対特殊能力戦闘訓練 対その他大勢
予想通りさくっと終わってしまったので、もう私込みの小隊と参加している全員――中隊と2小隊――で試合することにした。
この先は私の特殊能力も使うので危険なこと、参加人数が多くいくら広めの訓練場とはいえ戦闘で人が散ればばぎっちぎちになるので、見学人は訓練場を見学できる隣接した二階部屋へ移ってもらう。
ちっ、乱戦に紛れて論外馬鹿に近衛騎士をぶん投げるつもりだったのに、見学窓を突き破ると騎士に怪我をさせてしまうじゃないの。うーん、論外馬鹿はまた違う手段で報復するか。
アルドール殿下と小兄さまは、適当に移動して避けるから訓練場に居ても大丈夫だって。
先ほどと同じように訓練場の中央で向き合うのだけど、人数の差が大きくて周辺の温度や空気の濃度まで違いそうな差がある。向こう、暑苦しそう。
ついさっき即負けた小隊長の目が、変にギラギラ輝いてて気持ち悪い。近寄るのやめとこう。
うちの小隊の方に誘導できるといいんだけど。
「団長、涼しい顔して何か企んでるでしょ」
我が小隊に二人居る女性隊員のうちの一人、ラクリーマがじっとりと横目で思考を読んだようにつっこんでくる。
「やだなぁ、企んでなんてないわ~」
「今、具体的に企んでないってだけでしょう。あのぼんぼん小隊長を私たち隊員の誰かに押し付けようかなー、って思いついたとこなんですよね」
もう一人の女性隊員クリュセラが、にこにこしながら具体的に追い打ちをかけてくる。
「そうそう、今思いついたの。だってあの視線、かなり気持ち悪いじゃない? 私に突撃する気で睨んでるんでしょ。あまり見栄えも良くない顔で、あの表情と目付きは気色悪いんだもの。接触なんて絶対イヤだし、近寄らないで欲しいわ」
「え。俺に簡単に切られるくらいの奴だったのに、団長に挑めると思ってるんですかあの人。あれ?あの人わざと負けたんですか先輩」
小隊では一番の若手オクルスが、不思議そうにラクリーマに質問している。
「あいつ本気でかかってきてたよ。あれが実力だと思うな」
「やっぱり、そうですよね。近衛騎士団の皆さんって、あれが小隊長でいいんですかね?」
実戦に出たらすぐ死にそう、と変に関心してるのを、他の隊員たちが弟を見るように微笑ましく見守っている。自分は新人のスペイフィキィスよりも弱いからと、サボりで訓練を追加させられてる彼と一緒に自主的に訓練をするオルクスは、グラテアンの騎士たちの弟のように可愛がられている。
小兄さまと同じようにがっちりとした体格なのに、大きな目でくるくると表情の変わる可愛らしい雰囲気のおかげで、小心者の熊のようにも見える。団員みんなの愛玩動物のような扱いというか、動く大きなぬいぐるみ扱いかな。クリュセラに言わせると、本人はそれに気が付いてないのが、いっそう可愛いのだそうな。
最年長のペンギテースなんて、まるでお父さんのようだもの。彼、まだ二十九歳になったばかりで独身なのに。
「予定通りに外側の隊員を貴方たちが剥がしたら、塗料付の殺傷力の低い炎をぶち込むわ。当たらない様に気を付けてね。居残った者は、立て直す前に貴方たちで切り伏せてちょうだい」
異口同音に「はーい!」と子供のような返事をして敵に顔を向けた隊員たちに、先ほどの和やかな気配はなくなっている。さて、殿下との約束と、あいつ等へ実力を見せつけるためにも、軽く蹂躙してこようか。
開始の合図と同時に両軍とも動くが、速度は同じではなかった。
逸る感情を隠しもせずに突進する者、やる気のなさそうな掛け声で出来るだけ前に出ない様に演技する者、真面目に行動しようとするも自分勝手に動き回る馬鹿たちに邪魔され困惑する者と、行動はバラっバラ。
おそらく、実力のある者は自由に動ける位置に配置されていない。これなら、私が出る幕もないけれど、それじゃあ今までと同じで舐められたままだ。
いい勝負をしたと思う間もなく終わらせなくちゃ。
様子見する時間すらなく、実力があると勘違いしている貴族らしき騎士たちが脱落していっている。それを好機と見た者が、複数人でこちらの騎士たちを囲むように進みだした。
ちゃんと連携できている所を見ると、小隊長級の実力者たちが陰で相談していたみたい。感心、感心。
「打つよ!」
何をとは言わずに、一小隊を覆うくらいの塗料を核とした炎球を中央にひとつ、それを中心にして十字方向に中央より一回り大きい四つの炎球を生み出す。
すぐに拡散するようにしていたので、ほぼ全員が炎にまみれる。
脱落判定の出た者は速やかに場外へ退場するか、その場で伏せなけれなならない。しかし、ばらばらと数人が居残っている。個人結界を張れる者や、術具を持っている者などが炎を耐えたようだった。
そして、動揺してその場から動けなかったり、いきなり脱落して納得いかない風情でのろのろ伏せている者に紛れている。
そんな彼らを、炙り出さなくちゃね。
「もういちど打つ。その場で待機!」
残っている騎士たちを切りに行こうとしていた部下たちが、すぐさま止まる。全員、巻き込まれるのは御免だ、と顔に書いてあるわよ。感がいい子は大好きよ。
塗料の付いていない者を軽く炙るだけの衣服などには燃え移らない、熱に特化しただけの条件を付けた炎を、今度は近衛騎士の居る場所全体を覆うように生み出す。
瞬間的に眩しく大規模に炎が燃え上がったあとは、一部の人が炎に包まれている姿が現れた。塗料がどこかに付着して、脱落判定を受けた者たちはなにも起こっていない。
立って炎の見える者たちは、驚いて振り払うように動いて炎を消していて、黙って失格者のふりして寝転んで耐えている者は、そのまま炎にまみれている。
火傷や怪我を負わせるような危険性のある術ではなく、防御術や防具の発動条件を逃れられるように組んだ術なので、先ほどのような防御効果は発揮されない。
部下たちがそれを見逃すはずもなく、こちらと切り結ぶ暇を与えずに切り伏せていく。失格者のふりで伏せてるやつは、起きることもできずに本当に失格者になっていた。
「戦闘終了だ、整列せよ」
茫然とする近衛騎士にアルドール殿下からの声がかかり、皆のろのろと整列を始める。
我が隊の隊員たちは、殿下の声が終わる頃には私の後ろで綺麗に並んでいた。ちらっとこちらを見た殿下が、なにか呟いて溜息をついている。いっとう酷いのを集めたとはいえ、あまりにも質が悪い自軍の騎士と比べて落胆してるんだろう。
「グラテアン騎士団の圧勝だな。お前たちは隊の編成から見直して、鍛え直しだ。あまりにも酷い」
アルドール殿下の厳しい声に納得し何かを決意しているのは、一撃目を耐えていた騎士たちのように見える。そうでない奴らは、なけなしの誇りを傷つけられたようで、怒りで震えてるのも居る。
「納得できません! 術を使うなど反則ではありませんか」
あ、キモチワルイやつが変な方向で頑張ってるわ。背後でイーとラクリーマが吹き出しているんだけど、ちょっとは遠慮しなよ。
「巫女殿の能力を見せるための演習だ。お前は侵攻してくるグラキエスの巫覡や帝国軍にも、同じように反則だと叫ぶつもりか?」
「っ……術力は素晴らしいものだと分かりました。では、術以外の戦闘力はどうなのです」
お、食い下がってる。どうにかして私と対戦したいのかもしれないけど、私は殿下以外の近衛騎士と剣や一対一で対戦するつもりはないんだ。とても馬鹿にしてるやつを鍛えてやる気は、塵ひとつほどもおきない。
今回の訓練に不参加の近衛騎士たちは、殿下がまともだと判断しているようなので考えてもいいかな。
「ふむ。では貴様たちが惨敗されられた、巫女殿の小隊と巫女殿に対戦していただこう。これで巫女殿が勝利したなら、貴様らより巫女殿がずっとお強いと理解できるだろう」
な?ってこちらを見て笑う殿下。機嫌悪くても笑顔は眩しいですね。
そして、私のことをよく理解してらっしゃる。
「よろしいですよ。では、いつもの訓練のように対戦するので皆さまも壁際に寄ってくださいね。ばんばん炎が飛んでいきますよ」
某巫女
お前のところにもな、顔面気色悪い馬鹿騎士。




