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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
158/160

エイディ2

「何時までここに立っている。疾く去ね、狂女めが」



 我が巫覡ディンガー巫女リーシェンの、今じゃないですと言いたい甘酸っぱ空間のおかげで踊り跳ねていた心臓が落ち着いてきた頃、棘だらけの声で父なる神が一番に言葉を発した。父なる神は炎の女神をしっかりと抱き寄せ、見るだけで凍りつきそうな冷気と殺気を込めた視線を拘束の女神に投げかけている。

 言葉を投げかけられた拘束の女神は、変わらず笑顔のままでおっとりと答える。



「まぁ。ひどい事を言うのね、エイディンカ。わたくしにだってエイデアリーシェを眺める権利はあるわ」


「そんなものは無い。愛しきひとと我が名を呼ぶな、狂女」


「うふふ、余裕のない者は嫌われてよ?」


「わたくしたち(・・)は余裕がないのではなくて、お前を嫌っているだけよ」



 何を言われても堪えない様子の拘束の女神が、炎の女神の感情の乗らない言葉には傷ついたような顔になる。



「嫌うだなんて、悲しいわエイデアリーシェ。わたくしはこんなに貴女が好きなのに」



 ちょっと待って。え、好き? 炎の女神のことが好きって言った?

 嫉妬の女神は炎の女神が嫌いだから強欲の男神に協力していたはずだ。その嫉妬の女神を引き込んだのは、拘束の女神だと聞いている。

 好きな相手に嫉妬の女神(嫌っている相手)をけしかけたって、どういう思考してんだ。


 切なそうな声と心底悲しそうな顔をしていて、かなり庇護欲だの罪悪感が湧きそうな雰囲気なんだが、俺は追いかけ回された恐怖やらで全然気の毒に思えないんだよなぁ。

 炎の女神も同じ様に思っていたのだろう。表情は無のまま、声にだけ嫌悪感を乗せて吐き捨てるように言い放った。



「わたくしはお前が嫌い」


「ひどい、ひどいわ」



 目に涙をにじませているが、それでも拘束の女神の目は炎の女神から離れない。



「わたくしの愛する娘の子であり、わたくしの侍女(愛しい子)でもある娘の魂を国に縛り付けるという暴挙を仕出かしておいて、よくも言えたものだわ」


「愛しいクピフィーニートが貴女の娘をサルアガッカから奪えないと知った時から、貴女の娘の子供を狙っていたのよ。わたくしには貴女の娘の子が奪われるのを、出来るだけ先延ばしにする事くらいしか出来なかったのよ」



 つ、と涙がひと筋流れ落ちても顔は前を向いたままで、涙の痕がキラキラと輝くように美しい。けど、炎の女神は騙されなかった。



「誰がそんなお前に都合のいい事だけを信じるというのかしら。クピフィーニートに対しては目的のものを手に入れる期間を延ばして奴がイライラする様を眺めて笑い、我々には愛しい子が拘束されているという苦悩を長引かせてそれを眺めて愉悦に浸っていたのでしょう?」


「いいえ、そんなことはないわ。わたくしは愛しいクピフィーニートの力になりたかったけれど、貴方の愛しむ子が捕えられるのも悲しかったから、仕方なく介入したのよ」



 とうとう手で顔を覆い俯いたのだが、悲しいというより表情を見られたくないための行動なんじゃないだろうか。言ってることも全部が嘘ではないんだろうけど、本当でもないんだろうと思う。胡散臭いことこの上ない言い草だもんな。



「あわよくば、ニィを自らのものしようと?」


「ええ、そうよ。エイディの愛しむ子だもの、とても愛らしくて…… あっ」

 



 父なる神が投げかけた言葉に素直に答えてしまい、驚いて顔を上げる拘束の女神。露わになったその目に、涙はなった。



「ニィはお前の好みではないのに?」


「仕方がないわ。最も欲しかった子はとても護りが固いうえに意志まで固いのだもの、取りつく島もないから諦めたわ。容姿がエイディンカに似て性格はエイデアリーシェ似た子は意中の相手が居たし、まったく隙も無くて拘束できなかったわ。容姿はサルアガッカ、性格はサルアガッカとエイディンカを足して割ったような子は自由すぎるうえに居場所も捉えられなかったし、容姿性格ともにサルアガッカに似た子は好みではないの。そうしたら、残るのは下の娘よね。見た目はエイデアリーシェで、性格はエイディンカ似というのもいいわ」



 誤魔化せなくなって開き直ったのか、区切りなくつらつらと早口で話し表情はうっとりしている。端的に言って、怖い。



「ネウティーナ、貴様はそんな事を考えていたのか!!」



 いつの間にか両手が復活していた強欲の男神が、結界をガンガン殴って拘束の女神へと怒鳴る。



「ええ、そうなの。クピフィーニート、愛しいあなた。わたくしたち、同じものを欲しがっていたのよ」


「そういうことではない! 貴様、裏切っていたのか」


「まあ、裏切ってなどいなくてよ。あなたとわたくし、ふたりで娘を愛でるつもりでしたもの」



 うふふ、とにたりと笑う顔が歪んでいる。血走った眼をしたいかついおっさん神と、頭のおかしい歪んだ女神に愛でられるなんて、ぞっとするわ。

 そりゃあ、炎の女神方や巫女、妹君が最愛のアールテイが必死になって開放しようとするわ。俺が妹君の立場だったら、危険だから放っといてくれという思いと同じくらいに、助けてくれって願っちまう。



「我のものにすると言っていただろうが! 貴様なぞに髪に一本すらやらぬわ!!」


「欲深くて狭量なあなたは、とても素敵よ。そんな愛しいあなたから可愛い子を奪って、わたくしのものにするのも楽しいと思っていたのだけれど…… 」



 拘束の女神は怒鳴る強欲の男神の方へゆっくりと歩み寄り、結界にべったりと付けている強欲の男神の手のひらにそっと右手を合わせる。炎の女神へと向けていた笑顔は消え失せ、感情の抜けた顔と声で言う。



「いちど失敗しただけで、エイディまで消そうとするのはいただけないわ」


「エイディ、エイディ、エイディ!! お前の言うエイディとは何だ?!」


「うふ、気になるの? クピフィーニート、愛しいあなた」


「どうでもいいわ。お前がエイディがと言って悉く邪魔をするのが煩いだけだ!」



 無表情だった拘束の女神は、強欲の男神が結界をはさんで合わせていた手を拳に変え自分の手のひらを打つのを見て、くすっと笑みをこぼして楽しそうに答えるのだった。



「エイデアリーシェとエイディンカ。ふたりはお互いに『エイディ』と呼びあっているのよ」


「はあ?」


「ふふ、お互いの愛称が同じなのよ、すてきね」



 おっとぉ。これは俺たち聞いていいの? めっちゃ個人的、いや個神的なものなんじゃないのか。



エイデ(・・・)アリ(())ーシェとエイディ(・・・・)ンカ。ね、どちらもエイディでしょう?」


「だから何だというのだ」



 いきなりの内容に強欲の男神も冷静になったのか、叫ぶような声ではなくなって表情も怒りが収まった感じだ。



「わたくしね、エイデアリーシェが大好きなの。あなたに付いてこちら(・・・)に来て、エイデアリーシェを一目見たときから」



 うん? 話がおかしな方へ行きそうな感じ?

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