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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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対特殊能力戦闘訓練 開始

 近衛騎士団レクスプラエトリアニ天馬騎士カエルクスエクエ5人と、獣種混合の騎獣騎士(ベスティエクエ)35人を一小隊としている。対する私設騎士団(プライベエクストゥルマ)は、どこの団も獣種混合の騎獣騎士15~30人くらでの小隊編成になっている。


 グラテアンといえば、私設騎士団最大規模と言ってもいいのだけれど、中心になる騎士たちは天馬騎士であるため、騎馬隊と騎獣騎士隊がきっちり分かれている。騎馬隊は約10名で小隊、2小隊で中隊、3中隊で大隊。他に予備隊として2個中隊が控えている。予備隊の中には専属の天馬を持たない騎士で、普段は騎獣騎士をしている。控えの天馬も主を決めていないので、彼らを乗せてはくれるけどあまり言う事を聞いてくれないのが今のところの問題かな。

 それ故に我が団は、そりゃもう経費がかかるったらない。特に天馬がねぇ。


 もともと女神の為の騎士団だったのを、グラテアン家に管理を任せるついでに維持費も負担しろって押し付けられたのが、うちの騎士団の始まりっていうね。せちがらい理由なんだもの、国もあんまり大声で起源を言えないよね。その為、国がグラテアン騎士団の運営費の一部を負担してるから、会議でクソ参謀が元を取らせろと言う一因になってたんだろうと思う。


 普段の騎士団同士での合同訓練では互角の結果が出ているので、近衛騎士はグラテアンの騎士―――特に副団長である小兄さまとイーには、舐めた態度を取ったことがない。

 ないけれど、今日の小隊の相手はお馬鹿さんを止めなかった奴しか居ないようなので、手加減無用で叩きのめせと指示した。普段の合同訓練では歩兵は連れて来ないので、今回の訓練参加の小隊も、もちろん騎馬隊。今回も騎士の数の差が大きいけど、質の差も大きいから問題ないね。

 素敵なことを囀ずった奴は私が直々にへし折るからね、残しときなさいって笑ったら、方々から「終わった」という声聞こえた。まだ始めてないじゃない?




 訓練ではいろいろな物が飛び交うので、見学の三人は護衛に結界師を傍に置いて壁際に控えてもらった。アルドール殿下と私は、わりと対戦する小隊の近くで、お互いに指示は出さずに好きに戦ってちょうだい、という姿勢で並んで見学。


 模擬剣に塗料を付けて、急所に塗料が付いたら負傷扱いで問答無用で脱落。それ以外で、剣が破損しても五体満足であれば戦闘続行可能とし、空手でも相手を気絶させるか降参させれば勝ちとした。術力の高い者は、身体強化して拳で盾を破壊したり剣を粉砕できたりするからね。


 開始の合図と同時に、両軍とも相手へ突撃する。

 近衛側は数の力でこちらを包囲しようと大きく展開するも、速度が足りずに包囲網の更に外に散ってしまったグラテアンの騎士たちに、すごい勢いで落とされていっている。立て直して包囲し直そうにも、どんどん人数が少なくなっていて、むしろ囲まれつつある状況に小隊長が困惑してる。あわあわしてるだけじゃん、もうちょっと抵抗するとか頑張れ。

 小隊長が呆けている間に切り伏せられて脱落した後、中堅っぽい騎士が固まって防御と攻撃に分かれて動くようにまとめている。脱落者が目に見えて減っていて、今まではなんだったんだろうかと思う。

 貴族の子弟が無理に小隊長に就いて上手く采配できないうえに、騎士たちが従うのに消極的だったのか。あの人が本当の小隊長なんじゃないのかな。


「小隊長があれでは、ちょっとまずいのでは?」


「まずいな。作戦はよくても、実行させる能力がないのが致命的だ」


「あれ、いま指示出してる彼が考えてた作戦でしょう。きちんと指揮もできてなかったみたいだし、大丈夫なんですか?」


「いや、大丈夫じゃないな。国王陛下がいろいろ口を出してくるせいで、本来の近衛騎士団の編成ができなくなっていてな。学園の騎士科を優秀で卒業したと思い込んでいる、貴族のバカ息子どもをこちらに押し付けてくるんだ」


 うわ、余計な事しかしないな国王。それで本人もその親も、平団員なんか自分の役には不足してるとかなんとか無理言ってるんだな。


「あー、大変ですね?」


 ちらっと殿下を見上げたら、眉間にすごい皺が寄っている。本当に大変なんだ。はぁーっ、と盛大にため息を吐いたアルドール殿下が、しみじみと「大変なんだ」と吐き捨てるように言った。


「だが、それも今日までだ。やっかいな貴族の馬鹿息子どもを、ここに集めたからな」


 うん? 集めたとは?


「あいつら以外は、他団ともちゃんと渡り合えるんだ。今日ここであいつらに実力を知らしめて、全員黙らせる。いい加減、本来の『近衛騎士団』に戻さないとカリタにも申し訳ないからな」


 真剣な眼差しで私を見て、殿下が断言する。そう思ってくれているだけで嬉しいものなんだなー、と笑顔になった。


「という事で、怪我させないように思いっきり全員ぶっ飛ばしてきてくれ! 期待してるぞ」


 さわやかに他力本願なこと言わないで、殿下。自分でへし折ってしまえば簡単じゃないの、と心の底から思う。


「いや。この機会にカリタが叩きのめした方が、あいつら大人しくなるし舐めたこと言わなくなるだろ。私はいつでもへし折れるし」


 心の声のつもりが口にでていたようで、さっくり殿下に返されてしまった。確かにそうなんだけど、納得いかなーい。


「では、ついでに殿下と一緒にへし折っておきましょうか」


「うん?」


「私対集団戦のあとで、殿下と私でなんでも有りの模擬戦闘しましょう。殿下の実力を示すことも出来て、丁度いいじゃないですか」


 またもや眉間に皺が寄り声なき「うげぇ」という悲鳴が聞こえてきた。すごく下品な表情なのに、整った顔の人がこういう顔をしても整ったままなんだな、と変なところで感動するひとときだった。


 「わー、変顔だけど美形だぁ」と殿下を見つめる視界の端で、最後まで残っていた副隊長らしき近衛騎士が致命傷の判定を受けていた。

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