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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
153/160

残らず御出座しだ

 これはもう俺連れ去り決定か?と焦った俺の救い手は、たぶん俺の頭上にいらっしゃる。拘束の女神の視線が頭の上なのと、なんか頭の上がほんのり赤くキラキラ光ってるし温かいんだ。



「そうやって、気に入ったものをすべて強引に手に入れようとするお前の方が『強欲』に相応しいのではなくて?」


「まぁまぁ! お久しぶりね、エイデアリーシェ。相変わらず美しいわね」



 うっとりと炎の女神を見つめながらも、はしゃいだように言葉を紡ぐ拘束の女神。ほんっとうに話を聞いてない方だな、おい。



「 ネウティーナはいつもこう(・・)よ。ひとまず鑑賞するのに満足するまで、わたくしへの答えは返ってこないでしょう」



 うんざりだ、という感情を隠すことなく俺に答えてくださる女神は声が、というか喋り方の雰囲気が巫女リーシェンと良く似ていた。

 顔は分かんねぇ。衣の端が俺の頭を撫でる程に近い女神を見上げるなんて、恐ろしくて無理だって。



「あら。背の君の侍従ディジャーなのだから、遠慮することなく見ればいいわ」



 コロコロと笑い、おおらかな対応は本当に巫女と良く似ていると思う。



「うふふ。カーリと似ているなんて、嬉しいこと。あの乱暴者(サルアガッカ)は、全然そういう事を言わないのよねぇ」



 身振りを付けて話されているのか、上から垂れて見える柔らかそうな薄赤い衣が、風になびく以上にヒラヒラと動いて見えた。



「ずるいわ、エイデアリーシェ。その子供とだけでなくて、わたくしともお話しましょうよ」


「お前はちゃんと答えないから嫌よ。さあ、背の君の侍従(かわいい子)、あちらへ行きましょう」



 炎の女神の言葉が終わらないうちに、結界の方から大きな破裂音と白い煙が沸き起こった。いろいろ麻痺していた俺の感覚の向こうの方で、イヴがそうとう焦っている気配がする。

 何事だ?と考えようとする間にも、煙が漂っている下の方に床が出来上がっていっている。

 あれ、いつも我が巫覡が作っている床だよな。出来上がる速度も大きさも段違いじゃん。


 驚く間もなく、離れたこの場からも端が見えない床が出来上がってんだけど。我が巫覡ディンガーと巫女でも作れるだろうが、あの大きさを維持し続けたり空中に固定するのは無理なんじゃないか?

 誰がやったんだよ。



「あなたたち、面白い事を考えるのね。先程のはクピフィーニートと闘うには少しばかり小さいし壊されそうだったから、背の君と同じものを大きく作ってみたわ。どう?」


「あ、そういう事ですか。大きくて丈夫そうデスネ」


「とても床が広く出来上がったから動きやすそうよね。もしあの氷の床から落とされそうになっても大丈夫よ、床から足が落ちる前に壁が出来て押し戻すから」



 なんちゅう高度な結界だ。作ってみたと言うが、何かしてた様子はまったく無かった。分かっちゃいたが、神々ってすげぇのな。

 ふふ~ん、とご機嫌な鼻歌が頭上から聞こえてくるし、またもや俺の意志はおかまいなしにリムスごとイヴの方へと移動している。

 しかも鼻歌と同じ拍子で薄赤い衣が揺れていて、それを恍惚とした表情で見つめる緑の女神が俺の斜め後ろにぴったりと付いてくる。もうどうにでもしてくれ、と投げやりな感想しか浮かばない。


 イヴの前方の斜め下あたりに出来た床に我が巫覡と巫女が立ち、強欲の男神が自らを閉じ込める小さな結界─── 巫女が再度結界に閉じ込めたらしい ───の中で暴れまわるのを見つめている。反対側の強欲の男神の背後で、じー様とじっ様が油断なく剣を構えている。

 みんな無事で良かったと安心するとともに、俺が引き連れて…いや俺を引き連れている方々のことに申し訳なさでいっぱいだ。

 やっぱ、今からでも帰っちゃ駄目かな。



「よく逃げおおせましたね、お疲れさまでした。ご無事でなによりです、イーサニテル様」



 美しい笑顔でイヴが俺をねぎらう。

 しかし、『ふざけてんじゃねぇ、ひとりで帰ってこいよ』と声なき声で罵倒されているのは分かる。



*** すまん、悪かったって ***


*** 無事で良かったと言ったのは本当ですよ。しかし、なんというお方たちを連れてきたんです、貴方***


*** だから悪かったって。俺だってひとりで帰りたかったよ ***


*** 危機が迫ったら、陛下を呼びなさいと言われていたでしょうに ***


*** も、申し訳ない。それは思い出せなかったんだ ***


*** まあ、私が同じ事を言われても出来なかったと思うので、貴方の行動は理解できます。しかし、いくらなんでもこの状況は…… ***



 そうだよなぁ、俺も困惑しまくりだわ。

 俺の横には、新しく表れた先ほどまで展開されていたものと同じ形態で、より大きくなった結界を楽しそうに眺めまわす緑の拘束の女神。

 イヴに対して項垂れる俺の頭上で鼻歌まじりに、機嫌よく座るように浮いている紅い炎の女神。

 そんな俺を笑顔で迎えているが、同じく困惑しているイヴの背後で強欲の男神を囲む我が巫覡や巫女を眺めやる蒼い御方。

 そう、あちらに御座(おわ)しますお方は、俺やアラネオ達がずっと一度でいいからお目にかかりたかった、我らが父。



 ひとまとめに括った真っ直ぐな銀の髪は風で揺らめいて、床面の氷と同じくキラキラと光っている。我が巫覡を見つめる目元は髪色と同じ眉毛、その下に髪色と同じ睫毛。あの長い睫毛、瞬きすると風を起こしそうだ。

 そんな睫毛の下には紺碧の瞳が見える。我が巫覡の澄んだ深い青とは違う色合いで、我が巫覡は少しだけそれを気にしていた。



「青は青に違いないじゃない。私の瞳だって真紅って言われるけれど、母なる女神の瞳より暗い色合いだよ。そんな些細な差より、髪とか顔がそっくりなんだから、気にしなくてもいいじゃないの」



 と、なんでもない事のように巫女に言われてからは、全く気にする気配が無くなった。我が巫覡、ちょっとチョロイのでは、と思ったのは秘密にしておこう。

 巫女の言う通り、父なる神と我が巫覡の顔の造作はほぼ同じ。父なる神の方が年を重ねている風貌なので、親子だと言われたら誰もが納得するだろうな。

 纏われる服も、我が父なる神は神殿騎士団アエデーエクストゥルマの制服と良く似た形態だ。

 我が巫覡の方が髪が短いのと、どなたも神だけあって俺たちよりも二回りは大きいので、一目で存在の違いが分かるけどな。



 感動のあまり父なる神をがん見しているうちに、小さな結界には白いヒビが入り音もなくくだけてしまった。

 床に膝を突き荒い息を整えていた強欲の男神は、唸るように息を吐き己を閉じ込めた巫女を睨んで立ち上がる。

 対する巫女は至って通常通り、平然としたものだ。我が巫覡が一歩だけ斜め前に出て、強欲の男神の視線を巫女から引き離そうとなさっている。我が巫覡、巫女を庇おうとなさっているのですね。あれ、なんか涙が出そうだぞ。我が巫覡の勇姿をこの目に焼き付けねば!



 しかし、なんとも色彩豊かな戦場だな、ここ。どなたも大柄ともいえるだけに、神の威だけでなく存在感と威圧感がすごい。

 唯一、強欲の男神はゲマドロースを元にしている為か、大柄な騎士と同じ程度。とはいえ神だけあって丈夫さは段違いの上、神威を放つことを躊躇しなくなってるみたいで、じー様がやりにくそうではある。


 俺の視線はじー様にあったが、視界の端では強欲の男神を捉えていたはずだった。

 あ、動いたと思った時には物凄い形相で咆哮する強欲の男神が、俺の目の前で、結界に阻まれて張り付いているじゃないか。


 ナニコレ。


 血走った眼は俺の頭上、の更に上に向かっている。失礼します、と心で挨拶をして上を見たら、俺の頭に座る格好の炎の女神も上を向いていた。

 女神と強欲の男神の視線を集めているその人は、漆黒の髪と瞳を持つ最近関わりの深い方で…



「貴方は何しに来たの? サルアガッカ」



 誰もが疑問に思った事をのんびりと口にしたのは、仲が悪いと言われる炎の女神ではなく、拘束の女神だった。



 うぉお、関係する神々が残らず御出座(おでま)しだぁ……

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