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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
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愛しいあなた

 はぁ? さようならって、何?

 いきなりの別れの挨拶に、強欲の男神も呆気にとられた様子だった。まあねぇ、あんなにべったり侍ってたのが、あっさり「さようなら」とか意味わかんねぇよ。

 さすがの強欲の男神も言葉が出ず、目を見開いて口をパクパクさせるだけ。そして、追い打ちをかけるように拘束の女神の言葉は続く。



「もう少し貴方と共に居て貴方を見ていたかったけれど、エイディが闘ってくれるというのだもの!こんな機会はきっともう無いと思うの。どうせなら貴方と共闘するより、ひとりで闘いたいの」



 うふふ、と両手を合わせて口元に当てて楽しそうだ。まったく悪気のない言葉に、すぐには言ってる意味が分からなかった。口調は可愛らしいけど、内容はひどいんじゃないのかなぁ。

 強欲の男神の顔が赤くなる速度と、俺が言葉を理解する速度は同じだったらしい。



「貴様は我が邪魔だと抜かすか!」


「そうねぇ。エイデアリーシェはとっても強いの! エイディンカが補助に回ったら、わたくしが全力で闘ってもかなり厳しいわ。貴方を庇いながら闘うのは難しいのよね」



 コロコロと笑う拘束の女神は、怒りに震えだす強欲の男神を見つめ続けた。



「それにサルアガッカも参戦するとなると、貴方も闘うのでしょう? 貴方は他者と共に闘うのは得意ではないし、わたくしも貴方に合わせる余裕は持てないと思うの。そうなると、傷ついた貴方を回復させなければいけないじゃない? わたくし、エイディとの戦闘に集中したいのよ」



 わぁ、辛辣ぅ。お前だけ怪我するから面倒だって、堂々と言い切ったよ。強欲の男神の手が小刻みに震えている。めっちゃ怒ってるじゃん。男神からの殺気をビシビシ浴びても、平気な顔どころかさらに笑みが深まる拘束の女神。

 と、鈍い音が拘束の女神と強欲の男神が居るあたりで起きては消えている。大きな布をはためかせたときみたいな音だよな、『ぼばっ』とか『ばふっ』みたいな。



「あれは何の音ですか、お姫様(ひいさま)



 それが何かを、たぶん理解しているイヴが青い顔をして巫女リーシェンに尋ねた。



「イヴもわかってるでしょ。強欲の男神が術を放って、拘束の女神が打ち消してる音だね」


「理解したくありませんでしたよ。そよ風すら起こらないなんて、相当高度な打ち消し方をああも連続でするなんて…… 私、帰ってはいけませんか?」


「却下だよ。イヴが私たちの微調整してくんないと、侍従くんが危ないもん」


「そういう事なら俺も一緒に帰りますよ、巫女サマ」


「何を馬鹿な事言っとるか! あれは長年連れ添って相手をよく知るからこそ可能な技であって、そうでなければ周囲に被害が出とるわい」


「それが何の慰めになるんだよ。じー様みたいに『強くて闘いがいがあるわい!』なんて思えねえって」


「お前、神殿騎士アエデーエクエじゃろが。父なる神の為に死ぬ気で闘うのが役目ではないのか……なんと情けない」


「いや、泣いたふりすんなよ。闘わないとは言ってないだろ、行きたくないとは言ってるけどさ」



 よよよ、と泣き真似をしたじー様は、俺の発言に呆れた目を向けるだけで、もう何も言わなかった。

 まあね、険悪な雰囲気が頂点までいった感じがするからね。このままじゃれ合ってたら、本当に今生からおさらばしそうだ。



「ではの」



 じー様はにやっと笑い、俺の頭を撫でて消えたみたいに去っていく。本当に爺なのか疑問になる速さなんだけど。

 と、じー様の去った方に気を取られていた隙に巫女の術が放たれたらしく、視界の端が赤く染まり熱気が顔を撫でて行った。

 しゅっと静かな移動音を立てて幾本もの炎の剣が高速の女神と強欲の男神の方へ向かい、手で触れらるくらいの距離あたりで更に細かく分離し球体の様に彼等を包み込んだ。

 小さな剣が着弾する度にポンポンと軽快な破裂音をたてて、火花が弾けて見える。かなりの熱量みたいで、床の冷気で涼しかった空気が一気に温まったぞ。


 火花が収まった後には、足元に炎が散り纏う鎧や服の裾が焦げている強欲の男神と、豊な髪もヒラヒラした衣装も全く変わりなく麗しい拘束の女神が立っていた。拘束の女神の方は何かして避けたか相殺したか、炎の気配すら無い。すごい差だ。



「強欲の男神の衣服が焦げていますね。そういえば、お姫様の結界を破る前は半裸に近かったのに、いつの間にか衣服が復活してるじゃないですか。どこから持って来たんでしょうね?」


「疑問はそこか? 俺はお前の発言のどこを突っ込めばいいのか悩むわ。しかし素っ裸ふたたび、は勘弁してほしいな」



 のんびり俺たちが会話している間にも巫女からの炎の剣は飛び続けているが、拘束の女神へ近づくといきなり剣が小さくなって掻き消えてしまっている。

 反対に強欲の男神には当たり続けているのだが、段々と損傷を与えられなくなっているみたいだった。

 強欲の男神が煩わしそうに虫を叩き落とす動作をすると、こちらも威力が小さくなって力なく炎が糸の様に床へと落ちていく。 

 


「ま、あんなんじゃダメだよね」


「うふふ。それでも意表を突いたのは良かったわね。頑張ってクピフィーニートに勝って、わたくしとも闘い(あそび)ましょう? エイディの子」


「ネウティーナ、貴様ぁ!」

「遠慮します」



 巫女へ優しく語る拘束の女神へ、強欲の男神の怒号と巫女の言葉が重なった。振動が足元に響く程の怒号を至近距離から浴びても、拘束の女神の視線は巫女に向けられたまま楽しそうに笑っている。



「まあ、そんな事を言わないで。楽しみに待っているわ」


「ネウティーナ、我があんな小娘どもに負けると言いたいか!」


「ええ。クピフィーニート、愛しいあなた。気が付いているかしら? エイディの子たちは以前よりずっと強くなっているわ。サルアガッカが鍛えたのでしょうね」


「少しばかり鍛えられたからといって、我は負けたりせぬわ」


「では、見事あの子たちに勝ってみせて。その間わたくしはエイディと闘って待っているわ」



 強欲の男神の目を見て、拘束の女神は笑う。



「もしあの子たちに勝てたら、あなたと一緒にエイディと闘うと約束しましょう」


「言質は取ったぞ、ネウティーナ。貴様こそ、消されぬように気を付けるのだな」



 黒い靄を剣の形へと変えてこちらへ向き直る強欲の男神を見つめて、拘束の女神は呟いた。



「ええ。あの子たちに勝てたのなら、ね。クピフィーニート、愛しいあなた」



 気のせいかなぁ。拘束の女神の目つき、とても『愛しいあなた』を見る目じゃねぇぞ。ちらっとイヴに目配せしたら、同じ事を考えていたらしい。



*** 怖ぇえよ、あの目 ***


*** ものすごく蔑んだ感じがしますし『お前には絶対無理だろ』って目で語ってますよね。なんであの視線に気が付かないんでしょう ***


*** 『愛しいあなた』とは…… ***


*** この場合は『さようなら』と同じなんじゃないですかね ***



 やっぱ、あの緑の女神怖いよ。

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