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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
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まだまだ、ぐだぐだ

 一部以外には感動を与えた出立式の直後に、神殿や王宮を攻める、ゲマドロースの所へ向かう俺たち以外の皇帝近衛連隊インペラコンコルディーと、皇帝宮騎士団インペラフォルティスエクストゥルマがフランマテルム王国へと出立した。

 全軍の先頭には我が巫覡ディンガーの扮した影武者が居る。父なる神の寵愛厚い侍従ディジャーで、ほぼ白髪の優秀な神編術師だ。だが、剣はからっきしで影武者を務める事にビビリまくっていた。

 あまりに怯えるので俺やアラネオっぽい影武者を補助に付け、銀髪の鬘を被らせて、我が巫覡は元々無口なのでなにも発言する必要はないと説得して送り出した。


 見送るアラネオ以外で今広場に残っているのは、ゲマドロースの所へ向かう我が巫覡と巫女リーシェン、じー様とじっ様に俺とフィダと部下たち、そしてグラテアンの愛し子だけ。

 そして我が巫覡と巫女の前には、にこにこと笑う巫覡サルアガエルアグメサーケル陛下が立っている。

 じー様は両手を組んでそれを拝むように掲げ、涙を目尻に浮かべて感動している。

 巫女の左隣に居るアールテイがアグメサーケル陛下を覚めた目で見て、挨拶なしに一言。



「調子に乗りすぎ、なにあの祝福」


「いいじゃないか、あって困るもんでもないだろ」


「ありすぎたら困るだろ。皇帝宮騎士団のヒラ騎士が、祝福に気が付かずに思い切り剣だの戦斧だのを振ったら、相手の盾を割るくらいの祝福(もん)じゃないか」


「何か問題あるか?」


「一回か二回しか効果がないもんを、そんなに簡単に配るなよ。使いどころを間違えたら無駄になるだろうが」



 ああ、だからアールテイが皇帝宮騎士団長とその側近に何か言っていたのか。

 え、俺たちにもそのとんでも祝福があるの?



「我々は皇帝宮騎士団(彼ら)とは別に、個別に祝福を頂いているでしょう。覚えていないのですか?」


「それ何時のことなんだよ、覚えてねぇよ」



 イヴの馬鹿にする言葉に腹が立つより、驚きの方が強い。個別に祝福て?



「あー、イヴさん。筆頭は気絶してる時に祝福を受けていたから、たぶん知らなかったと思います」


「えっ、皆同じに陛下の個別訓練時に、祝福についての説明と共に授かっていたと思っていました。それは申し訳ありません、イーサニテル様」


「全然、まったく申し訳ないなんて思ってないだろ、お前。そんでわざわざ嫌味たらしく『様』を付けるなよ」


「そうは言っても、貴方は上官ですからねぇ」



 困ったような表情で顎に手をあてて顔を振るなよ、絶対に上官とも思ってないだろ。


 イヴと俺を交互に見て、ちょっと狼狽えているフィダ。

 こいつ、本当に変わったよなぁ。巫女が皇宮に来る前までは、俺とアラネオがこんな風にじゃれあっていても、冷めた目で俺たちを見ながら違うなにかを見ていたっていうのに。

 いい歳したおっさんのくせに、見た目少年のイヴたちと同じように幼い行動が出てくるのは、グラテアン騎士団エクストゥルマに居た時の気分になっているのかもしれない。

 そういえば、ピスティアブが話しやすくなったと喜んでたし、面倒見がいいらしく野生児組をなにかと世話をして助かっている、とタキトゥースが言っていた。



「同じ侍従筆頭だろ、わざわざ敬称だの敬語はいらなない」


「敬語はもう癖になっているんですけれど…」


「スキエンテから、クアーケルも真っ青な野生児だったって聞いたぞ」


「ちっ、余計な事を言う」



 イヴはクアンドと話をしているスキエンテを睨むが、二人とも見事にそんなイヴは放置で笑っている。仲いいのね、君たち。



「見た目美形少年で敬語だと、周囲に侮られたんじゃないか?」


「昔は儚げに見えるせいか、クソ神官サケルドースに襲われる事がよくありましたので、身体を汚して乱暴な言葉使いでいましたよ。それに……し……」



 小っさく「全員再起不能にしてやった」とかいう呟きが聞こえてきたんだが、何人とか何をとかは知りたくないから聞いてない事にする。イヴもはっきり言いたくないみたいだから、いいだろう。



「しかし、グラテアン騎士団のときにはもうその状態でしたよね?」


「それはまあ、女神の寵愛厚い愛し子集団で野生児なんて外聞が悪いでしょう? はじめは身ぎれいにして普通の口調で居たんですけど、あいつらが子供扱するものだから…」



 と、再びクアンドとスキエンテを睨むイヴ。二人に笑顔で手を振られると、ため息をついて続けた。



「周りまで私を子供として扱うようになったので、全員をぶちのめしてこの口調に改めました」



 ぶちのめすのは、まあ分かる。舐められないために敬語にする意味が分からんわ。



「敬語で丁寧にお話しして笑うと、大概の相手は顔が引きつって謝ってきましたので。以後も忘れられないようにと敬語を使っていたら、癖になりました」



 それは綺麗な顔で凄まれたから怖かっただけで、言葉使いの問題じゃない気もする。が、これは言わなくてもいいな、うん。



「あの、イヴさん」


「何でしょう、フィダ次席」


「筆頭はイヴさんと砕けた会話をして、仲良くなりたいと思っているんですよ」


「おやまあ、たくさんの人に慕われて仲がいい友人もたくさんいらっしゃるのに」


「その中に、おなじ侍従の筆頭は居ないじゃないですか。イヴさんと巫覡付きの侍従あるある話で盛り上がりたいんじゃないかな。ほら、筆頭は神殿長に隠されて育ってるから、小さい頃は同世代の知り合いも居なかったし」



 バレてる!? フィダに、ちょっと寂しんぼの俺の少年期がばれてるじゃないか!

 フィダは一応気を使って俺に聞こえないように、ごくごく小さな声で話してはいるが、俺は耳がいいんだよ。ばっちり全部聞こえたから。

 誰だ、こいつに余計な事教えたやつ…… って、じっ様かぁああああ!


 アグメサーケル陛下を拝むじー様の後ろで、じっ様がいたずらっ子のようにニヤリ笑いを浮かべている。

 可哀想な子を見るような表情のイヴとフィダを前に、居た堪れない感情が湧き上がり居心地が悪くてしかたない。


 一部の人々、俺たちにはと限定されるが、締まらない出立式の後も締まらない見送りは続いている。

 フランマテルム王国へ行かないという選択は無いんだが、こいつ等と行くのが嫌になってきた。


 恥ずかしいんだよ、お前らこっち見んな。

 

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