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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
155/160

今だけ超仲良し

「エイデアリーシェが止めなかったら、連れて行っただろうが」


「喜んでいると思ったもの。連れて行ったでしょうね」


「それを規約違反と言うんだよ」


「でも、まだ連れて行っていないわ?」


「結果だけを見れば、だ。連れて行こうとした件でも処罰があるから、覚悟しておけよ」


「あら、他はなにも違反などしていないでしょう」


「俺の娘、ニィの魂を不当にこの国に縛り付けているだろうが」


「それはクピフィーニートが、わたくしに強く望んだからだわ。愛しいひとの願いは叶えたいものだし、愛しいひとの強い意志には逆らえないでしょう?」


「お前が自主的に行った行為じゃないって言いたいのか?」


「ええ、そうよ」


「では、今すぐニィへの拘束を解け」


「いいわよ。愛しいひとがわたくしにそう命じたら、すぐに解くわ」



 拘束の女神はそう言うと、結界を爪で引っ掻き続け咆哮を上げている強欲の男神へと、豊かな緑の髪を揺らし踊るように近寄った。



「ねえクピフィーニート、愛しいあなた。サルアガッカがああ言っているけれど、貴方が所望した娘の魂の拘束を解きます?」


「許さん、許さん、許さん。アレは我が物、サルアガッカもエイデアリーシェも殺す、殺す殺す……」



 肩に手を置き艶やかに笑う拘束の女神を一瞥もせず、戦の男神と炎の女神を睨み吐き捨てる強欲の男神。

 二柱の神は何も言わず、ただ強欲の男神を睥睨するばかりだ。

 我が父なる神は炎の女神のすぐ横に並び、背中へと腕を回して冷めた目で強欲の男神を見てる。我が巫覡ディンガーと同じような無表情なんだが、目がものすごく怒っている。目の奥で蒼い炎が揺らめいてるみたいに見えた。



「困ったわ。ダメですって」



 全然、これっぽっちも困った様子のない『困った』を口にして、微笑している。すげぇ、あれだけ殺気を向けられても平然としてるぞ。相当に図太い神経をしているろ思っていたが、それ以上にいい性格をしてるわ。

 拘束の女神への殺気が辺りに充満して、居心地悪いを通り越して神経をヤスリで削るような刺激が強くなってきている。

 我が巫覡と巫女リーシェンの後ろに居るってのに、またもや冷や汗が止まらないんだが…… 助けてイヴさん!

 一縷の望みをかけて隣を見れば、イヴも強張った顔でこちらを見ていた。俺の思考は漏れまくってるからいいとして、イヴも心話で返す余裕もなさそう。しかし、あの顔だけで言いたいことが理解できたぞ。



『我々は空気になって耐えよう』



 色々かみ合わない俺とイヴだが、二人の心が一致したと確信した。こちらに意識を向けられないように、気配を押し殺し不動を貫こう。と、声なきイヴの励ましが沁みる。俺たち、今だけ超仲良しじゃね?

 だが、どんだけイヴの存在が心強くても、恐怖と緊張で足の力が抜けそう。耐えろ、俺。耐えろ、イヴ!



「お前が困ろうが関係ないわ。その阿呆の身勝手な望みに喜んで手を貸すお前が居るから、その阿呆は身の程を弁えない行動に出るのよ。それを理解し敢えて阿呆に手を貸すお前が、いちばん質が悪い」


「まぁ。エイデアリーシェだってエイディンカが望めば、何であっても持てる力すべてで協力するでしょう? わたくしも同じよ」


「わたくしは背の君が望むすべてを叶えて差し上げたいけれど、お前のように何にでも面白おかしく手を貸すわけではないから、お前とは違はうわね。そもそも、背の君はそこの阿呆のように下劣な望みは抱かないのよ。同列に扱うなど、身の程を知りなさい」


「酷いことを言うのね、エイデアリーシェ。悲しいわ」



 煽るなぁ。お互いに全く堪えてない様子なんだけど、殺気のなかに殺伐とした視線が交錯して混沌とした状態が更に酷い事になってきたぞ。そろそろ息苦しくなってきたんだが…… そういえば、爺たちはどこ行ったんだ?

 そろそろと視線を彷徨わせたが、爺たちの姿も気配も感じられない。逃げたな、あの爺ども!


 爺たちへ意識を向けて現実逃避する俺にも、突然に何かが千切れる音が聞こえた。太い縄とか皮の紐が強引に引きちぎれる、『ばつん!!』みたいな音だった。

 女神方へ視線を戻せば、自分の煽りを輝く笑顔で無いものとする炎の女神へ追加で何かを言おうとした拘束の女神の表情が、強張っていた。



「良くやったアーフ。大事ないか?」


「はい。なんともありません、父上」



 人形をとったアールテイが、戦の男神の足元に跪く格好で浮いている。器用だな、アイツ。

 拘束の女神はキョロキョロと周囲を見渡し、茫然と呟く。



「……糸が、あの子に繋がる糸が切れているわ。何をしたの?」


「断ったんだよ。娘をお前から開放したのさ」



 光のない目でじっと拘束の女神を見つめるアールテイに代わり、戦の男神がニヤリと笑う。



「酷い、酷いわ! もう少しでわたくしの所へ来るはずだったのに!!」


「ふざけるなネウティーナ、あれは我が物だ」



 己の肩に片手を置いて取り乱した様子で戦の男神に食いつく拘束の女神に対して、強欲の男神が吠えるように言う。

 それに対して拘束の女神は悲しそうな顔をしただけで、強欲の男神の頭部を包み込こんだ。



「ああクピフィーニート、愛しいあなた。すぐに貴方のものには出来ないの。わたくし(・・・・)に拘束して、わたくしごと愛してもらおうとしていたのだもの」


「話が違うではないか!!」


「お怒りにならないで? 人間(ひと)として生まれようとも、あの娘の魂には神々の血が色濃く宿っていて、手間も時間もかかると言ったでしょう」


「我の物にすると言ったはずだ」


「ええ、覚えていてよ。でも、貴方も覚えていて? あの娘をこの国に縛るのに、娘の人生を数代かけたのよ。今代で私に縛って、もう数代かけて貴方へと縛りを移行するのだと話したし、貴方も納得したでしょう」



 えらく壮大な計画だな、おい。でも、それも当然か。

 巫女にしても妹君にしても、この場に御座します方々が、そりゃもう大々的に(たぶんこっそりとも)護りの術なんかをかけまくってるだろうからなぁ。

 さっきの俺の様にさっくり捕獲して、精神的にも何らかの拘束なんて簡単に出来るもんじゃないだろう。神々の護りだけじゃなくて、当人の能力だの精神力だのも相当なもんだろうし。

 だけど、この計画って気の長そうな拘束の女神はいいとして、ゲマドロース以上に短気そうな強欲の男神に耐えられるもんか?



「すでに当初の計画から外れているではないか。今すぐ娘を寄越せ!」



 バシっと音がする程に激しく拘束の女神の腕を払い、目を血走らせて怒鳴る強欲の男神。対して、女神はあくまでも穏やかに笑い、言い聞かせるように話すのだった。



「それはもう無理なの。クピフィーニート、愛しいあなた。わたくしがあの娘を拘束していた『糸』は完全に断たれてしまったから、また最初から始めなければならないの」



 いやそれ、そんないい笑顔でいう事か?

 愛しい相手もしっかり煽るこの女神、ちょっとオカシイ。

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