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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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訓練場

 すっきりした気分で訓練場に足を踏み入れると、近衛騎士団レクスプラエトリアニの騎士たちから剣呑な視線が送られてきた。近衛騎士たちは、グラテアン騎士団への態度が王宮騎士団パラーティルムの騎士たちより、ずっと感じ良かったはずなのに。


 嫌らしい目付きだなぁ、クソ参謀によく似ている顔つきになってる。グラテアン(うち)の団員への視線が悪いという訳じゃなくて、私に対する悪意なのかな。小娘で巫女リーシェンのくせにって舐めた態度のようだ。

 いいでしょう、我が小隊以上に派手にぶっ飛ばしてやろうじゃないの。馬鹿にしているその巫女は『戦闘特化』だということを忘れているらしいから、思い出させてあげましょう。

 最後のご褒美のためにも、やるべきことはしなくちゃいけないしね。

 心の内で気合いを入れて、視線の主たちに汚物を見るような目付きでニタリと笑って見せると、驚いて睨むのを止めた近衛騎士団員たち。引くの早くない? もう少し頑張って睨んできなさいよ、軟弱者めが。


 納得いかない顔でグラテアンの団員に近付くと、笑い声をこらえる小兄さまの横で、イーが何かを呟きながら頭を振っていた。二人の背後に居るグラテアンの団員たちは、団長また冷徹ぶって格好つけてるよ、って目線で会話している。

 あんたたちも覚悟しとしなさいよ、とこちらも目線で会話に入ると「やべっ」とか「今日も格好いいですよ、団長」とか、調子のいいこと言う団員の声に重なるように美しい声が降ってきた。


 『あの矮小な豆ども、カーリのこと好き勝手に囀ずってて不快だわ。どんなに愛でし子たち(グラテアン勢)が諌めても聞きやしないのよ。もうぜんぶすり潰しちゃわない?』


 物騒! 近衛騎士団員なに言ったの?!


 兄さまやイーが諌めてもダメって…

 アルドール殿下は誰かを貶める発言をよしとしない方なのに、この状態ってことはクソ参謀とか神殿のクソ神官とか、王宮の反対勢力の誰か差し金かな。

 まだ開始時間にはかなり早いのに、もうクソ参謀が来ているのはこちらの様子見で、近衛騎士たちはグラテアンに嫌がらせしてますよー、って主張したいのかもしれない。


 へーえ? 近衛騎士が、国の重鎮たる私とその騎士にその態度でいくんだ?

 確かに歴代の神殿のアホどもと、ここ何代かの国王のせいで、巫女の評判と扱いはガタ落ちだけどね。炎の女神はこの国の要でしょ、その女神の娘とも言われる巫女に対して『近衛』がその態度なんだ?

 代表のアルドール殿下はよく理解されているから、グラテアンの者には丁寧な態度なの分かってないのね……ふーん。


「みてなさいよ、阿呆ども」


 我ながら今日いちばんの低い声が出たし、きっと顔はニタリ顔になってると思う。兄さまは今度こそ吹きだして笑い、イーはこめかみに手を当てて溜息をついている。我が団員の「あーあ、俺らも馬鹿だけどさぁ」とか「うん、俺ら以上に近衛の奴ら終わったな」とか、素直にあきらめた言葉は受け止めたよ。


「あんた達には、ちょっとだけ手加減してあげる。大丈夫、怪我はしないわよ。怪我はね」


 「あー、あの団長の笑顔ぉ!めっちゃ怒ってるぅ」「やばいって、これ俺らも間違いなく終わりだよ」「いや、ちょっとだけど手加減はしてもらえる。はずだ、たぶん、おそらく……」「うん、団長嘘は吐かないもんな」「嘘は吐かないけど、ちょっとって、どんくらいちょっとなんだ?」「え、それ言ったら手加減なしも同じも有りじゃないか」

 止まらない団員の不安の声。

 なんでそんな後ろ向きなのかしら。


「私のこと庇ってくれてたらしいじゃない? とっても嬉しいから、近衛騎士団(あいつら)に相手するのと同じ力で稽古をつけてあげるだけよ。余裕でしょ?」


 あ、そういうことねいつもと同じ訓練なんだ、とほほ。と半泣きで諦めたり安心する団員たちに、油断しないよう活をいれとこう。


「ちゃんと、貴方たちとあいつらとの違いを見せつけなさいよ」


 団員の全員が、いい笑顔で元気よく返事をする姿に、イーだけがまだ頭を振っていた。



 また何かうろんな視線がくるかな、と近衛騎士たちの方を確認したら、ちょうどアルドール殿下が宰相と軍務大臣を伴って現れたおかげで、こちらが少々騒がしくても気が付かなかったようだ。

 うっわ。アルドール殿下、服装がものすごく気合入ってる! 近衛騎士のほぼ典礼装じゃないかな、あれ。


 団長なだけあって平騎士より豪華で真っ白の式典用フロックコートの近衛騎士服に、右肩から胸の中央より左腰までかけて金糸と青糸の組紐で作られた飾り紐が複雑に飾られている。訓練あるし式典じゃないのでマントはなしなんだろうな。

 顔が豪華だから背中にマントのように物理的な派手さが無くても、十分に派手ってすごいな。

 その豪華な顔だって化粧はしてないけれど、この間の会議では放置だった眉も整えられて、前髪は中央より右側を後ろへ流して固め、左側は耳へかけて自然に流しているけどベタベタでもないしカッチカチでもなく柔らかく整えられてるようで殿下の動きに合わせてなびいてる、わー細かい。


 キメキメの姿で穏やかに話をする姿を見ると、やっぱり王太子殿下とよく似ていると思う。今日はお洒落さんで王子サマしているから、特に感じが似てるのかも。

 お二人が並んだら眩しい空間が出来上がりそう。暗くなってから並んでくださったら明かり要らないかもしれないなぁ。


上から下までがっつり見ていたせいか、視線を感じたらしきアルドール殿下がこちらを見て、うなずいた。はいはい、挨拶に参りますよー。

 小兄さまと団員たちとアルドール殿下のもとへ向かう。


「訓練場はともかく、近衛騎士たちは壊すなよティー」


 こそっとイーに注意された。


「壊さないよ? 身体はね!」


「いや、そういうことじゃない」


 困ったみたいに言うけど、小兄さまやイーがなだめてもずっと私を馬鹿にしてたんでしょ? それをそのまま放置はしちゃダメじゃない。


「やだなぁ、そういうことよ。小兄さまやイー、皆に忠告されてもまだ好き勝手言ってたんでしょ? それは兄さまや、貴方たちにも言われてると同じことなの」


 立ち止まってしっかり目を合わせて聞いてみると、ぐっと詰まったイーが視線をそらす。


「いくら私を馬鹿にして舐めててもいいけどね、グラテアンを馬鹿にするのは女神を馬鹿にするのと同じなの。たとえイーは良くても、私は絶対に許さない」


「っ、それは…」


 返事は待たずに歩く私に、イーはすぐついてこなかった。「これはあいつらが悪い、お前が庇ってもいいことはなにもないぞ」と、小兄さまがイーの背中を軽く叩いて私の援護をしてくれていた。

 兄さま、ありがとう。大好き。

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