巫女サマの理解者
「赤い炎持つ御君よりのご挨拶、ありがとうございます。とてもお元気そうで安心しましたわ、カリドゥース陛下。これまで通り、高貴なる炎の女神によくお仕えなさいませ」
「はっ、御君に正しく仕えられた事に安心しました。これからも我が身を賭して、女神のお座すこの国にお仕え致します」
「母なる君は王族の方々が正しいフランマテルムという国のあり方を思い出された事を、とてもお喜びです」
「嬉しい事です」
ほっとした様に柔らかく笑う国王を見て、巫女にも笑みが浮かぶ。
「では、母なる女神と私の為にとても麗しく装ってくださったカリドゥース様を、もっと喜ばせて差し上げなくてはいけませんわね」
「私を喜ばす? 巫女姫、それは……」
「カリドゥース様とアルドール殿下、それにソノルース殿下は母なる女神の愛し子にお成りでしてよ」
巫女が悪戯っ子の様な笑みを浮かべて言うと、ひっそりと壁際に寄っていた臣下たちからのどよめきが沸き起こった。
フランマテルム国王は驚きのまま顔が固まっているし、痩身のおっさんは目が光っている。
そして、痩身のおっさんが言った。
「おめでとうございます、陛下」
「大変に喜ばしい事ですね、陛下。殿下方もおめでとうございます」
痩身のおっさんの隣の瞳がキラキラのおっさんは、さらに瞳を輝かせてにこにこと笑って、少し離れて立つ王弟とその彼の隣に立つ青年に言った。
王弟は少し驚いた様だったが「ありがとう」と返事をして、隣の青年に声を掛けていた。光のおさまった王弟は少し金髪に黄色い瞳だった。あれが光ったら、確かに眩しいわ。
隣で戸惑う青年は黄色に近いが金色だし、瞳も黄に近い茶色だ。愛し子っぽい色彩を持っている。
「ああ、アルドール殿下もソノルース殿下も、全体的に色合いが明るくなっていますね」
「それ、こんなに驚くことなの?」
「驚くことですよ。王族に母なる女神の愛し子が誕生したのって、もうずいぶん前ですからね」
「王族から寵愛の離れる何かがあったのか?」
「巫女の地位を貶めたのは、神殿だけではなかったという事でしょうね。カリドゥース陛下は自力でそれを調べ上げていらした様で、秘密裡にお姫様へ謝罪されて汚名返上を約束されたそうですし、アルドール殿下は近衛騎士団の正しい有り方に戻した方ですからね」
「そういえば、元々アルドール殿下は慈愛の君に気に入られているとティーも言っていましたね」
元から炎の女神に愛される素養はあったってことか。
「アルッギラ公爵はいつも通り少しお疲れ気味のようですね。ゲマネウム侯爵はとても元気そうでなによりですわ。まだ伝承剣技の実地研究をなされていますの?」
「お見苦しものお見せし申し訳ありません。いつも通りなんの問題も無いのですが……」
「お久ぶですね、巫女姫。まったくお変わりなく驚いておりますが、ご健勝そうでなによりです。ええ、時間だけはありましたので研究の毎日でしたよ。とても有意義な時間を過ごせましたよ、うふふ」
痩身のおっさんが宰相ノヴソムニ・アルッギラ、お目目キラキラなおっさんが軍務大臣カリュプシウス・ゲマネウムか。
アルッギラ公は見た目に反して、けっこう力強い声で返していた。
しかしゲマネウム侯は、すんごい個性的なおっさんだ。何だよ、伝承剣技の実地研究って。確か国王の忠臣は軒並み軟禁されてたって話だろ。その間ずっと身体動かして研究してたっての?
そりゃ、身体も締まるだろうさ。じー様と会せたら大変なことになるんじゃないのか、あれ。
「まあ! では、生きた伝説とお会いしたくはありません? エイディー神殿の神殿長ルペトゥス・マレフィ様も王国にお出ででしてよ」
「なんと! 『残虐の狂戦士』と呼ばれたお方がですか!? なんという僥倖」
うっとりと天井を見上げ、隣のアルッギラ公に「ちょっと行ってきます!」と動き出してるゲマネウム侯。護衛騎士がふたりがかりで全力で引き留めているのに、じりじりと国王から離れているのはいかんだろう。
駄目だ、今じー様とは会わせられん。後ろにひっそりと付いてきているはずのタキトゥースに指示をだそうとすると、イヴから静止の声がした。
「神殿長には絶対にこの部屋に姿を見せない様にと、ガウディムに伝言しました。今あの方まで登場されたら、収拾がつかなくなりますからね」
「助かる。じー様、ああいう人物が好きなんだよな。あんなキラキラした目でじー様に『あこがれですぅ』とか言われたら、舞い上がって何しでかすか…」
「むしろ、おふたりでアルッギラ邸に引きこもっていただけて、静かになるんじゃないですかね」
「それは魅力的だな」
「ええ。この後しっかり紹介しましょう」
巫女からも紹介するのはもう少し落ち着いた後日だと言われ、しゅんとするアルッギラ侯。なんとも可愛いおっさんだ。
「お話は変わるのですけれど、カリドゥース様と殿下方の気合いの入った装いは、アルドール殿下のご指示ですか?」
と、可愛いおっさんに和んでいたら、巫女からのとんでも発言が飛び出した。
「さすが、巫女姫。華麗に装えと言ったのはアルもだが、同じ事を言って我々の衣裳を選んだのはグラテアン公爵夫人だ」
「プルファーナ様ですか?」
「そう。グラテアン邸が開放された直後にペルゥーリタの所に来て『ティーシア様がいらっしゃいますわ! 陛下と殿下方を着飾りましょう、さあさあさあ!』って、すごい勢いだったな」
と、少しだけ遠い目になる国王。すげぇなグラテアン公爵夫人。たしか、新たにグラテアン当主になった巫女の長兄の奥方で、王妃の侍女をしていたって話だった。
「わたくしが生きているかも分からないのに、さすがはプルファーナ様ですね」
「いや、グラテアン公爵夫人が言うには『夫から、ティーシア様が我々を開放してくださったと聞きました。あ、夫は母なる女神からお告げ頂いたと申しておりましたわ』との事だ」
「納得しました。皆さま、とっても格好いいですわ! さすがはプルファーナ様ですわ。大兄さまと一緒にグラテアン邸に閉じ込められて、鬱憤がたまっていたんですね。身嗜みに気を使わない大兄さまを飾るにも限界がありますものね。今はペルゥーリタ妃殿下のお世話で、さぞ喜んでいることでしょう」
「巫女姫はよく彼女の事を分かってるね。たぶん着てもらえないと分かっているのに、ふたりで楽しそうに巫女姫の衣裳を選んでいるよ……はは」
「グラテアン邸で鉢合わせないことを祈ります。あはは」
巫女と国王にだけ理解できる何かで、乾いた笑いが漏れていた。よく分からないが、グラテアン公爵夫人はかなりの女傑と予想する。
まあ、グラテアン一族の頂点に立つ当主の炎の女神からも認められなければ、そうとう苦しい立場に居る女性だからな。
とはいえ、巫女が気に入りそうな衣裳を揃えるあたり、すごいと思う。
「グラテアン夫人って、巫女サマの好みを把握してるんだな」
「ええ。あの方は、小姫様以外で唯一のお姫様の理解者とも言えますね。小姫様もドゥーヌルス様の奥方として歓迎なさってますし、小姫様が不在時のお姫様のお世話を認める、稀有な方ですよ」
ものすごく興味深い人物だが会ってみたいと思わないのは、イヴの言葉にちょっとだけ揺れた我が巫覡の背中と不穏な気配のせいかな。
ああ、どんどん我が巫覡の機嫌が悪くなってる。




