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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
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無理じゃね? 無理でしょ。無理だわ。

「失礼なことを考える子たちね。でもいいわ、許してあげる。わたくし今とても機嫌がいいの。後でわたくしとも闘い(あそび)ましょうね」



 と、俺たちの考えなんざお見通しだった拘束の女神は楽しそうに言い捨てて、緑の髪を揺らし軽やかに炎の女神の元へと跳ねて行った。

 そして、できるだけ目を向けたくないと思っていた強欲の男神はちらりと拘束の女神の後ろ姿を睨みつけて、そのまま俺たちへと向き直った。

 こちらへ向けた手には大きな剣がある。黒い剣の形を取っているが靄が剣の形をしているだけなのか、小刻みにうねうね動いているし(ふち)がもぞもぞしていて微妙に気持ち悪い。



「早々にそこの小娘ごとお前たちを消し、サルアガッカを屠ってやろう」



 気色悪い剣の輪郭がゆらゆら揺れるのに合わせて、少しずつ大きくなっていっている気もする。あれの大きさを見誤るとがっちり接触しそうで嫌だ。奇妙な気配と形態に、とにかく視線をもっていかれる。




*** やべぇ、あの気色悪い剣に目が行く ***


*** 視線を強欲の男神から分散させる、それも狙いなのでしょうね ***


*** しかも、あれに接触したらマズい気がするんだけど……***


*** 非常にマズいですよ。触れた場所から浸食されそうですね。腐食系か精神汚染か、どちらであっても御免ですけどねぇ ***


*** うへぇ、全部避けなきゃいかんのか。面倒くさぁ***


*** 頑張ってください。私は絶対に近寄らないので ***


*** 迫ってこられたらどうすんだよ ***


*** 全力で逃げます ***



 情けないことをキメ顔で言うなよ、笑いそうになっただろうが。

 にたりと強欲の男神が笑うのと同時に、雨のように氷の槍が降ってきた。

 これが、俺たちの戦闘開始の合図になる。






 と、数瞬前に格好よく気合を入れたんだが、今は目の前で繰り広げられる人外の戦闘を見つめるだけだ。

 いや、あそこに突っ込んでいくの、ちょっと無理だわ。


 絶え間なく降り注ぐ氷の槍と炎の剣、もしくは氷の(つぶて)と炎の輪。全部殺傷能力の高い代物で、視界を防ぐ効果もあって強欲の男神の剣を避けられる自信はない。

 しかも、氷と炎は愛し子である俺たちを避けるとはいえ、我が巫覡ディンガー巫女リーシェンも目いっぱい殺気を込めているもんだから、避けないブツもあるんだよ。

 今、現場に居ない俺が何で知ってるかというと、一度は意気込んで突っ込んで行ったんだよ。じー様とじっ様、強欲の男神の攻撃を避けることだけに集中すればいいと安易に考えていたのがまずかった。


 降り注ぐ氷と炎の圏内に一歩踏み入れたとたん、ほとんどの氷と炎は避けてくれたが、頭上から降ってきた氷の槍の一本が頭に当たり綺麗に跳ね返って床に刺さったんだ。愛し子でなかったらブッスリ刺さってこの世からおさらばしてたんだろうな、って想像できるくらいに殺気の篭る槍だった。

 刺さらなかったが頭がぐらぐらする位の衝撃に『え?』ってびっくりしてたら、今度は炎の輪が頬をかすめて飛び去ってゆく。指で輪っかにしたくらいの大きさの炎の輪が、高速で回転してるから『ちゅんっ!!』って高い音がした。


 ねえ、愛し子には当たらないんじゃないの? しかも俺、父なる神と炎の女神が直に寵愛をくださった愛し子だよ?

  端の方でこの効果ってことは、放たれた直後の氷や炎だったら洒落にならない威力じゃないのかな。これを避け、我が巫覡と巫女の攻撃を避け、じー様(とじっ様)の攻撃を避けて、さらに強欲の男神の剣に注意する?


 無理じゃね?


 とびびった俺は、そのまま後退して戻ってきたのだった。

 全部を見ていたイヴに何か言われるかと思ったが、何も言わなかった。



「あれは無理。自分に結界を張って突入しても、すり抜けて頭に槍が刺さる未来しか見えない」


「私なら、身体が二つに割れてしまいそうです。しかし、これではただ見ているだけになってしまう。困りましたね」


「いや、お前は術の調整で参加してるだろ。俺は本当にただ見てるだけなんだが。というか、じー様すげぇな」


「ええ。致命傷になるのを避けるだけで、お姫様(ひいさま)にも巫覡にも遠慮なく大技を出してますもんね」



 ぼそっと「神殿長もおかしいが、お二人ともよく避けられるものだ」と感心している。うん、俺もそう思うよ。じー様ってば自分を傷つけそうな氷や炎を見極めて剣でいなしたり、強欲の男神の方へと軌道修正したり、避けきれないのはぶっすり行く前に移動してかすり傷で済ませている。

 どんな動体視力してんだろう。

 その上で我が巫覡にも巫女にも遠慮なく剣を振り回し、氷の術を撃ったり剣に術力を乗せた剣戟を繰り出すついでに術力を乗せた風を強欲の男神に撃ちこむ。

 じー様から放たれる風を避けながら、我が巫覡と巫女も剣で切りつけていたりする。さすがに我が巫覡と巫女は自分たちの放った術にも、強欲の男神の攻撃にも、じー様の攻撃にも当たらない。全部ちゃんと見て避けている。

 ほんと無理でしょ。あれは真似できないって!



「これは、頭がかち割れる覚悟で行くしかないかな」


「あまり効果は期待できませんが、私も結界を張りましょうか?」


「そうしてもらおうかな」


「やめとけ。即、本当に頭がかち割れるぞ」


「うぉっ、アールテイ!? あっちで闘ってたんじゃないのか?」



 いきなりアールテイに声をかけられて、ビクっとしてしまう俺と、声は出さなかったがとても驚いた顔をするイヴだった。

 なんの気配もしなかったから、かなりビビった。



「俺以外がみんな神で、ほぼ最強の方々が揃ったとこで闘えると思うのか? 一人であんなとこに居たらすぐ塵になるだろ」


「あ、うん。こっちが凄いと思ってたけど、あっちはもっと凄いことになってるな」



 拘束の女神の向かった先では、爆発に次ぐ爆発が起こっているっぽい。絶え間なく、青と赤と緑と黒の光が白と黒の煙の隙間から見える。

 こちらや地上にに余波が行かないように、結界内で闘っているらしい。


 あの中で何が起きてるかは知らないし、知りたくない。

 というか、強欲の男神を倒してあそこ行かなくちゃいけないんだよな、俺たちって。

 無謀じゃね? こっちの方が規模が小さいはずなのに、立ち往生してるんだぞ、俺。



「とりあえず、あちらの方は考えなくていい。お前を姉貴たちのところへ行けるようにしてやるよ」



 口を開けて茫然としている俺に、アールテイが力強く言う。

 有難いんだけどさ、どうやって?

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