敵意むき出しってことは、大兄さまに対抗してるのかな。最近、大兄さまが宰相補佐の一員に抜擢されて先を越されたって怒ってるのに、当の大兄さまはクソ参謀を全く眼中に無しとかの、同期あるあるなやつ。

 たぶんクソ参謀は身分とか、職務の地位にかなりこだわる人なんだよね。


 大兄さま、そういうのに全く拘らないから相容れないヤツだ、これ。

 大兄さまはねぇ、女神のいちばんになると家を継がなきゃいけないし地位が上がるといろいろ面倒だからからって、できれば女神からの寵愛は二番目以降がいいし、仕事だって宮殿勤めのヒラ文官がいいって公言する人だもの。

 グラテアン家のあれこれも、大兄さまでなければダメなの以外は、弟と妹に全振りしてるし。


 あんまりおっさん顔を見たくないから、奴から視線を外して勧められたお茶の用意されている応接テーブルに着く。お、このソファ座り心地いい。

 いい汗かいたし、とちょうどいい温度になったお茶をしおらしく啜る。このお茶も美味しい、さすが宰相閣下に用意されるお茶。


「殿下、グラテアン騎士団長、お疲れ様でした。素晴らしい訓練を拝見させて頂き、柄にもなく少し興奮しておりますよ」


 ちっとも興奮が見えない、穏やかな口調と笑顔で宰相閣下がねぎらってくださった。

 隣に座るゲマネウム侯爵は、早く自分の番が来ないかなーって顔に出てますよ。目をキラキラ輝かせてちょっぴり発光もしてそうな方の隣で、今日のどんより天気と同じような気配をまとった、隣の光るおじ様よりおっさんぽいクソ参謀。

 絵面の明暗がすごい。これはこれで面白いんだけど、妙な眩暈がしそうで、ずっと見ていたくはないかな。


巫女リーシェン殿に圧されていた所を見られたのは悔しいところだが、宰相殿に満足いただけたのは幸いだな」


 優雅にお茶を飲みつつ、さらっと私を褒めながら、この妙な空間を無視して会話を進めるお二人。私ならありがとうございます、で会話終了だよ。

 あ、殿下が自然にゲマネウム侯爵に話を振ってる。そして侯爵も目は輝いてるけれど、興奮することなく私と殿下を褒めちぎっている。

 アルドール殿下って、本当にオウジサマなんだと感心する。ああいう貴族的なことも卒なくこなすのを見ると、天馬(カエルクス)を追いかけて捕獲する姿が本質でも、ちゃんと王子という役目も果たしているってすごい才能だって思う。アルドール殿下が、兄こそが王に相応しいと断言する王太子殿下もすごい方なんだね。あれこれ考えるの面倒になってきたから、二人とも凄いねでいいや。

 しっかり聞いてれば、今後の参考になるかと思ったけど無理だわ。私にはこういった小洒落た会話は出来ないって事だけ理解した。


 ああいう会話できる兄さま?、いや出来ないわ、と小兄さまと目で会話していたら「…ですよね? 巫女姫!」と、ゲマネウム侯爵からの声がかかった。

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